見出し画像

外国ルーツの人にきく [食べたら元気になるごはん]第3回(前半) サムエルさんの「野菜スープ」

「ホームシックになったり、さびしいときによく作るスープがあります」

パリ生まれのパリ育ち、現在は日本で働くサムエル・シェムニさん。

サムエルさんから、フランスのお母さんが毎日のように作ってくれていたという、野菜スープを教わりました。

ライターの青野棗(あおのなつめ)です。

日本で働く外国ルーツの方々に、疲れた時や、ホームシックになったとき、風邪をひいたときに食べたくなる料理を教わりながら、日本での暮らしについてインタビューするという企画に取り組んでいます。

サムエルさんと私は、杖道(じょうどう)の稽古仲間です。

杖道って何? と思われたでしょうか。

杖道は、柔道? とよく聞き返されるほど、あまり知られていない武道ですが、400年以上前からあるといわれています。

名前の通り、木の杖を武具として使います。

何の変哲もないような棒切れを、さまざまな形に使い、攻撃してくる相手に応じるのが杖道のスタイルで、「人を傷つけることなく、しかも己の身を全うする」のがその最大の特長です。

サムエルさんと私は古流(こりゅう)の「表(おもて)」という基本技(きほんわざ)を、同じ道場で、同じときに教わりました。

この技(わざ)の、名前がまず難しいのです。

太刀落(たちおとし)、鍔割(つばわり)、着杖(つきづえ)、引提(ひっさげ)、左貫(さかん)、右貫(うかん)、霞(かすみ)、物見(ものみ)、笠の下(かさのした)、一禮(いちれい)、寝屋ノ内(ねやのうち)、細道(ほそみち)。

ぜんぶで12本あります。

若いサムエルさんと私は、親子ほども歳が離れているし、こちらは物覚えが悪くなって久しいです。

それでもフランス語を母語とするサムエルさんより、日本語が母語である私の方が、ずいぶん有利なはずだと思いました。

でも私は、技も名称もなかなか覚えられずに常にこんがらがり、一方サムエルさんはどちらもすぐに覚えて、「あ、それは左貫です。右貫はこうです」とこちらの間違いを教えてくれるほど。

この若い人は、どうしてそんなに賢いんだ?

それが、サムエルさんに対して最初に思ったことでした。

自分が彼と同じくらいに、たとえば四半世紀くらい若返ったとしても、外国語でこんなことを簡単に覚えられるとは思えません。

道場では、個人的な話をする機会はあまりありませんでした。
この取材をお願いすることになって、初めてゆっくり話を伺いました。

「表」の技をぜんぶ覚えるのは、サムエルさんにとっても、それほど簡単なことではなかったようです。

ただ、武道に対する志が違いました。

彼は賢いだけでなく、自分が好きなものに対し、惜しみなく努力できる人でもありました。

仕事と武道の稽古に日々忙しいサムエルさんを取材したのは、2020年の1月末。

もっと先でいいですよ、と伝えていましたが、この日が珍しく空いているからと、たまたまその月末になりました。

その後、新型コロナウイルスの流行が日本でも徐々に広がり、私は道場にも行けなくなったので、今から思うとそのタイミングで取材できたのは、本当にありがたいことでした。

マスクもせずにお会いして、気軽に台所にお邪魔して……そんなことはぜんぶ、今では奇跡のようなことに思えます。

取材の日は今にも雪が降りそうな、寒い日でした。

最寄り駅で迎えてくれたサムエルさんは、いつもの薄いトレーナー姿で、いつものように上着を着ていませんでした。

冬用の上着は日本に持ってきていないそうで、「特に買う予定もありません」とのこと。

それにしても今日は冷え込みますね、と言いながら都心の住宅街を歩きました。

到着したサムエルさんのお家もかなり寒かった……でも、すぐに台所のエアコンをつけてくれました。


* * *

サムエルさんの「野菜スープ」


サムエルさんの台所で、さっそくスープを作ってもらいました。

彼の手際は、流れるようです。

にんじんなどの野菜は、洗う前に乾いたシンクで皮を剥きます。

剥いた皮を濡らさないように手早く集めると、シンク下の引き出しを開け、食パンの空き袋を取り出しました。

パンやお菓子などの空き袋は、生ゴミを捨てるために取ってあり、そのための引き出しも作ってあるようです。

スープが出来上がると、それを食べながらお話をきかせてもらうことにしました。

サムエルさんはパンをスライスし、お皿にスープをよそい、それらをお盆に載せると、台所の電気とエアコンを消します。

それから、彼のお気に入りだという、コタツが置いてある部屋に移動しました。

移動した部屋もまた寒かった……でも、ホームゴタツをつけてくれたので、足もとがぽかぽかします。

コタツのあるその部屋は、昭和の時代を思い出させるような和室で、隣りの部屋とは襖(ふすま)で仕切られていました。

窓からは植栽と、北風に揺れる洗濯物が見えます。

一瞬、田舎の実家に居るかのような、不思議な気持ちになりました。

コタツでいただく野菜スープはとろりと温かく、ほのかな野菜の甘みが、口の中にゆっくりと広がりました。

画像1

サムエル・シェムニ(Samuel Chemouni)さん
パリ生まれ、パリ育ちの20代。
職業はエンジニア。
居合道、杖道の修行中。
趣味は甲冑作り。甲冑は素材から吟味し、独学で作っている。

