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全てをセリフで説明してやるぜ!

「校門に入った時だ。僕は君を初めて見たんだよ。その時ちょっとスカートが捲れたりしてさ。君の太ももが露わになったんでドキドキしたよ。その日はずっと君の事考えてた。お昼に弁当食べてる時も君の顔と太ももがチラついて呆けた気分になったんだ。他の女の子を見てもこんな気持ちになった事はない。この体を駆け巡る熱い高揚感はなんと言っていいか、いや、ハッキリ言ってこの感情は、この春の嵐のように僕の体に吹き付ける感情の嵐は、これはやっぱり、いや、言葉にするのはやっぱり出来ない。感情ってやつは外に出そうとすると却って引っ込んでしまう。引っ込み思案になってしまうんだ。この自分の勇気のなさにはホント情けなく思う。情けなくて涙が出てくる。ハッキリ言えばいいのに。どうしてなんだろう。どうして僕は結末を避けてしまうんだろう。何にもしなければ何も始まらないのに。胸が激しく波打つ。まるでビッグバンみたいに。胸が波打つたびに僕はこのまま死んでしまいたいと思う。君に拒否されたら僕の人生に終止符が打たれてしまうような気がするから。ごめんよ。さっきからずっと同じ話してるね。まるで感情の堂々巡りみたいに延々と。でもしょうがないんだ。僕はこんなやつだから。意気地がなくってただこうして無駄話して、いつも大事な事を遂に言えずに終わってしまうんだから。切ないよ。僕は切ないよ。ご覧空から桜が降ってきたね。あの桜は毎年咲くけどその下でこんな風に二人並んで……ああ!ダメだよ。躊躇いがまたやってきてしまうんだ。躊躇い?僕はどうしようもなく不器用だ。躊躇いなんか捨てろって言われてもできないんだよ。僕は結局自分可愛がりのダメ人間なんだ。僕らの前を歩いているあの二人連れ。僕は彼らが羨ましいよ。いつも彼らみたいになりたいって……」

 康年が長々とこう話しているのを聞いて夏菜子は思わずあくびをしてしまった。夏菜子は康年に向かって塾があるからお話はこれで終わりにしようと言った。康年はそうかと言ってまた話し始めた。

「塾かそれが君の答えなんだね。君の言葉は僕の心臓に深い切り傷をつけた。この痛み。絶対に消えないよ。いや、消したくないよ。君につけられたトラウマという大きな切り傷。引っ掻き毟りたくなるようなべったりと貼りついた切り傷。この傷を忘れるために僕はどれだけこの人生という不毛な道をあゆまなければならないのか。君のない人生とは太陽のない地球だ。自転は止まり、地は凍る。人は石となり、風に吹かれて塵と消えてゆく。これでおしまいってわけさ」

 康年はここまで話すと夏菜子を見た。夏菜子はいなかった。

「君は木の葉のように消えた。僕の世界から、逃げてしまうように……etc」

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