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何を見ても何も思い出せない

 線路の向こうに見える海はあなたにとっては大事な思い出かもしれない。

 だけど私にとってはそれはただの海でしかなく、もっとハッキリ言えば塩の入った水でしかない。

 昔のある作家は何を見ても何かを思い出すって小説書いたけど、人間ってそんなに記憶力がいい動物だろうか。

 人間の記憶力なんて当てにならない。忘れまいと思っていた事を平気で忘れてしまう。今あなたを思い出そうとしても髪型と面長の輪郭しか思い出せない。やがてあなたの顔は私の中でただの楕円形に変わってゆくのだろう。

 あなたはあの時君のことはずっと忘れないって言った。だけどごめんなさいね。私すっごく記憶力が悪いの。残念だけどあなたのことなんてすっかり忘れちゃったわ。

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