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伝説の渋谷系バンドが復活したのだが

 Five Guitarはお洒落な音楽通には今更説明不用だが、ダサい田舎者の君たちにわざわざ説明あげると彼らはかつて一斉を風靡した渋谷系の中で一番お洒落でトンガっていたバンドであった。Five Guitarは五人組のバンドで、渋谷系全盛期には武道館をソールドするほど人気があっだものだ。その音楽性は世界中のありとあらゆるお洒落なサウンドを詰め込んだスタイルで、歌詞もお洒落であり、それに輪をかけてバンドのファッションがとんでもなくオシャレであった。「ダサいやつビルから放り投げて、そうしたら君もお洒落になれるから」とは彼らの代表曲『オシャレ!オシャレ!オシャレ!」の歌詞だがこの歌詞そのままに彼らはお洒落に生きた。インタビューのお洒落に尖りまくった発言は今でも語り草だ。「ダサいやつには生きる資格がないんじゃなくて生まれる資格すらないんだよ」「いぢめなんてダサい奴がやるんだ。お洒落なやつはいぢめなんてやらないぜ!」「ダサいやつは勿論シカトさ。ダサいやつと会話するとダサい菌が感染るからね」「みんな友達さ。ダサいやつ以外はね」こんな刺激的な、今では間違いなく問題になる発言が雑誌を読んだリスナーは自分がダサいやつ扱いされないように心を引き締めたものだ。

 しかし渋谷系も下火になり、いつまでもお洒落にこだわる彼らは時代遅れになってしまった。彼らの音楽は元々通向けのもので、わかる人にしかわからないタイプの音楽性だったからミーハーな連中はすぐに彼らの元から去ってしまった。バンドの人気は急降下し、お洒落を求めるあまり音楽性も迷走しはじめて彼らはとうとうバンドの解散を決意した。

 そしてバンドは渋谷のクアトロで解散ライブをしたのだが、そのライブは伝説として語り継がれている。彼らはもうバンドの統一性を無視して各々のお洒落を決め、MCも服とか腕時計とか靴のことしか語らなかった。俺たちは一生お洒落を極めてやるぜ!とかお洒落な事しか言わずそして曲も代表曲の『オシャレ!オシャレ!オシャレ!』は勿論、『お洒落になるための100の方法』『女王陛下のお洒落ファイブ』『お洒落は夜の七時』等選りすぐりのお洒落曲しかやらなかった。お洒落にキメた彼らは演奏そっちのけで自分の担当楽器でいかにかっこよく決めるかだけに熱中し、とうとう曲を演奏することすら放棄し、知り合いのカメラマンや映像ディレクターをステージに上げてカッコつけた自分たちをひたすら撮らせまくったのである。そのライブを観たとあるライターはこう書いている。
『ここまでお洒落にこだわるバンドは見たことがない。彼らはバンドなのにライブ中ろくに演奏もせずにずっとお洒落にカッコつけていた。渋谷系と言われるバンドは沢山いるが、本当に渋谷系と呼べるのは彼らだけだ』

 その後Five Guiterの名はしばらく忘れ去られていたが、渋谷系のリバイバルとともに彼らの名がネット中に頻繁に流れるようになった。その再評価ブームの真っ最中に伝説の渋谷系バンドFive Guiterが今突然復活したのである。バンドは各媒体に復活のコメントを載せたのだが、昔からのファンはそのメッセージのお洒落な尖りぶりにやっぱり変わってないぜと興奮し、彼らを知らない若い世代はこのお洒落に過激なコメントをするバンドに注目してTwitterでは Five Guiterの名がトレンドとなってしまった。その話題になったお洒落に尖った過激なコメントとはこちらである。
『ダサい奴らを養豚場にぶち込むために戻ってきた。オレらがもう一度東京をお洒落天国にしてやるぜ!』
 そして続けて復活ライブのアナウンスが出ると昔から彼らを追いかけていたお洒落な連中と彼らを初めて知ったお洒落志願者の間で果てしないチケットの争奪戦が繰り広げられた。Five Guiterのライブをチケットを手に入れる事は自分がいかにお洒落であるかをアピールする絶好の機会だった。Five Guiterのチケットを手に入れた彼らはチケットを手に入れるとここぞとばかりTwitterや Instagramにお洒落な格好でチケットを持つ自分の写真をアップしまくった。彼らにとってはFive Guiterのライブのチケットを手に入れた事は自分が世間にお洒落だと認められた事と同じであった。チケットはヤフオクやメルカリで違法なほど高値で販売され、手に入れられなかったものが、悔しさのあまり警察に転売屋から買うなんてお洒落じゃないと通報する事態にまでなった。

 さてこうして世間が騒いでいるうちにいつの間にか復活ライブの日がやってきた。チケットを手に入れた観客は各自異様なまでにお洒落に凝った格好でライブ会場にやってきた。皆往時のFive Guiterのファッションを雑誌やネットで調べて参考にして思いのままに着てきたのだ、しかし誰もが自分が一番お洒落と自負していたので開演前の会場のあちらこちらで争いが起こった。「ダセェな!そんな格好でライブなんかくんじゃねえよ!お前なんか養豚場行け!」「うるせえな!お前こそダセェくせにいきがってんじゃねえよ!」と言い争う声が会場に鳴り響いたが、会場からSEが流れると皆一斉に黙り込んでステージを見た。ステージからFive Guiterのラストアルバムの最終曲『お洒落よ永遠なれ』が流れ出した。この曲はメンバー五人の「オシャレ!オシャレ!オシャレじゃないやつは生まれる資格なし」との語りが全編にサンプリングされた渋谷系バンドFive Guiterのラスト曲に相応しい大曲だが、その曲に乗せて彼らのデビューから解散までの映像が荒いモノクロで映し出された。古くからのファンはこのお洒落ぶりに昔を思い出して歓喜し、また新しいファンは初めて見るバンドのお洒落すぎる姿に衝撃を受けていた。バンドはライブの前日にSNSでコメントを出して「明日はびっくりさせてやる。過去のオレらとは全く違うオレらを見せてやる」とのコメントを載せていた。果たしてどんなお洒落を見せてくれるのだろう。きっと彼らのことだからきっと自分たちが考えもつかないお洒落ぶりを披露してくれるに違いない。彼らは解散してからずっと世間から身を隠してお洒落ぶりを極めていたに違いない。観客は固唾を呑んでバンドの登場を待った。

 バキューンとB級アクション映画のSEが鳴り幕が降りた。観客は一斉にバンドがどんな格好をしているのか見るためにステージに押し寄せた。ああ!やっと憧れのFive Guiterのお洒落ぶりが見れる!やっと……と皆ステージを見上げてバンドの格好を見て唖然として棒立ちになった。

「ハハハ!見たか!これが今のお洒落のキモオタファッションだ!お前らなんでそんなダサい格好してるんだ?今はアキバが主流だろ?お前らいつまで経ってもお洒落なオレらにはついてこれないんだな!じゃあ新曲やるぜ!『お洒落キモオタインアキバ』!」

 ステージにいたのはかつてのお洒落すぎたFive Guiterのメンバーではなく、ハゲかけた油まみれの頭を照らしたデブのキモオタの格好したジジイだった。ジジイどもはステージで豚のように呻き声をあげてヲタポーズをとっていた。客はこんなキモオタのジジイのライブのためにお洒落しまくった自分が馬鹿馬鹿しくなりステージの自分が着てきた服をぶん投げて叫んだ。

「お前らダセェから今すぐ養豚場で解体されて来い!」



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