見出し画像

連作短歌:みずとうみ


許された湖はまだ狭すぎて抱かれても人魚にはなれない

海の底まで太陽は手を伸ばし光をくれる、いらないのにな

湖に沈んだ村のポストより吐かれゆく透明な正義が

沈黙にグラスの汗は紺碧でオー!ダーリンの声も吸い込む

水面よりぱしゃり、と音が 境界をつかのま越えて僕らは歩く

満月になったクラゲがおやすみを言えば明日の雨は眠れり


文学フリマ東京で手に入れた歌集「絶島II」に掲載されていた森山緋紗さんの短歌がとても印象的で、思わず感想を呟いてしまったのですが…

歌の本意はどこにあるのかは実際のところわかりませんが、私はこの歌を読んだ時「群青の素肌」の下にある圧倒的な水の量感を想いました。
群青は本来鮮やかなウルトラマリンなのだけど、それが漢字の「群青」になることで外洋の青の底にある昏さを、どこか帯びるように思えます。それが言葉であり表層である素肌が寂しいのだと、そんな風に読んでしまった。

言葉は発すれば自分のものではなくなって、ほんとうは深海の底みたいな測れないものたちばかりなのだけど、穏やかな表層でしかコミュニケーションできない。ふつうに通じる言葉の中に自分がいるのか、みたいな不安は常にあるし、逆に自分が表層に出てしまう恐怖もまたある。そんな群青の素肌に震えてしまい、そうして触発されて「水」について何首か思わず作ってしまったのがこちらです。

いつものように勢いだけではあるし「群青」の歌にもちっとも及びませんが、湖底に沈んだ村のポスト、人魚を拒絶する水、グラスの中の海、雨を照らすクラゲ、などのモチーフがこの時はするする沸いてきた。
水の持つ優しさよりも底のない得体の知れなさ、人間とは本質的に分かり合えない異界感を少しは表現できた、のかな?

文学フリマで出会わなかったら詠まなかった歌なので、全方位から出会い頭でエンカウントする文フリは、やっぱり刺激的です。
そんな水についてのうたでした!


この記事が参加している募集

文学フリマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?