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人生は迷路のように

 いつだってそうなんだ。いつもいつも迷ってしまうんだ。目指すところに今すぐ駆けつけたいのに、いつもあさっての方に行ってしまうんだ。人生は迷路ってことは長く生きていればわかる話さ。でも、そんなこと言われたって慰めにもならないよ。今いるこの場所さえどこだかわからない。自分さえ見失ってしまいそうなんだ。僕は今どこにいるんだろう。そしてどこに行けばいいんだろう。神様教えてくれよ、僕は今どこにいるんだい?そして僕はどこに行ったらいいんだい?だけど当然奇跡なんて起こるはずがない。イエスが蘇るように神が突然現れて全てを教えてくれるはずなんてない。だけど僕は歩かなくちゃいけない。自分の現地点さえわからず、向かうべき場所も見失っても僕はただこの人生という長い迷路を歩いて行かなくちゃいけない。そうして歩き続けたら一生迷路から出られないかもしれない。そして何もかも見失ってしまうかもしれない。だけど僕らはただ歩く。目の前にあるのはいつも見慣れた無機質な白い壁。昨日も見た冷たい壁。そんな壁を毎日見続けていると過去の記憶さえ真っ白になってしまう。幼い日の夏祭りの金魚すくい。運動会の徒競走でとった一等賞。初恋の女の子に書いたラブレター。初めて女の子と過ごした夜。そんな出来事が真っ白に塗り替えられてゆく。昔過ごした町の風景は今はもう朧げで、いたるところに霧がかかってしまっている。こうして人は全て忘れてゆくのだ。今、僕があの町に帰っても何も思い出せないだろう。僕はそこに自分の見知らぬ町しか見ないだろう。だけどそれでも僕らは進まなくちゃいけない。人生は迷路。自分の現地点がわからなくても。自分の行先もわからなくても。ただ僕は進まなくてはいけないのだ。

「あの、あなた。もしかしてまた迷ったんですか?昨日もビル内で迷ってましたよね。いい加減自分が働いている会社の場所覚えてくださいよ。あなたの会社は6階の、エレベーター降りて左!」

「いつもすみません。私生まれながらの方向音痴でいつも道に迷ってしまうんです。なんか自分さえ見失ってしまうような状態になってしまって。それで質問なんですけど、うちの会社なんて名前でしたっけ?」


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