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演歌デュオソロ活動する

 人気演歌デュオ勝男と珊瑚はデュオとして一旦活動を休止してしばらくはソロ活動することにした。デュオとしてだんだんマンネリになって来たし、チケットも売れなくなってきた。このままデュオとして活動を続けたら未来はない。二人は長い議論の果てそう結論を下した。

「だけどこれで俺たちが終わるわけじゃない。いわばこのソロ活動は俺たちの修行期間なんだ。俺たちが演歌歌手として一皮も二皮も剥きにむけるいい機会なんだ。一人で日本中を行脚すれば二人では得ることのできなかった新たな発見があるかもしれない。だから珊瑚、しばらく一人でやってみよう」

「勝男、あなたの気持ちはわかったわ。私も一人でどこまでいけるか確かめてみたい。全国津々浦々を回って私演歌歌手として成長してみせるわ」

 こうして二人は早速ソロ活動を開始することになった。勝男は北風勝男のソロ名で『網走人情冬景色』を出し関東から北海道をどさ回りをした。どさ回りは決して楽なものではなかった。北国の冬の厳しさ。裏社会との切り離せぬ絆。愛した女の裏切り。辛酸を舐めるたびに彼の歌は渋みを増していった。彼のビブラートは観客に涙さえ流させた。もうデュオなんかやめてソロだけでやったらという声さえ出てくるほどだった。

 一方珊瑚はソロ活動にあたって芸名を何故かローマ字表記のSANGOにした。彼女は勝男とは逆に南を目指したが、行きすぎてグアムまで行ってしまった。そこでアメリカの黒人男と出会って激しい恋に落ちた。今まで味わったことのない肉体的な愛にのめり込んだ彼女はヒップホップの世界にディープにはまりこんでしまった。黒人男は彼女をディーヴァと持ち上げアメリカに一緒に行ってしまった。

 そして一年後である。勝男と珊瑚はとうとう活動再開を発表し、早速記者会見をすることになった。記者会見に詰めかけたマスコミは勝男と珊瑚のあまりの違いに空いた口が塞がらなかった。勝男はもう五十男にしか見えないほど老け込み、逆に珊瑚は以前より遥かに若々しくなりヒップホップよろしく机に両足をどかっと乗せていた。会見の対応も真逆であり、勝男が殊勝にもこれからも皆様の期待に答えてがんばりますと答えているのに対し、珊瑚はYO!YO!アタシらが演歌なんて辛気くせえもん変えてやるYO!とガムを吐き捨てながら挑発的に言い放っていた。

 記者会見の最後に二人は新曲『日本の慕情』を歌った。勝男は人生を噛み締めまくった声で歌ったが、珊瑚の方はアメリカで学んだラップスキルで勝男をディスり始めた。勝男はそのディスりに耐えてどうにか最後まで歌い切ったが、しかし耐えきれず、歌い終わるなりマイクを叩きつけ珊瑚を指差して叫んだ。

「お前それで一皮剥けたつもりか!バナナの皮じゃねえんだよ!」

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