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幼なじみ

愛の言葉を伝えたい。その一心で和也は聡子を付け回していた。これだけつけ回せば僕の気持ちは痛いほど伝わるはずと彼は思ったのだった。聡子を思い出すたびになんだか泣けてくる。幼い頃に親に引き離された僕と聡子。なぜひきはなされたのか理由さえわからない。両親にどうしてと問うことも出来なかった。だけど今こうやって再会する事ができた。聡子……そう呼んでもいいかな。聡……と呼びかけようとしたとき、前を歩いていた女性が振り返った。和也は緊張のあまり唾を飲み込んだ。女性は言った。
「あの、さっきからなんで人の後ろについてくるんですか?いい加減にしてください!」
和也は目をつぶり息をゆっくり吐いてこう言った。
「いえ、あなたじゃなくてあなたのペットの犬をつけてたんですよ。その子僕が子供の頃にウチに連れて帰った犬で名前も聡子ってつけたんですよ。だけど両親が犬は飼えないって言ってどっかに連れてっちゃったんですけど、いやよかったぁ〜!ちゃんとした人に引き取られて!聡子僕を覚えているかい?」
和也がそう言って涙を流しながら犬に手を差し出そうとしたときだった。犬は思いっきり吠えながら和也の手にかぶりつき、聡子!酷いじゃないか!と泣き出す和也に小便をかけたのだ。それから犬はこの気持ちの悪い男に本気で怒った飼い主に引っ張られてその場を去っていった。

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