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デス・ストランディングで今こそ思い出せ。無限の成功体験と、世界が繋がり合っていることを。【ゲーム感想】

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死の座礁。

ある意味でタイムリーな作品と言える。
中国の武漢より始まった新型コロナウイルス禍は、またたく間に世界中に広がり、今もなお多くの感染者と死者を出し続けている。かつて繋がっていたと思われた世界は分断され孤立しつつある。
そんな中で紹介したいのが2019年11月に発売されたコジマプロダクション、小島秀夫監督によるゲーム『デス・ストランディング』だ。

直訳すると『死の座礁』、近未来の「絶滅の中で生きる人々」を題材としたアポカリプスSFだ。

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舞台は北アメリカ大陸の近未来。
触れたものの時間を奪う『時雨(ときう)』が降り注ぎ、黒いタール状の液体が大陸を覆い尽くす。
あの世である『ビーチ』とこの世が交わりつつある世界では、幽霊のような存在であるBTと人間と接触すると、街一つをクレーターへと変貌させるような『ヴォイドアウト(対消滅)』が起きてしまう。

人類を分断し絶滅の危機へと追い込んでいるその現象こそが、デス・ストランディング(死の座礁)である。

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サム・ポーター・ブリッジズ。
彼はDOOMSと呼ばれる特異な能力者であり、伝説の配達人(ポーター)として知られる男で、この作品の主人公だ。
彼は組織『ブリッジズ』から「分断された大陸全土に『カイラル通信』を繋げて、アメリカという国家を再建する」という依頼を受け、挑む。

このゲームでは彼を操作して、広大で危険なフィールドを単独で渡り歩いて、世界を一つに繋ぎ直すのが目的だ。

旅の途中で待ち受ける巨大な謎や陰謀、世界破滅願望のテロリストの攻撃、そしてBTと呼ばれる世界を滅ぼしつつある脅威を乗り越え、サムは世界を繋ぎ直すことができるのか。
その旅の果てに待つ大いなる結末を、どうかあなたの目で見届けてほしい。

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さて、前置きはここまで。

このゲームを表現するなら「仕事することが楽しくなってワーカーホリック配達症候群になってしまうアポカリプスSFアドベンチャー配達オープンワールドかくれんぼ」である。
具体的には、

「拠点A地点からD地点に行くまでにB地点とC視点にも荷物を運んでいこう。おっとB地点の受注を見たらCまでの時間制限配達依頼があるじゃないか、インフラ整備はもう万全でルート構築できているから時間制限は余裕だし追加しよう。しかしそうすると荷物の運搬量限界になってしまうから先にD地点への荷物はB地点のプライベートボックスに保存しておこうか。つまり、A→B→C→B→C→Dで行くプランださぁ行くぞ! よし到着だ、余裕で間に合ったし成功成功。頭いいなぁ私ったらさてC地点の受注を見ようあっ、A地点への時間制限とE地点への依頼が、つまり、ええと、あれ、んーと、A→B→C→E→C→B→A→B→C→Dだっけ、でも荷物の積載量が限界だからいっぺん荷物をここに置いていって、あれ先に何をするんだっけ、ええともう、ああああああああーーーーーー!!!

こうなる。

歩くには広すぎて、飛ぶには狭く感じる絶妙なオープンワールド

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このゲームの絶妙な点に「オープンワールドの世界が狭すぎず広すぎず、最高のバランスで整っている」要素が挙げられる。

このゲームは基本的に「大量の荷物を背負って、荒野を渡り歩いて配達する」行為が求められる。ふんばらないと転んでしまいそうになるほどの荷物を担いで、サムは広大なアメリカ大陸を横断する。

荒野を切り裂く巨大なクレパスにハシゴを掛けて横断したり、切り立った崖にパイルを打ち込んでロープだけを頼りに降りていったり、装備が足りないから回り道をしてでも平野を進むなど、プレイヤーには無数の選択肢と解答が与えられる。

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さらに先述したように、この世界では分断の原因ともなっているBT、要はあの世へと引きずり込もうとしてくるオバケが、黒いタールのような時雨と共に現れる。敵はBTだけでなく、ミュールと呼ばれる配達依存症たちの略奪者や、文字通りサムの命を奪わんとするテロリストと遭遇することも。

恐るべき敵たちを隠れながら避けて通るか、戦う前提で武器を大量に持ちこむか、捨て身で突破をするか。それもプレイヤーの選択だ。

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最初期には世界をすごく広く感じるだろう。

自分のできる限界がわかりやすいから、受注も単純かつシンプルで、考えることが少なめな単方向への歩行配達を行うのが主だ。そしてテクテクと歩いていくには、配達先が遠く長い距離に感じられる。
運ぶべき荷物との積載量をやりくりしながら、持ってきたツールと叡智と勇気で乗り越える必要があり、その試練を攻略して配達先の拠点に繋がると、得も言われぬ達成感に満ちる。

