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突然の告白

 今、スティーブは今際の際にあった。サリーはそのスティーブの手を握りながら彼に何度も声をかけていた。

 スティーブとサリーは幼馴染だった。子供の頃からずっと一緒に遊んでいた。だからからだろうか。二人は互いを異性だと認識せず、一番親しい友人だと考えていた。スティーブは大学に進学するために街を離れる事になったが、サリーはスティーブの旅立ちを一人で見送りに来た。幼い頃両親をなくしひとりぼっちとなっていたスティーブにとってサリーの存在は友達を超えて肉親に等しかった。

「サリー、向こうに行ったら即お前に手紙を送るからな。お前も俺のこと忘れんじゃねえぞ」

「スティーブ、あんたなにほざいてんの?私があなたを忘れるはずはないじゃない。だって私たちは一生の友達なのよ」

 二人はこの時交わした会話をそれからもずっと忘れる事はなかった。二人とも自分たちの友情について度々不思議に思った事がある。どんなに強い友情で結ばれていたとしても、ここまで離れがたく思うほどの友情があるだろうか。互いを失ったら生きてはいけぬ。それほどに思う友情があるのであろうか。二人はそれはもしかしたらとふと思った事がある。だが二人ともそう思うたびに思いっきり頭を振って強引に打ち消した。やはりこれは友情なのだ。自分たちはそれほど強い友情で結ばれているのだと。

 そのスティーブが今病院で死に往こうとしていた。大学を卒業してからすぐにIT企業をたちあげたスティーブはたちまちのうちに億万長者となり、世界のセレブの仲間入りをしてしまった。スティーブの栄光はそのままずっと続くと思われていた。彼は貧乏人の醜い嫉妬と羨望を浴びながら、栄光の中で大往生を遂げるのかと思われていた。だが突然の不幸がスティーブを襲った。ある日スティーブは定期検査を受けたのだが、医師は真っ青な顔でスティーブにレントゲン写真を突き出して、指差し棒を当てながら彼の命が後半年も持たないと告げたのである。

 サリーはスティーブから余命幾許もないと知らされるとまっすぐ病院に飛んできた。サリーはドアをノックして病室に入ったがその時ベッドにすっかり痩せこけたスティーブを見たのであった。彼女はスティーブの手紙が嘘じゃなかったと知り、自分がどれほどスティーブを必要としているか悟った。今まで友情だの言っていたのは本当の気持ちを誤魔化すだけだったんだ。私はスティーブが好きだった。小さい頃に両親を亡くし親戚を盥回しにされてきた哀れな少年。でもスティーブは小さい頃から頑張り屋で、バイトで貯めた小遣いをすべて将来のために投資するようなしっかりしていた子でもあった。サリーはスティーブを見ていつもどうしてこんなに頑張れるのと胸をキュンとさせていた。

 サリーはスティーブに自分の誤魔化しではない本当の気持ちを伝えようと思った。もう恥ずかしがる事はない。こうしていつまでもウジウジこの気持ちを溜め込んでいたら私はきっと後悔する。スティーブに本当の気持ちを伝えなくちゃ。彼の意識がまだあるうちに。

 スティーブは誰かが肩をトントン叩いたので目を覚ました。目覚めると夜の病室のライトに照らされたサリーがいた。スティーブはサリーがいつもとまるで違う表情を見せていたのでびっくりした。サリー、男まさりのお前がそんな女っぽい顔見せるなんて。サリー、最期ぐらい自分に素直にならなくちゃ。スティーブはサリーに告白するために弱り切った腰に力を入れて起きあがろうとした。だがサリーはそのスティーブのくちびるに手を当てて彼を制した。そして目を潤ませながら「スティーブ……」と呟き、そして目を見開いてこう言った。

「お願いだから全財産私に譲って。今私借金で大変なの。このままいったら売春でもするしかなくなるわ」

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