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告別式

 告別式が終わりすでに出棺の準備に入っている中、故人の生前の友人達はまだ来ぬ参列者を待ちわびていた。そんな彼らに葬儀屋の者たちは早くしないと時間がとせっついていた。友人達は葬儀社の者にもう少しだけ待ってくださいと言ったが、もう時間の限界だった。彼女はやはり来ないのだろうか。友人たちは生前故人から彼女が唯一愛した女性だったという事を度々聞かされたのだ。彼女と故人は幼なじみで、しかしとある理由で引き離されたと故人は彼らに何度も話していた。時折故人は目に涙まで溜めて彼女について語り尽くしていた。しかし彼女は来ない。故人の葬儀を自分たちで執り行うと決めたとき、友人たちは彼女も葬儀に呼ぼうと、故人が出そうとしてテーブルの上におきっぱなしになっていた手紙から彼女の住所を見つけて、葬式の案内状を出したのである。故人が生前出しそびれた手紙には宛名がこう書かれていた。『聡子へ』

 もう待てないと、葬儀屋が言ってきたので友人たちは諦めて出棺しようと決めた時であった。一台の車が駐車場に入ってきて、そこから犬を抱き抱えた一人の女性が降りてきたのである。友人たちは慌てて彼女に駆け寄り、あなたが聡子さんですか?と言った。聞かれた女はあ……あのと言葉をつまらせた。すると葬儀屋が申し訳ありませんがペットを連れて中に入らないでくださいと女に注意してきた。女は葬儀屋の注意に戸惑い故人の友人たちを見ながらそんな事おっしゃられてもと呟いた。友人たちは葬儀屋のあまりの挟量さに呆れ果て割って入って葬儀屋に言ったのである。
「この人は故人が生前誰よりも愛した人なんです!犬ぐらいどうだっていいじゃないですか!さぁ、彼女をアイツに合わせてくださいよ!これが最後の対面なんだから!」
 葬儀屋はしぶしぶ女性の入場を認め、そして故人の友人たちの勧められるままに記帳をした時である。友人たちは女性の名前が聡子でない事にビックリし彼女に尋ねた。記帳にこう書いてある。
『戸村佳苗 ポチ子』
 彼女はすべての真相を話した。

 式場の中央に置かれた棺桶に女性は犬を抱えて近づいていく。それを後ろから見守る故人の友人たちは一斉に泣いていた。何でアイツあんなバカな事を!お前は究極の大馬鹿野郎だ!と彼らは泣きながら口々に呟いた。そして女性が棺桶の前に立ち何故かペットの犬を見せた瞬間であった。いきなり棺桶の中から死んだはずの故人が起きて犬を抱きしめて来たのである。これには一同騒然とし式場は阿鼻叫喚に包まれた。死んだはずの故人は犬を抱きしめてこう喚いていた。
「聡子ぉ〜!やっと僕のところに帰って来てくれたんだね!これからはずっと一緒だよ~っ!」
 女性はアアーッ!と叫ぶと友人たちに助けを求めた。
「さっきも言ったでしょ!この人は生前ずっと私のペットをつけまわしていたんです!子供のころ聡子とかいう名前つけて飼ってだとかなんとか言って!さぁあなた達も突っ立ってないであの化け物からポチ子を助けてくださいよ!」
 しかし友人たちは突然起き上がったゾンビみたいに蘇ったこの化け物にどうしていいかわからない。すると化け物に抱きしめられてた犬が暴れ出し、その腕を振り解くと、化け物に飛びかかり化け物を再び棺桶に沈めて、それから化け物のおでこに大量のウンコを漏らしたのだ。そしてそのウンコの上に小便を振りかけて化け物が動かなくなった事を確認するとキャンキャンと吠えて女性の胸に飛び込んで行った。
「大丈夫〜ポチ子〜っ!ごめんねぇ〜!あの人ポチ子に嫌われたショックで栄養失調で死んだっていうから責任感じて葬式に参列した私がバカだったわ!バカは死んでも治らないって言うけどやっぱり本当だったわ!」

 友人たちは女性と犬の去りゆく後ろ姿を見送ると、葬儀屋にウンコ塗れの棺桶を指して言った。
「早くこれ燃やしてください」


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