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ざんげ坂

この子もまた私を裏切るのだろうかと
幼子の顔を見ながら
来るかもしれない来ないかもしれない現実に身がすくむ
私が母を裏切ったように
この子もまた追いすがる私の手を振り切り
坂を上っていく
その後ろ姿をまどろみの中に見て
一心同体であったならどれほど良かったであろうかと
そう思う時いつも心に浮かべるのは
我が幼子ではなく老齢の母の姿
目の前にある小さな体を抱きしめるよりなお
あなたに抱きしめられたいと思う
浅はかな願いは 私を坂の下に立たせる
ざんげ坂の傾斜はただひたすらきつく
ぬぐった坂ですべる指先は すぐに地面をなぞり神話を描く
仰ぎ見るその先はまばゆく光
両手をひろげてウェンディの母が待っている
ちがう
私を待っているのは ひとりのか弱き人間であると
あの人が聞いたら悲しむであろう言葉をたくさん抱えて
私は 坂を踏みしめる
ざんげ坂の傾斜はただひたすらきつく

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