そうして都市間を繋いでいくと、カイラル通信の恩恵によって自前のバイクやトラックなどの乗り物を資材から作れるようになり、配達速度や運搬量も段違いに大きくなっていく。できる選択肢や許容量が増えていく。
乗り物に乗って真っ先に気づくのはその速さだろう。

徒歩であれだけかかっていた時間を、乗り物なら多くの荷物と共に素早くささっと走って渡りきってしまう。以前までの苦労は何だったのかと虚無感と万能感を同時に覚えるほどに。

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世界が繋がると、狭くなっていく。

カイラル通信を繋げると、オンラインによって他プレイヤーともインフラ整備が共有される。一人ではできなかったはずのルート構築が可能となる。
条件が揃えば光のワイヤーを超高速で伝って移動できるジップラインという装置も建てられるようになったり、先人のプレイヤーが大量の資材を投じて復旧された「国道」を走ったりもできる。

困難だった雪山登頂もジップラインで接続してしまえば、あっという間に光のラインを伝うようにして、山のふもとからその山頂までひとっ飛び。真面目に登ったら一時間は持って行かれるかもしれない山を、だいたい2〜3分で登れるようになれるのだ。
BTが現れる座礁地帯やテロリストたちの徘徊エリアでも、横断するようにジップラインを設置すれば、彼らに接触する心配もなく乗り越えられる。修復した国道をトラックで突っ走って、数千キログラム分の荷物をいっぺんに運搬して依頼の大量達成なんてことも可能だ。

離れていたと思っていた拠点が実はすぐ近くにあって、その往来がスムーズになる出来事も非常に多い。広大に見えたオープンワールドが地続きの箱庭に感じられるのだ。

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そして限界がなくなっていく。

拠点から拠点への移動が楽になっていけば仕事が減る……わけではなくて「能動的に仕事ができるようになったし仕事がしたいから仕事が増えていく」という立派なワーカーホリックへと変わっていく。

『パソコンや携帯電話などの道具は、人間が楽に仕事をするために作られたのに、仕事ばかりがどんどん増えていく現象』の理由がよくわかる。
もっと効率的にやれるはず、という思いから、より効率的に仕事とタスクを自発的に増やしていってしまうのである。便利な道具は仕事を減らすためじゃなく仕事を増やす原因になるのだ。もうちょっとできる、の積み重ねが重責や負担に変貌してしまう。

そんなわけでサムは空を飛び交い、野を越え山を越え、最速で依頼を達成していく配達依存症になっていくのであった。

唯一無二の成功報酬を、容赦なく無限に与えてくる。

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なぜそんなに配達をしてしまうのだろう?

このゲームの絶妙なポイントに「配達報酬そのものはほとんどない」点が挙げられる。
この世界、実はサムは無収入だ。
世界の分断によって通貨の概念も消失しているから、報酬金もない。文明もそれなりに発達してるため、貧富の差がなくコロニーの中の人々にパンとワインが行き届いているようなものだ。
配達を完了すると届け先の拠点ごとに使える資源の上限が増えたり、時には嬉しいプレゼント貰えたり、配達先の人に褒められるぐらいだ。お金持ちになるわけでもないし、クリアするだけなら資源などは駄々余りするほどだ。

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決定的な報酬が与えられる場面は「新しい拠点とカイラル通信を繋いだ」時だ。
カイラル通信の範囲内であれば、多種多様なインフラ設備をほぼ自由に設置できる。それと同時にゲーム中のオンラインの設備も使えるようになり、前人未踏のはずの場所に、他の世界のサム(プレイヤー)が建てた橋やセーフハウスやジップラインなどのインフラ設備がひょっこり生えてきたりする。それを利用すると、さらに作業効率が加速していく。

プレイヤーに新たな選択肢が与えられることが報酬とも言えるかもしれない。

デス・ストランディングの極めて優秀な点は「自身で目的を考え、自身で考えて行動し、成果を自身で手に入れる」ことにある。

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余談ではあるが物語とは「感情と行動と結果」で構成されてると言われている。キャラクターが感情を持ち、それにより行動を果たして結果が出る。これを積み重ねることで一つの起承転結の物語になっていく。

このデス・ストランディングはまさに「自分なりの物語」を無限大に紡いで、繋いでいくことのできる自由度を秘めている

「物語を進めるために新たな拠点を目指していく」でもいいし「AからD地点まで向かいながら重複タスクを完璧にこなす」でもいいし「インフラ整備を拡充させて一度も地面に足をつけずに超高速配達をできるようにする」でもいい。「失われた国道を復元して車両による完璧な往来を取り戻す」も素晴らしい。

自分の中で構築した無限の試練や課題をこなしていき、その達成感を自身で無限に受け止める。
このゲームではその試練の与え方とゲームバランス、オープンワールドの広さや操作性とコンセプトとが神がかり的な調和によってもたらされているのである。

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目的が果たされ、まさに点と点が線に繋がる時、大きな達成感で心が満たされる。
それは誰かの模倣ではなく、あなた自身に与えられた試練を、あなた自身の心と感情で考えて、実行し導いた行動が紡いだ結果が与えられることによって発生する。

