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秋(空き)時間さんの世界文学案内 第三十八回:大いなる遺産 チャールズ・ディケンズ作

 私はずっと父とは疎遠であった。だが父が重い病に倒れたと聞いとき私はいても立ってもいられず実家に飛んで帰ったのだ。といっても急に父への愛情に目覚めたわけではない。お恥ずかしいことだが父の遺産が目当てだったのである。父は地主で大いなる遺産を持っていた。その遺産さえあれば今の生活を立て直すことが出来ると思ったのだ。私は父が生きている間精一杯尽くした。彼のうんこの処理までした。親族はそんな私を見てようやっとあなたも改心したのねと涙ぐんでいたが、私の目的はあくまで父の財産であった。財産のために誰もやりたくないうんこの処理や入れ歯の掃除などをしたのである。それからまもなくして父が死んだので、私はさっさと亡き父の葬式を済ませると、すぐさま役所で遺産相続の手続きをした。その翌日突然見知らぬ男が訪ねてきた。彼は何の用かと尋ねる私に向かってこう言った。

「え~っと。あなたがお父様の相続人になったのですね。もうわかっていると思いますがあなたのお父様は風俗代やらギャンブル代やら株土地とかの投資の失敗やらで大いなる借金をこさえてましてな、今すぐ耳を揃えて返してほしいんですわ!親族の皆さんも誰も家とは関係ないって言ってもう諦めかけてたんですが、いやあありがたい!長い間消息不明だった息子さんが帰ってきてくれてこれでやっと貸した金戻りますわ!」



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