【前編②】地域に根ざした食料システムとは?
こんにちは。池田です💃🕺🏾
パリのストリートアート、可愛いです。
前編②は、前回全てを書ききれなかった「ローカルはなぜサスティナブルなのか:環境面」の続編です。
今回は、エネルギー資源や食料廃棄という視点から、地域に根ざした食料システムの説明をします。前回に引き続き、農畜産業に限定して話を進めます🐂🌳
ローカルがサスティナブルな理由
エネルギー資源、食料廃棄
便利さ=エネルギー資源の消費
『トマト缶の黒い真実』の紹介を見てくださった方はお分かりの通り、私たちはグローバル化した食料システムにおいて、食べものの生産・加工・流通の過程を全て知ることは殆ど不可能です。
なぜなら、トマト缶ひとつ取ってみても、それは日本中、あるいは世界中を旅してあなたの近所のスーパーに届いているからです。
なんといっても、トマト缶は年中手に入ってとても便利ですよね。
生のトマトも同様です。もちろん夏に売られるトマトが1番美味しいのは間違いないけれど、冬だってスーパーに行けば生のトマトを手に入れることができます。フランスでは殆ど年中スペイン産のトマトが売られています🍅
しかし、私たちがこの便利さを得ることができている背景には、膨大なエネルギー資源の消費があります。
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上の画像は、1個のトマトが生産されてフランスに住む消費者に渡るまでの間に二酸化炭素の排出量がどのくらいかを示したものです。
フランスで旬の時期に生産されるトマトは、1個あたり0.3kgの二酸化炭素が排出されるのに対して、スペイン産のトマトがフランスで消費されると合計で0.6kgの二酸化炭素が排出されることになります。2倍ですね。
また、旬に関係なく、フランスのハウス栽培のトマトになると、同国内で消費されるまでに2.2kgもの二酸化炭素が排出されることになります。旬のトマトの7倍です。
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つまり、トマトの生産、流通の間に排出される二酸化炭素の量は、生産過程や輸送される距離によって大きく異なります。更に言えば、他国から輸入されたり、旬の時期に関係なく生産されることで、二酸化炭素の排出量は多くなります。
エネルギー分野とは少し話がずれますが、二酸化炭素の例で言えば畜産も有名です。フランスは牛肉や乳製品などがとても有名ですが、牛のゲップに含まれるメタンは温室効果ガスの一種で、それによる大気汚染はかなり深刻な問題です。
(WIRED記事より引用。興味深い内容ですので併せてご覧ください。)
二酸化炭素の過度な排出が地球にとってよくないことであるというのはみなさんご存知かと思います。グローバル化した食料システムは地球に優しくない!と言えますね。
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飢餓と廃棄の共存?
皆さん、現在世界では約何人の人が飢餓に苦しんでいるか知っていますか?
国連の発表によれば、2018年には全世界で約8億2000万人の人々が充分な食料を得ることができない状態でした。
こんなにも多くの人が飢餓に苦しむ一方で、世界中では年間7500億ドルの食糧が生産から消費までの流れの中で廃棄になっているそうです。(World Resources Institute、2015)
国連のプログラムであるShare the meal によれば、0.85ドル(0.7ユーロ)の寄付で1食分の食事が賄えるそうなので、単純計算で年間約8800億食分(計算があっていますように...)が無駄になっていることになります。
(What’s Food Loss and Waste Got to Do with Sustainable Development? A Lot, Actually. 2015より引用)
上の表は、各地域でどの程度食べ物が捨てられているのかを表しています。例えばヨーロッパでは、捨てられる食べもの全体のうち22%がまだ食べられる状態です。また、52%は消費の段階で廃棄されています。
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食料廃棄が多くなってしまう原因のひとつに、サプライチェーン(物流の過程)の複雑さがあります。商品が流通し始めてから消費までの間に、様々な都合(法的な規制や過剰な供給など)で廃棄となってしまうのです。
オーストリアにて販売されるハンバーガーのフードサプライチェーンを解説する画像。例えばパーム油は、ガーナ→オランダ→ドイツ→リトアニア→ポーランド→オーストリアと旅するそうです。(foodsafety.net.au, 2015)
さらに、大量生産においては、商品が低すぎる価格で取引されるため、余計にたくさん作って出来るだけ多く売ろうとしてしまう生産者が多いと言われています。
このような事実から、食料廃棄量の増加はグローバル化した食料システムの弊害だということができます。
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ローカルは資源の無駄遣いをしない
生産と消費の距離が比較的近い、つまりサプライチェーンが短い「地域に根ざした食料システム」において、エネルギー資源の過剰な消費や膨大な量の食料廃棄は発生しうるのでしょうか?
私は、しないはずだと考えています。なぜなら、どこまでも大量に生産・流通させる必要がないからです。前回も触れたように、商品が適正価格で取引され、且つ消費量が大体予測できるシステムが地域に根ざした食料システムです。このシステムにおいては、生産や流通に無駄なエネルギーを使わないし、食べものを無闇やたらに捨てたりはしません。
また、災害や不測の事態への対応における柔軟性(レジリエンス)が高いのも地域に根ざした食料システムの特徴です。コロナ感染症の拡大で「ローカル」は世界的に見直されています。
エネルギー資源の節約や食料廃棄への対策を推進する地域に根ざした食料システムの具体例は、また別の回に紹介できたらと考えています。
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もうお分かりかとは思いますが、地域に根ざした食料システムは常にグローバル化した食料システムと対比してその良さが語られます。なぜなら私たちは、食料システムがグローバル化するまでローカルの良さを理解できていなかったからです。
つまり、数世代前まで(勿論地域によっては今でもですが)当たり前に存在していたのが地域に根ざした食料システムであり、それを取り戻そうとする動きが先進国の都市を中心に、世界的に起きているのです。
これは、当たり前のようですがとても大事なポイントかと思います。
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ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。優しさポイント10獲得です🧚♀️
ここまでで前編を終えたいと思います。
後編では、地域に根ざした食料システムがなぜ優しいのかについて、労働問題や健康の面から説明していきます🧞♀️🧞🧞♂️
それでは〜!
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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment) / 農的な場や地域の振興に関わる分野を専攻しています。(Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)
プロジェクト/インターンシップ:イルドフランス国立自然公園における農法の転換と水質汚染改善へ向けたコンサルタント(Consultancy for the sustainable transition of agricultural production systems to improve water pollution in the Vexin-Française Natural Park in Ile-de-France) / インド ポンディシェリにおける地域食料システム構築プロジェクトでのインターンシップ(Research internship for local food system in Pondicherry, India)/ 長野県 岩野地区堤外農地における浸水と農家のレジリエンス調査(Community practices of the Japanese agricultural village: Evolution of factors of resilience and vulnerabilities in Iwano, Nagano prefecture)
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