ナツメユキ

昨年 詩集を出しました。 図らずもH氏賞候補にも選んでいただき、感謝です。 ここでは自…

ナツメユキ

昨年 詩集を出しました。 図らずもH氏賞候補にも選んでいただき、感謝です。 ここでは自由に詩を書きたいと思って理ます。

最近の記事

ばちあたりなレジリエンス

死にたいと神様への脅迫の言葉を吐いて ばちが当たるよとTwitterで諭された夕暮れ 黒い手袋が死にゆく猫のように見えて 誰もいない駐輪場で足を止めた なけなしの千円を出して高級食パンを買って スタンドを立てたままの自転車にまたがった ペダルを漕いで 漕いで漕いで 食パンをむしって 口に押し込む ぎゅむ ふかふか ぎゅむ ふかふか 声を涙を そのやわらかくほのかな甘みに吸わせて パンは誰の体の象徴だったかしら 足が勝手に動き出す パンを踏んだ娘は小鳥となった 私は平気

    • 大骨小骨を拾って

      アニメキャラに投げ銭して 課金システムに飲み込まれていく 低年齢化した受験生は 母親の持たせた弁当を自習室でひらく リピートもしくは言い換えの妙なる調べにのせて 納得する回答を得られませんでした ハラスメントと声高に叫ぶハラスメント 誰かに背中を蹴られながら 嘲り笑われてるような気がするけれど あなたは誰? 神様かと思ったけれど違うみたい 大骨を曲げて 小骨を折って 今 すべてを回収する

      • 屍からのプレリュード

        あなたがどんな素晴らしいことを言って 民衆を沸かせても あなたがどんな感動的な言葉で 自分の子供に語りかけても 私はあなたが 軽率 であることを知っている あなたが私を傷つけた言葉を吐き ぞんざいな態度で人を踏みにじり 涙を流させたことを 考えなしなあなたの存在を 私は許せないでいる だから 呪おう君のこれからを  祝福されている君の存在を 精一杯の ありったけの 残りかすのような 私の人生で それが許されないなんて 救いがなさすぎるでしょう? 膝についた土を

        • ごちそうさまのあとで

          消えそう消えそう コンロの火で乱切り茄子を 炒めて炒めて 味噌でからめて あきたこまちは こぶりの茶碗にてんこもり 鍋底の形の染みがある こぢんまりとしたテーブルにつく リモコンは 八か四か 六か七か 結婚離婚 ゴシップス 感染に暴動にスイーツ もらい悲しみ よるべない身の あはれ橋を持つ手がかきこむ白米 仮住まいのはずが 入居もうすぐ五十年目 どんどん住みやすくなる 1K の間取りよ 甘やかな香りにひかれて 幸せを追い求める姿は 幸せではないと どうか責めないで

        ばちあたりなレジリエンス

          小さな世界

          小さな世界 既視感ゼロの世界に突入 食欲魔神の僕がラーメンを 一口も食べられないってそりゃもう たいへんなことなのさ 僕の脳天に突き刺さったヒステリックな 言葉の数々はこれから ツイッターに残らず つぶやくことにする それでも足りないからブログを開設して 僕の気持ちを織り交ぜながら毎日 切々とうったえるんだ しばらく詩は書けないよ なんて 弱音を吐いて 傷をなめながら 役割を演じて必死に生きる だって スィーティーパイ 先に死にたいと 言われてしまった方は 止める側に ま

          記念日はいらない

          散らばった言葉の中から 生き方を選んで それが後で どんなに破綻しようが 今は それに しがみついてなきゃ いけないんだ そうしなきゃ生きていけないから いつも簡単に手をのばして それだけを掻き抱いて そうやってやってきた 無名な詩人に記念日などいらない 誕生日 カレンダーの最初の日 きっかけを探して 生まれ変わったように生きるなんて ムリな話だったんだ 無垢な顔して 汚れた部分は必死に舌の裏にかくし 選ばれた者のように まっさらなシャツを着る 何かが変わるようで 何

          記念日はいらない

          目を覆う

          過去がどんどんリンクしていって 日によってはとんでもない方向に流れていく 見たくもないものが氾濫していて 自分で選んだ覚えのない物までも 目の前に突きつけられる 見たくないものは見なくていい そういう権利が私にはあるはずなのに 見せられる 無理矢理 ならば 目を覆え 私が生き延びるために グローバルな人々の罵倒から 耳を塞げ 出すぎる杭は抜かれる 打たれて抜かれる  そう言うなら 私の口は声にならない言葉を いつも そっと つぶやき続ける

          ざんげ坂

          この子もまた私を裏切るのだろうかと 幼子の顔を見ながら 来るかもしれない来ないかもしれない現実に身がすくむ 私が母を裏切ったように この子もまた追いすがる私の手を振り切り 坂を上っていく その後ろ姿をまどろみの中に見て 一心同体であったならどれほど良かったであろうかと そう思う時いつも心に浮かべるのは 我が幼子ではなく老齢の母の姿 目の前にある小さな体を抱きしめるよりなお あなたに抱きしめられたいと思う 浅はかな願いは 私を坂の下に立たせる ざんげ坂の傾斜はただひたすらきつく

