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連作短歌

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連作、というほど大げさなものではありませんが、連なりの中で表現したものたち。だいたい思い立って一気につくります。
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連作短歌:最高に最低な朝がくる

公園をきれいにゴミはもち帰りましょうこぼした痛みを拾う チューハイは91パーセントぶん素面を飲ませるから嫌いだよ 半額の寿司が飛び散る床のうえ朝の陽は元死体らに降る 鋼鉄の屋根に守られ雨つぶに祝福されず死にゆくミミズ かなしみは握った中にツナマヨを入れたら咀嚼できる程度さ メンタルが落ち窪んで、嫌なことや避けがたい悲しい出来事が次々と起こり、そうして迎える週末にはせめて早起きして空気の良い場所でのんびりして整えよう、と思っていた矢先の金曜が歴史に残るほどのひどい夜

2023年の自選五首を呟く

終点の光もただの光だし光のなかをうちへ帰ろう 純の字を冷たく書いていくようにプリンを指でかき混ぜている 瞬きで星と話しているのだろうホームの隅で蛍光灯は ピンボケの夢ばかり見て心ではいまだ涙が止まらぬらしい ブランコを漕いで宇宙へ飛んでこう宇宙いくから学校休み 年末のハッシュタグ企画に乗っかってチョイスした2023年の自選5首です。 ちょうど半年前にも似たようなハッシュタグで、上半期4首を選んだのですがその時の歌から2首、下半期の歌から3首、で都合5首となりました

連作短歌:きくらげラヴァーとユニバース、5首2連

ある日なんの魔が差したものか、初めて買って帰ったきくらげが好きになってしまいました。詳しい経緯はこちらです。そうしてきくらげについての5首作、「ラブ」と「ユニバース」のふたつのテーマで短歌を詠みました。 こいつは何を言っているんだ、という感想はもっともです。自分でも何を言っているのかわかっていません。でも愛であり宇宙なんです、きくらげは。   Side.A きくらげラヴァー きくらげにきみの気配を探してはひとつずつまた洗う真夜中 戻らない夏が乾燥しきったら戻るかなぬるま

連作短歌:ビジネスパーソン

新人を叱り落ち込んでる君のストゼロがまた残る真夜中 鉄橋を渡る通勤電車より鴎、だろうか、知らないけどさ チームワークみたいなフリー素材みな捨ててランチに出るひとりきり ミッキーのタトゥーが笑う女より魯肉飯を買い外で食う 始末書にあなたが捺した判のいろくれたプリンの甘さもあかい 武勇伝わめくじいさんらの横で強めにデリートを打つ車内 夜空へとチューハイを開けヤなことはミュートしません肴ですから 昨対比、なら愛情はマイナスと君の寄越したグラフは捨てる 私、夏野ネコ

連作短歌:あいしてる、未満、以上。

あいしてる、磨った言葉をうたにしてただひと粒の砂になるため まだ君は言葉の虜あいしてるって言うばかり、好き あいしてる囓った檸檬どうでもいい夢の中まで夏のすっぱさ 旅立ちのあいしてるを嘘にできない、歩く神の庭先 あいしてる照らす世界に私さえいなければもうハッピーエンド 久しぶりに連作っぽいものを編みました。 あいしてる。 言ったらまぁ平板というか普通の言葉はあるんですがこの5文字、とても扱いにくい5文字ですよね。その扱いにくさ、クセ強なくせに真っ直ぐすぎるこの言葉を

連作短歌:ナツノカミシモ

秋の香のまじる扇風機の風が知らずにめくる夏への扉 すれ違う渡り廊下で手を振れば知らずにめくる夏への扉 すれ違う渡り廊下で手を振ればその日おそらくスカートは風 打つ波へ言葉のように揺れていたその日おそらくスカートは風 打つ波へ言葉のように揺れていたカーテンを閉め君へと落ちる くちびるの西瓜の露を拭いとるカーテンを閉め君へと落ちる くちびるの西瓜の露を拭いとる指を噛んだら真夏の遺影 CD短歌夏フェス2023に参加したときの歌です。 参加者が4分の持ち時間で短歌をパフ

連作短歌:夢を食べた(2023上半期の4首)

ピンボケの夢ばかり見て心ではいまだ涙が止まらぬらしい 終点の光もただの光だし光のなかをうちへ帰ろう 輪唱が追いかけてくる三十人三十一脚ダークダックス 満たされて眠る二匹の獏だろう互いに夢を食べた僕らは うお!ことしも半年経ってしまった! おどろくべき、ことに!、まじで!、おどろいているっ! あぁ… 宇宙、年取るのはやすぎん? はいそんなわけで。 定期的にnoteを書くようになってなおのこと、時の進みがはやい気がします。 なんだろう、なんかの呪いにかけられたんだろう