今回も、前半は料理の作り方、後半はインタビューという構成になります。

お待たせしました。

では、まずはサムエルさんの野菜スープの話をどうぞ。


*  *  *

さびしくなったら作る母のスープ


このスープは、私が小さいころから、毎日、母がいろいろな野菜で作ってくれました。

だから、疲れたとき、風邪をひいたとき、さびしいときには、いつもこの野菜スープを作ります。

母がスープによく使っていたのは、「ポワロ」という野菜です。
日本の白いネギと似ていますけど、白ネギとは違います。
あとは、ズッキーニです。

日本で私が作るときは、かぼちゃ、にんじん、玉ねぎ、それにパプリカで作ります。

日本で、大きくて(カサがあって)、安い野菜というと、かぼちゃ、にんじん、玉ねぎですから。

パプリカは日本では少し高いですけど、フランスでは安いです。
野菜は、東京よりもパリの方が、新鮮なものが安く買えます。

画像3

「野菜スープ」 材料

・かぼちゃ 1個の半分
・にんじん 2本
・パプリカ 1個
・玉ねぎ 1個
・水(鍋に入れた野菜がぜんぶ浸るくらいの量)
・豆乳(お好みの量)
仕上げにクミンパウダー、黒胡椒(お好みで)

作り方は簡単です。

皮を剥いたにんじんを、適当な大きさに切ります。

画像3

玉ねぎも切って、

画像5

かぼちゃも切って(種は取りのぞく)、

画像7

パプリカも切って(種は取りのぞく)、

画像8

ぜんぶを鍋に入れて、かぶるくらいの水を入れます。

画像7

蓋をして、野菜がやわらかくなるまで煮ます。

画像8

野菜がやわらかくなったら、ボールにうつし、

画像9

ハンドミキサーをかけて、なめらかにします。

画像10


仕上げに豆乳を少し入れて、混ぜます。
クミンパウダーと、ブラックペッパーも少し入れます。

画像11

できあがりです。

画像14

簡単でしょう?

このパンは、近所のパン屋さんで見つけました。
フランスで食べていたパンに似ていて、気に入っています。
このスープによく合うので、少し切りましょう。

画像12


このスープは、野菜を切って、水でやわらかく煮て、ミキサーにかけて、最後に豆乳を入れるだけなんです。

肉は入れません。

野菜スープは、野菜だけ。

私は塩もあまり入れません。

今日は、クミンパウダーを少し入れました。
これは使う野菜によって、入れるときと入れないときがあります。

たとえば、かぼちゃやパプリカを使うときは、クミンがすごく合います。

でもズッキーニやポワロで作るときには、クミンは入れません。
そのときは、ブラックペッパーを入れます。

もちろん、これは私の場合ですけど。


日本での食生活

私は、基本的にはベジタリアンです。

でも、肉や魚を絶対食べないというわけではなくて、友人と外食するときなど、たまには食べます。

朝ごはんには、コーヒーかハーバルティーと、パンを食べます。

画像14

パンには、ハチミツかチョコレートペーストを塗ります。
冬には普通のチョコレートを熱いトーストに載せて、溶かして食べることもあります。
いちばん簡単で、おいしいチョコレートペーストです。

お昼は、週に何度かは職場の友人と外食します。
他の日は、自分で作った弁当を持って行きます。

弁当は野菜とごはん、そば、またはパスタです。
野菜はフライパンで焼きます。
南フランス風に、オリーブオイルで。
味付けは塩、ブラックペッパー、スパイスなどです。
そばは焼きそばか、パスタのような感じで使います。
卵は毎日は食べないですが、週に一度、オムレツを作って弁当にします。

晩ごはんは、いつも家で食べます。
弁当と同じ料理です。
その日の晩ごはんの残りが、翌日の弁当になります。
でもスープだけは、弁当には不便なので、弁当にはしません。

普段は、肉も魚も食べません。
タンパク質は、豆乳、豆腐、いろいろな種類の豆からとっています。
ときどき、卵、牛乳、チーズも食べますから、問題なさそうです。


* * *

後半につづきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?