          カフェでの覚え書き

          カフェでの覚え書き 忘れないこと 新しい職場には半袖は着ていかないこと 冷房が効きすぎていて寒いから 本屋で背広の男性にぶつかり 何か大声で言われても そういう時には心を込めずに謝り すぐにその場を立ち去ること 朝、車いすの人が車に轢かれそうになっているのを 助けたからって 神様はその日のうちに素敵なプレゼントをくれたりしない それを悲しく思わないこと 悲しみや憎しみや理不尽さでなきそうになるのを やり過ごしながら 生きていく人がいるということ それでいいだと思う

          カフェでの覚え書き

          さかいめ

          生きているのが辛いとか そんなことは どうでもいいのだ のどが痛い 熱が出た 炭酸水が飲みたい 炭酸水を飲んでのどを痛めたい 炭酸水の中で泳ぎたい 冷たい泡が腕でパチパチと弾けて 気持ちいい 耳の中まで泡が入ってきて鼓膜をシュワシュワ と叩く音しか聞こえない 何も聞きたくない  もう水面に映えるピカリと光る鱗に憧れない いちばんに見たいのは 人魚姫と上半身の下半身の さかいめ ひきかえに手に入れたものは お前が後生大事に持っているものは そんなに大切なものなのかえ

          走ってく? 走ってこ!

          走ってく? 走ってこ!              ナツメユキ 内なる更新を怠っても Twitterのつぶやきは怠らない そんな几帳面さが 世界を動かすわけですよ LINEの返信に追われて 今日も一日が終わろうとしているわけですよ 答えが出せないまま 迎える朝は 光とは呼ばないんじゃないんでしょうか なんて提案は もう古いわけですよ クエスチョンマークで締めくくる文章 もしくは断片的な言葉たち 答えを出さないことが時流 走ってく? 走ってこ! メッセージのない伝道師

          走ってく? 走ってこ!

          然らば輪舞

          然らば輪舞           ナツメユキ 欲に溺れるのは防衛本能だと 今日やっと気づいた 水分を含んだ毛布であると 食欲 睡眠欲 性欲 最近の君は排泄物しか生み出していない という集団の謗りから 消えてしまったはずの言葉たちが 襲いかかってくる恐怖から 守る甘言の使い手 排泄欲 物欲 集団欲 ほら集団んで輪になって まわりながら踊れば 支配欲まで身に着けてターンしている 隣のステップに巻き込まれ 私の欲は原始のまま 躍り出るは場外 中心部のエネルギーは今

          然らば輪舞

          広く彷徨う女

          広く彷徨う女          ナツメユキ 誰の目も見てはならぬ 足元だけをしっかり見て うつむいて歩くだけ いっぽいっぽ 早足で 時には のろまに 不幸がベッタリ染みついている眼を 誰にも見られてはならぬと 蛇の頭の妹の教え するりと忍び寄るモブキャラが 狡猾で 時には 愚鈍に 私を傷つけるのを一切許してはならない 足元を濡らさないように 注意深く 歩を進めよ 彷徨う正午のドラクエウォーク 希望のない未来など 見る必要などないのだから 目を伏せるがいい まわり

          広く彷徨う女

          ドロップス

          ドロップス            ナツメユキ まぶたから落ちる なみだ 水たまりに音をたてたら それは ちいさく元気な魚になって泳ぐ ひからびるまで 僕ら 力尽きるまで グングンどこへだって 水のない所だってまるで自由に泳いで ちょうどいい具合にひからびて 歯と同じくらいのカタさになったら 魚のカタチをした甘いドロップス 世界じゅうの子供のお口に届くんだ

          ドロップス

          母から娘へ

          母から娘へ             ナツメユキ 私から あなたへ もうあなたに降りかかる 不幸を想像して身を震わせるのはやめて 大切なことをノートにうつし あなたに贈ることにします これは私のつたない経験から 生きるうえで教えておきたい いくつかのことです 例えば 人の言うことは気にしないで自分が正しいと 思ったことは誠意を持って尽くしなさいとか この世は楽しいことばかりではありません でも辛いことばかりでもありませんとか 二つのことを融合させようとする時必ず摩擦 が起こ

          母から娘へ

          私の船長さん

          私の船長さん                ナツメユキ あの人が元気であれば どんなふうに このことを書くのだろうかと 思いながら おそるおそる書きはじめようか そろそろ あの日から 今日までのことを 小さな揺れは 突然大きなうねりとなって 私たちの生活を飲み込んだ 飲み込まれた者達の思いが 空に渦巻いている気がして ふと見上げれば 目に染みる晴れの青 涙を作る部位がきゅうと痛くなって そんな時 まじないのように 「罪悪感は持っちゃいけない」 と繰り返す 罪悪感の

          私の船長さん