世界でたった一つの、あなただけの物語が完成するのだ。

物語は終わらない。即座に次の旅路の答えと達成感を求めて、情報端末をタッチしてまた新たなる配達依頼を受注してしまう。

永久に終わらぬワーカーホリック、配達依存症の完成だ。

     

世界を繋いで、絶滅の謎と真実を解き明かせ。

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物語を経ていくと、サムは真実と向かい合う。世界を一つに繋げる過程で失われていた知識や情報が復活していくと、デス・ストランディングの真実や事件の真相へと近づいていく。

謎をじっくりと考える暇もなく、数多くの脅威が迫ってくる。
黄金のマスクを被った世界破壊願望者のテロリスト『ヒッグス』はBTを操ってけしかけてくる。BTによる対消滅で世界を壊し尽くすのが目的だ。
今回のサムが大陸横断に挑む理由になった直接的原因の一人と言っていい。明確な敵意を持つ彼を倒さなければ、人類に未来はない。

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デス・ストランディングを乗り越える中で、絶対に必須となる装置が「BB(BridgeBaby)」だ。BBを介してあの世と接続することで、本来は視認できないはずのBTが視認できるようになる。この装置がなければ大陸横断は不可能と言っても過言ではない。

しかしその仕組はデス・ストランディングにより失われており、謎に包まれたまま使用せざるを得ない状況だ。

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そしてサムはBBと接続するたびに、BBの目を通してある男の幻影を見る。BBのポットの歪んだガラス越しに見える男は時に朗らかに、時には悲しげにBBに話しかけてくる。その男はBTとしてあの世から亡霊のように現れ、軍隊を執拗にBBを狙ってサムを襲うのである。

謎の男の正体は?
BBとは何か? カイラル通信とは? ビーチとは?
デス・ストランディングの正体とは?

謎が謎を呼び、誰を信じればいいかわからなくなる疑心暗鬼を抱えながらも、サムは使命を果たすために大陸の果てを目指す。

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そして全ての謎が一つの結び目(ストランド)に結実する時、あなたは一つの決断を下し、感動を覚えるだろう。
この怪奇にして未知と不思議に満たされた、SFと絶滅の世界をぜひとも体感してほしい。

     

あなたは誰かと世界で繋がっている。

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サムの旅路は辛く厳しいものになるが、決して孤独な旅ではない。

「ブリッジズ」の優秀なメンバーのサポートはもちろんのこと、民間配達業者の「フラジャイル」であったり、カイラル通信を接続する鍵となる拠点や「プレッパーズ」であったり、出会う人々がサムの単独横断の心強い助けとなる。
それだけでなく、このゲームでは「世界中のサム(プレイヤー)」が別のサムを助ける。

先述したように国道への素材やジップラインの設置もオンラインで共有されるため、先人の『誰か(Someone)』への感謝も感じながら、超高速大量配達依頼をヘビーにこなす楽しみもある。
さらに、歩いてきた旅路は決して無駄にならない。行きがてらに置いてきたハシゴやロープが、この世界にいる後続の『誰か(Someone)』の助けになることもある。

広かった世界が狭くなっても、インフラ設備の背景にいる『誰か(Someone)』との繋がりを大事にする気持ちがより高まっていくだろう。
これはゲームの中だけでなく、現実にも通ずる重大なテーマだ。

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コロナウイルス禍で人々の接触が危険となり、緊急事態宣言が発令されて社会は大きく変化した。通勤は感染の危険を孕むためにオフィスワークから自宅からのテレワークが広まり、外食は控えられウーバーイーツなどの宅配や内食へと切り替わり、買い物はネット注文の配達に依存していく。宅配業者の役割は大きなものとなった。

彼らも『サム』と同じように、配達で世界を一つに繋ぎ止めようと戦っている。

そしてサムがそうであったように、彼らにもアスファルト舗装された道路や車両、動かすための燃料や情報網がなければ配達は困難だ。インフラ整備を行う人々の努力も計り知れない。
それらの無数の人々の支えがなければ、コロナウイルス禍の最前線に立つ医療従事者たちは戦えないだろうし、これからも続けられない。

人間はみんな、頑張っている。
そして繋がりあった絆が大きな厄災に立ち向かう力となる。

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だから忘れてはならない。
世界はどこかで繋がっている。

       

当たり前のことであれど、だからこそ見失いがちになる事実。

デス・ストランディングはゲームという体験を通じて、心の中に感動と共にそれを配達してくれる名作だ。
昨年発売された時には「なんて途方もないSFな滅亡の話だろう」と思っていたが、よもやコロナウイルス禍によって「すぐそこにあるかもしれない近未来の滅亡」の予見めいた物語へと変貌してしまった。

願わくば、感動を通じて多くの人が繋がれますように。
物語から学ぶ感動が、世界を繋いでより良いものに昇華させる力があると、私は信じている。

今回はここで筆を置こう。
もし反響があれば、さらに踏み込んだ記事を書くかもしれない。
小説も書かねばならないが、また会おう。

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