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連作短歌:京王線無敗おじさんの伝説

しりあがり寿さんの漫画で「流星課長」というのがあるのですが、日々通勤していると「効率よく電車の座席に座る」に最適化されている自分に気づき愕然とすることがあります。私が毎朝乗っている電車もまぁまぁ混んではいるのですが、待機列に並ぶ時からポジションに気を配り必ず座る、という方がおり、すごいなぁと思う一方で、その日をサバイブしていくことに生を削っていくのは自分もまた同じだよな、と感じ、歌の連なりにしました。


おじさんは椅子取りゲームの伝説で京王線では無敗であった

三列に揃うわれらは戦友で同時にどこの誰とも知らない

京王線無敗おじさんのポジションがじわりと動く始発入線

白線を半歩踏み出し警笛がぶわりと響く擬似スーサイド

人生を最適化していくように迷いなく踏み出す檻の中

おじさんが老婆に席をゆずるのを見た日は少しだけ頑張れた

終電で花束を持つおじさんが眠りこけてる街の灯がいく

おじさんはもう来ないけど毎日はそれでも進む生きる生きてく


もとは短歌投稿サイト「うたの日」の題詠「敗」に投稿した一首めを起点に肉付けしていったものです。
当初は椅子取りゲームの滑稽さを題材にしていたのですが、連作にするうち徐々に視点が変わっていくのが見て取れる。
穂村弘さんが著作で、「生き延びる」のではなく「生きる」のが短歌だと、そのような趣旨のことを書いておられました。朝の電車で座るために最適化されていくのはまさに生き延びるためのテクニックに思えるのだけど、でもそこに、いつ終わるとも知れない同じ毎日を、ただ一日を生き延びていく姿に、どこか説明し難いかなしみを見出してしまった、そのような連作になりました。

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