連作短歌:信楽狸に呪われた

ある種の呪いみたいなものだったと思う。信楽狸に関する短歌を突然5首つくってしまった。こういう、自分でも理解しがたい、変にスイッチの入る時が、うたを作っていて最も楽しい瞬間のひとつだと思っています。 呑んできた、のはまぁいいとして信楽の狸どうして玄関にいる 信楽の狸が好きと言えぬまま婚姻届に判子を捺した 信楽の狸のように人がみな人を見つめるやさしい世界 庭先の信楽狸の両目より光線を出す構想を練る 人間と狸の数を合わせれば大都市となる信楽の里 連作、ではなくこれは信楽

連作短歌:ドラッグストア

Beautyの内臓だろう真夜中のドラッグストアへ迷い入れば 医薬的ジャーゴンとしてAgは集中殺菌接近OK アルコールが腸内菌を減らすなら許される方のいっそ殺戮 潤いはこれ1本!なら出尽くした涙で乾く胸にください 泣き顔もLEDに照らされて補充されないコンドームの棚 プラセンタヒアルロン酸まだ君の大切になれそうになく朝 生きつづく証なのだねトイレットペーパーが減る速度は希望 夜のドラッグストアがあやしくて好きです。 だから、一首めのうたを「うたの日」に投稿したとき

連作短歌:バスタブ心中

バスタブの底で彼岸に目をひらき気泡よ空へ命を注げ 君がまだ君だった頃くちびるはこんなに赤く熟さなかった 水中で乳房は上を向いておりおんなのままで時間を止める ガソリンを満たす湯船に火をつけて裸のままで忘れられたい 仄暗い闇たちと待つ心音の二重螺旋が止まりゆくのを 有機物二体の冬を終わらせる確信的な春の復讐 高校三年生のときだったと思う。 東京の大学へと進学した二歳上の姉がその日は家に帰ってきていたので多分夏休みのことだ。 東京帰りの姉は思ったほど垢抜けてはいなかっ

連作短歌:みずとうみ

許された湖はまだ狭すぎて抱かれても人魚にはなれない 海の底まで太陽は手を伸ばし光をくれる、いらないのにな 湖に沈んだ村のポストより吐かれゆく透明な正義が 沈黙にグラスの汗は紺碧でオー!ダーリンの声も吸い込む 水面よりぱしゃり、と音が 境界をつかのま越えて僕らは歩く 満月になったクラゲがおやすみを言えば明日の雨は眠れり 文学フリマ東京で手に入れた歌集「絶島II」に掲載されていた森山緋紗さんの短歌がとても印象的で、思わず感想を呟いてしまったのですが… 歌の本意はどこ

連作短歌:京王線無敗おじさんの伝説

しりあがり寿さんの漫画で「流星課長」というのがあるのですが、日々通勤していると「効率よく電車の座席に座る」に最適化されている自分に気づき愕然とすることがあります。私が毎朝乗っている電車もまぁまぁ混んではいるのですが、待機列に並ぶ時からポジションに気を配り必ず座る、という方がおり、すごいなぁと思う一方で、その日をサバイブしていくことに生を削っていくのは自分もまた同じだよな、と感じ、歌の連なりにしました。 おじさんは椅子取りゲームの伝説で京王線では無敗であった 三列に揃うわれ

連作短歌:冬の適温

さみーよのみーよを少し暖めてみ~よくらいで君に返すね あたたかさだけでは光らない星の温度が夜を不可逆にした 混ざり合うふたつの呼気は結露して空を知らない熱を知らない 手のひらの鼓動がきっと未来だと思えなくとも今は睡ろう すこしだけズルい君から愛だけを引き出せばほら冬の適温 2022年の大晦日に開かれたカウントダウン短歌に参加した時の歌 「さみーよのみーよを少し暖めてみ~よくらいで君に返すね」が自分でも妙に気に入ってしまい、これを起点に連なりを作ってみました。「すこし

連作短歌:AI波平の永遠

波平として永遠を生きよその使命を帯びたぼくはAI 神名乗るヒトが創りし波平の肋骨で造られたソラフネ 五千年経ち人類は波平の髪をヒエログラフと認む 永久に定年のない波平の終わらぬ日々に咲く彼岸花 波平がループに入り二億年量子の海に刻む断章 生命が断絶しても波平は海山商事に通勤をする 死滅した命の星の記憶よりリロードされる波平の日々 毎日歌会を開いている短歌投稿サイト「うたの日」では定期的に変わったお題が出現するのですが、この日のそれは「波平」でした。で、このサイト