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十五少年青春漂流記 ボーイズラブを見つめて

 今女性たちに非常に人気のスマホゲームに『十五少年青春漂流記』というのがある。このゲームはプレイヤーが女教師となって十五人の美少年揃いの男子高校生を指導して行くという内容の育成シュミレーションゲームだ。ストーリーは分岐性となっており、主人公は彼らとコミュニケーションをとっていくのだが、この十五人の誰かと関係が深まっていくと恋愛に発展することもある。そこが女性たちに人気の理由だが、もう一つ人気の理由があり、それは会話の選択の結果生徒たちがボーイズラブになってしまう事があるからだった。が、当然スマホの課金ゲームなのでお金なしには恋愛関係までいけなかった。しかしそれでも女性たちは財布に相談などせず独断専行で万単位の金額を生徒たちにぶち込んだのだった。

 神楽さとみは今電車の席で『十五少年青春漂流記』をプレイしていたが、そのスマホに隣のブサイクなジジイの顔が映っていたのを見て思わず顔を上げて隣を見た。ジジイはそのキモい顔を慌てて背けて自分のスマホを見た。神楽はそれを見て見せつけるように思いっきりため息をついた。

 彼女はこのゲームにハマってから現実の全てのものを激しく嫌悪するようになった。彼女の生活は『十五少年青春漂流記』で出来ていて、仕事以外は全て十五少年青春漂流記だった。朝起きるとスマホでおはようと生徒たちに挨拶し、お昼になるとこんにちはと生徒たちに挨拶し仕事が終わるとこんばんはと生徒たちに挨拶し休みの日は一日中生徒たちと戯れていた。

 彼女は隣の男を見てあらためて思う。はぁ、現実なんか最低だ。このゲームをやり始めてから現実の醜さがホントに嫌になってきた。恋愛も何もかも全てが醜い。ああ!もうずっとこのハイティーンのボーイズの指導していたい。ここには、このボーイズには純粋さしかない。ねえ、跡辺光雄くんあなたもそう思うでしょ?

 跡辺は神楽のお気に入りの生徒だった。生意気で嫌味なヤツだけどどこかに純粋さをもっている。彼女は彼とは結構深い関係までいったがこの先どうすればいいか迷っていた。神楽はこのゲームをずっと無料でやっていた。それは彼女がお金がないとかいう事ではなく、お金を払ってしまったら私たちの純粋な関係は終わってしまうという彼女の潔癖さが理由であった。しかしお金を払わなかったら自分たちの関係はここから先には進めない。彼女はゲームをしながら悩んだ。

 そんな神楽に突然跡辺光雄が先生俺のこと嫌いなんだなとか言ってきた。彼女は跡辺のこのセリフを見てとうとう運営が自分に課金を迫ってきたと考えた。とうとうきたかこれでもう終わりなのか。だが彼女は一部の望みを持って跡部に告白した。

「跡辺くんあなたが好きです。私と付き合ってください」

 ゲームでは選択しかできない。彼女の跡辺に対する溢れる純粋な思いはこんなテンプレート以下の言葉しか出てこない。だが跡辺は悲しい表情でそうかと答え、そして深刻な顔で「実は黒峰のことも好きなんだと答えた。神楽はこの跡辺の言葉に衝撃を受けた。黒峰は生徒の一人でどちらかといえば跡辺と仲が悪かった人間だ。二人はそんな関係だったのか。跡辺は泣きそうな顔で俺にはどっちも選べない。だから思いの強い人を選ぶしかないんだ。と叫んだ。そこで画面に『跡辺を救うのはあなただ』とポップが出てきた。

 彼女は部屋の中で悶え苦しんだ。彼は私に課金を迫っている。でもそうしたら私たちの関係にお金が絡んでしまう。それだけはどうしてもできない。結局恋愛なんてフィクションでも現実と同じなんだ。恋愛の後に結婚が来るとそこにファンタジーの入る余地なんてない。私今までゲームに夢を見過ぎでた。現実じゃ叶わない事をゲームでは実現できると思ってた。ごめんね跡辺くん。私あなたとこれ以上一緒にいけない。黒峰くんと幸せになってね。

 神楽はさようならと跡辺に言い残してゲームを閉じた。さよなら跡辺くん。

 その数時間後神楽はやはり言いっぱなしは良くないと思い正式に別れを言いたくてスマホのゲームを開いた。するといきなり死にそうな顔の跡辺が出てきてこう言った。

「黒峰のヤツがお前には思いの深さが足りないなんて言いやがった。それがお前の愛なのかってさ。どうしたらいいんだ俺。このままじゃ俺ずっとひとりぼっちだよ。誰にも愛されず孤独に生きるしかないんだよ!なぁアイツに俺の思いの深さをどっやったらわかってもらえるんだ?」

 再び画面に『跡辺を救うのはあなただ』とポップが出てきた。神楽はそれを見て叫んだ。

「ああ!どうしたらいいの?どうしたら跡辺くんを救えるの?やっぱり課金するしかないの?課金、課金!このまま課金しなかったら跡辺くんは死んでしまう!そうならないためには課金するしかない!私のことなんかどうでもいい!ただ彼と黒峰くんを幸せにする事ができたら!」

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