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家族の良いも悪いも全部見た(3/6)

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切ったら本当に楽になれると思った

その後もなんとか高校へ進学し、
社会人も参加する小劇団へ加わった。
唯一、彼女を裏切らないお芝居にますます精を出した。

劇団で5歳年上の優しい男性に恋をした。
2年の片想いは、何かにつけてメールを送ったりしている美紀の好意に
気が付いている彼に時折弄ばれながら過ぎた。

ある日、大学の合格祝いに彼に食事に誘われる。
美紀は好意に気付いているはずの彼に誘われる食事は正直複雑だった。

<どうせ誘えば断れないってわかってやってるだけでしょ。>

そう思ってもやはり断れなかった。
彼の顔が見たい。
彼から出てくる言葉は長く付き合っている女性に対する煮え切らない態度だった。

「そんな話をされても…って感じでした。
しびれを切らしちゃって、『わたしのことどう思ってるんですか?!』って勢いで聞いちゃったんです。
そしたら、『付き合おうか。』って交際し始めました。

でも、しばらく経って…第六感っていうんですか?
自分のことだけを見てるわけじゃない、
ってなんとなく気づいちゃったんですよね。

そんな矢先、彼のマンションの廊下で別れたはずの元カノと鉢合わせしたんです。」

元カノは一瞬ためらったような表情をしたが、
強気に「忘れた服を取りに来た」とだけ言い、
彼と2人で部屋に入っていった。

しばらくして部屋から出てきた元カノは
「わたし、彼のセフレなの。ごめんなさいね。」
と言い残し去っていった。

「セフレやって言ってたで!」
「なんてこと言うねん。元カノが情緒不安定で時々くるから、相談に乗ってただけやん。」
浮気の常套句のような返事しか返ってこなかった。

その後、彼の携帯に
「わたし、死ぬから」
と元カノからメッセージが入った。

<家に帰ると、二人がまた会うかもしれない>
と恐れ、彼の部屋に泊まった。

翌早朝4時、彼の部屋のチャイムが静かな明け方に鳴り響く。
不審に思いながらドアを開けると元カノが立っていた。
「持ってた睡眠薬を全部飲んだ。死ぬ。」
とフラフラになりながら騒いだ。追い返しても、追い返してもチャイムが鳴った。

なぜ元カノは薬を飲んだのか。
行動の理由が知りたくて検索した。

「切っちゃった」「わたしもやった」「わたしは飲んじゃった」
と自殺を仄めかす人が溢れかえる場所にあっさりと辿り着いた。

<気持ち悪い>

美紀はそう思ったが、なんだか忌まわしい世界が頭から離れなかった。

気持ち悪かったのになぜ自分もやるようになったのか。

「みんな辛いことがあって、
切ったり飲んだりしてるじゃないですか。

わたしもやってみたら気分が軽くなるのかな~って
だんだん魅力的に見え始めちゃったんです。

何かあると10くらいで受け流せばいいのに、
すべてを100で捉えて、
暴れだしたくなるくらい辛い毎日だったんで。」

楽になれるかもしれない具体的な方法が目の前にあって、
試さない理由がなかった。

最初こそ躊躇したが、
リストカットもオーバードーズ(薬の過剰摂取)も
手馴れてくるのに時間はかからなかった。

「次第に、病んでることにアイデンティティを見出したくなって。
わたし根なし草なんで、これが自分っていうのが欲しかった。」

いつしかから集めた薬を恍惚と眺めて、
増えていくのが嬉しかった。

「家事も、バイトも、お芝居も、学校も、
大変でキャパオーバーしてしまっていて、
具体的な出来事なんてなかったんですよね。
辛くなって、もうこんな人生終わりにしようって薬を飲み始めました。」

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