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レコードディガー

 クソみたいなコロナの流行のせいで俺は超不機嫌だ。なぜならレコード屋がみんな閉まっていて、俺の命を支えてくれるレコードが買えないからだ。最近はインスタなんかでレコード屋に行ってレコードのジャケの写真だけ撮ってブツも買わずに店から出て行くバカ女がいるらしい。ふざけんじゃねえよ!お前らなぁ、饅頭の皮すら食べねえで袋の写真撮って喜んでんじゃねえよバカ!そのレコードにはなぁ、あんこ以上に美味い音源が詰まってるんだぜ!
 チッ、なんかムカついて余計なことを書いちまったぜ!今回は、俺がレコードをディグりまくったエピソードを語りたいと思う。お前らビビるんじゃねえぞ!

 俺らレコードディガーは日々情報収集は欠かさない。レコード屋の店長と顔馴染みになって店の裏からとっておきのレア盤をいただくなんてしょっちゅうだ。ディガーにはコミュニケーション能力は必須だ。でねえとレア盤は他の連中に取られちまうからな!だからディガー達はいろんなつてを使ってレア盤の入荷情報を手に入れる。そうして俺はレコード屋を回ってレコードをディグっていたけど、俺はその時大変な情報を手に入れた。なんと新宿の某レコード屋が閉店セールをやるってことを聞いたんだ。俺はあんなでっかいレコード屋でも潰れるんだなとセンチメンタルな気分になったが、それよりもレア盤大放出するかもしれないと期待の方がデカかった。だから俺は閉店セールの日の朝4時に店の前に並んだんだ。

 やっぱりというかなんというか俺みたいなことを考えてる奴はいて、すでに何人かレコードの前にたむろってた。そんな俺らに酔っ払いが声かけてきてアイドルのサイン会でもあるんですかぁ〜!とか抜かしやがるから俺らはブチ切れて「ブチ殺すぞコラー!」と凄んでやったら酔っ払いはひいぃ!アイドルオタクって意外に暴力的ダァ!とかほざいて逃げて行きやがった。
 俺らレコードディガーはディグり中は戦闘状態だが、普段は普通に会話する。おまうどんなの聴いてるの?いまはレアグルーブだよとか共にディガー同士の会話は止まらない。この間お茶の水であれを見つけてさぁ〜!俺は渋谷だね。とかわからない奴らにはわからない会話で盛り上がるんだ。
 ディガー同士そうやって話し込んでると時計はいつの間にか開店時間の11時5分前になってた。俺らは戦闘準備と皆黙りまっすぐレコード屋のシャッターを見つめた。早く開けよ。早く俺をレア盤に会わせろよ。俺らディガーは祈るような気持ちでシャッターが開くのを待つ!開いた!俺らディガーは一目散にレコード屋に向かって走る!オラどけやコラーッ!このレコードは俺のもんだ!僕のもんだ!俺らはディガーはお馴染みの高速Dropをやって店員に「トントンやめて!」と怒られまくるが、誰も知ったこっちゃねえ!みんな目を充血させながらレコードをディグリまくる!そうしてディガー全員で掴んだレコードはあの伝説の……アイドルプリリンの『プリリンハートマジック』だった!これは伝説のアイドルプリリンが自主制作で出したレコードシングルだ!世の中にだった30枚しか作られてない貴重なレア盤なんだ。レコードを前に俺らみんな目を血走らせている。畜生!俺が手に入れたんだぞ!ウルセー!みんなほぼ同時に取ったじゃねえか!喧しいバカどもそんなんだったら今からオークションやろうかぁ?それじゃ金のないやつは不平等だろが!
 みんながそう口々に喚いてる間俺はどうすればいいか考えやっと答えが見つかった。だから俺はみんな聞け!と大声で叫んだ。それでみんなが静まった時に俺はゆっくりこう言ったんだ。
「みんなジャンケンしないか?」


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