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人間の性

 駅前の広場で友達を待っていた。友達は遅れているらしく時間になっても来ない。今LINEを見たらやっぱり遅れるとのメッセージがあった。夜の広場は昼間とは全く変わっていた。昼間は昼食を食べる会社員と家族連れが大半なのに、今はなんだか怪しげな男女たちが屯っていた。みんな棒立ちで辺りをキョロキョロ見回している。私はひょっとしたらここはトー横的なものなのかと思ってゾッとした。

 ああ!あの子どうしてこんな所待ち合わせ場所に選んだのよ!こんなんだったら直接映画館の前にしようって言っておけばよかった。何が「レイトショーには時間あるから駅前のレストランで食べてからいかない」よ。おまけに遅れるなんて!私はLINEで友達にまだとメッセージを送った。すると友達は乗客が急病人が出たからしばらく電車が止まるとか返してきた。電車は確認次第すぐに出発するらしい。私はそれを読んでもう少し待ってそれでも来なかったら映画館に行くからとメッセージを送った。

 私はそれからしばらく友達を待っていたけど、その間なんとなく広場の男女たちを眺めていた。広場の隅にいた男が女に近づいて話しかけはじめた。短いやり取りのあとで男は女から離れた。どうやら交渉は失敗に終わったようだ。また噴水の近くにいた女が近くの男に話しかけていた。彼女と男はどうやらウマがあったようだ。二人の笑い声がこちらまで聞こえた。二人は肩を組んで噴水から歩き出す。そして私の前を通り過ぎたが、二人の顔が今まで見たことのないほど欲情むき出しの顔をしていた。

 私は広場で屯っている人たちを見て人間の性というものを思った。この汚れ切った連中も私たちと同じ人間だ。連中も私たちも欲望に突き動かされている。だけど私たちのようなまともな人間は連中ほど簡単に欲望の実現に向かう事はない。だけど連中の中にだって普段はまともに生きている人間はいるはず。そんな連中もこういう場では自分の中の欲望を容易く解放してしまうのであろうか。

 そんな事を考えていたらいつの間にか十分以上経ってしまっていた。私はもう我慢できないと思い友達に映画館で待っているとLINEを送ろうとスマホを手にしたが、その時誰かの気配を感じて顔を上げた。私は友達かと思いやっときたのかと遅いと文句を言いかけたが、相手の顔を見てギョッとして口を閉じた。

 私の前にいたのは友達じゃなくて知らないオヤジだった。オヤジは充血した目を瞬いて私をガン見していた。なんか体まで震わせている。体から欲望が充満して漏れそうって感じだ。よく見たらこのオヤジどっかウチの会社の上司にどっか似ていた。アイツいつも妙に絡んで組んだよね。私があしらってるだけだって気づかないでさ。ああ!ムカつくなんかゲロ吐きそう。私はオヤジをキツく睨みつけて追返そうとした。だけどオヤジは私をガン見したまま動かない。とうとうオヤジが私に声をかけてきた。

「あ……あの」

「なんですか!」

 思いっきり跳ねつけてやった。こんなにピシャリと言われたらどんなオヤジも逃げ出すだろう。私はオヤジ連中とトラブルがあった時よくこうやってオヤジたちをビビらせている。だけどそれでもオヤジは逃げないでなんか泣きそうな顔で私を見ている。私は頭に来てもう一度問いただした。

「なんですかっ!用件があるならさっさと言ってください!」

 私がこう凄むとオヤジは体をプルプル震わせてさっきみたいにモゴモゴ言い出した。

「あの……あの」

「あのじゃわからないでしょ!ハッキリ言いなさいよ!」

 するとオヤジは突然絶叫して股を窄めて言った。

「あのお願いです!今すぐトイレどこにあるか教えて下さい!駅まで持ちそうにありません!ああ!もうダメだ!ああ!漏らしてしまう!」

 突然あたりに異臭が漂った。あまりに臭すぎて鼻が折れそうだ。オヤジは泣き喚き涙と一緒にいろんなものをボトボト垂らした。

「ああ!ごめんなさい!あなたのハイヒールを汚してしまって!」

 広場に屯っていた連中は一斉に逃げた。当然私も逃げようとした。だけど周りが排泄物だらけで逃げようにも逃げられない。オヤジはお詫びのつもりか排泄物に塗れた手で私のハイヒールを拭おうとする。私はこのクソオヤジがとオヤジを蹴り倒す。私はどうしていいかわからずただ絶叫する。するとそこにやっと友達がきたではないか。私は彼女に助けを求めた。助けて!私をこのクソオヤジから救い出して!

 だけど友達は全力で私をガン無視してスタスタ逃げ出した。私はこの裏切りに唖然として叫んだ。

「お前友達を見捨てるのかよ!」

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