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優等生と劣等生

 慎二と里美は小学校の時から仲が良く中学を卒業した頃から正式に恋人として付き合い始めたが、二人が睦まじくくっついて歩いている姿は二人をよく知る人間から見ればどう見ても奇妙だった。

 とはいっても別に二人の格好がおかしいわけではない。二人とも普通の学生だ。だが二人の着ている制服をみると事の異様さがハッキリと分かるのであった。慎二の制服は最低のバカクラスの公立校のものでその学校は街の育ちのいい家庭からはあんなバカ高校の連中と付き合ったらこっちまでバカになると揶揄されるぐらい札を貼られまくった正真正銘のバカ高校だった。一方里美の着ていた制服は超一流。東大合格率県内ナンバーワンと言われる超名門校のものでこんな美女と野獣ならぬ。S級とZ級の二人が交際しているなどどう考えてもおかしかった。

 それは二人ともよくわかっていた。特に周りからバカ中のバカと呼ばれている慎二が身に染みて感じていた。自分が里美と交際するなど蛾と蝶の間に子供ができるぐらいおかしい。高校を卒業して里美が見事合格者の一人になったのを見て慎二は彼女に別れを告げた。

「やっぱり俺たちこれ以上付き合うべきじゃないよ。俺はバカすぎて大学全部落ちたしお前はやっぱり受かったし、これ以上俺と付き合っていたらお前までバカ扱いされる。だからもうここで別れよう」

「慎二あなたそんなに私と別れたいっていうの?結婚の約束はどうなったのよ。予備校に通って一年でお前に並んで見せる。だから二人で大学に合格した暁にはって!」

「だからその前提が無理すぎたんだよ。予備校行ってこれでもかってぐらい自分の馬鹿さ加減を思い知らされたよ。お願いだ里美。俺のことはいい思い出にしてくれ:

「わかりましたよ。別れてあげますよ。そのかわりアンタのことなんて絶対に思い出しませんからね!なにがいい思い出よ!アンタみたいなバカと別れる事ができてせいせいしたわ!」


 だがしばらくすると二人はあっさり寄りを戻してしまった。別れて数ヶ月後なんのきっかけもなくいつのまにか二人はまた付き合い出した。

 そしてそれから十数年がたった。慎二は頭の悪さが響いたのか碌な就職先が見つからず、ブラック企業でこき使われた後派遣で期間限定の仕事を転々とした。一方里美は官公庁の試験に合格し官僚となったが、数年勤めた後退職して自分で会社を立ち上げた。事業が軌道に乗り人員の補充が必要になった頃、彼女は大々的に社員募集したがその際にやるべき事があった。

 それは慎二の捜索である。慎二は里美が完全に別世界の人間になってしまい、自分が彼女のそばにいては行けないと思い詰めて別れの手紙を残して住んでいたアパートから失踪してしまっていたのだ。里美は愛する慎二を見つめるために興信所に大金はたいて徹底的に探させた。里美の金にモノを言わせた願いは叶ったのか間もなく慎二は見つかった。

 慎二は都内のドヤ街のボロにボロを極めたアパートにいた。里美は早速慎二を迎えに行ったが、彼女は慎二の姿を見て愕然とした。伸び放題の髪、窪み切った目、コケ切った頬は彼が何日も物を食べていない事をあからさまに証明していた。慎二は里美を見て逃げ出そうとした。里美はその慎二を捕まえて思いっきり引っ叩いた。

「バカ!あなたって人はどうしてそんなに自己卑下するのよ!何が里美と俺は住む世界が違うよ!私たちはずっと同じ世界で一緒に過ごしてきたのよ!子供の頃からずっと!」

「だけど俺たちはもう大人もいいところの大人じゃないか。お前も現実に目覚めろよ!」

 この慎二の言葉に大激怒した里美は慎二を歯が5本折れるほどぶん殴った。

「現実に目覚めるべきなのはアンタなのよ!私は慎二とずっと一緒にいたいから官僚をやめて会社を立ち上げたのよ!会社を立ち上げて実家より金持ちになればパパやママも私とアンタの結婚に文句が言えなくなる!そう思ってたのにアンタは!」

 そう叫ぶと里美は泣き出した。慎二は折れた5本の歯を吐き出して里美に謝った。

「お前そんな事考えていたのか。俺お前の気持ち何にも考えてなくて。すまねえ、俺なんて謝ったらいいかわかんねえよ」

 里美は土下座している慎二の顔に手を当てて自分を見させた。そして彼に言った。

「あなたは一人にしておくとすぐに自信をなくしちゃうから私の元に置いておかなくちゃダメね。あのね、今私の会社で社員を大々的に募集してるの。といってもやっぱり私の独断であなたを採用するとあとあとトラブルが起きそうだから全部人事課に任せるわ。あなたの経歴では正社員はちょっと無理だけど、契約社員だったら人事課も採用してくれると思うの。まず契約社員で入って実績を積んでいって正社員として人事課に認められるよう頑張って欲しいの。そしてあなたが部長にでもなったら……」

 さて、それから慎二は契約社員として里美の会社に入ったのだが、プレッシャーに負けてまた逃げ出してしまった。彼女はすぐに慎二を連れ戻して言った。

「仕方のない子ね!あなたは私の想いがわからないの?しょうがないわ!これからあなたは私の家政夫でもやりなさい!そうしたらずっとあなたを監視することができるわ!」


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