今更ですが、ハラグロ忘年会必要ですか？

#ほろ酔い文学

少し寝た。頭をふり、首を廻す。どうやら、酔いも醒めたようだ。
昨日、いや今日か･･･。

寝る前にドリンクバーで入れた薄い味の温いブラックコーヒーを体に流し込みながら、キーボードを叩いている。

最悪な日曜日の始まりだ。
昨夜、2年ぶりに忘年会が開催された。

（なんで、土曜日だ？）
「･･･この『おたふくさん』（和食料理店）がどうしても私達、協会の方々と忘年会をしたいと申し入れがあり、本来であれば、金曜日に実施したいところでしたが、コロナ過の感染者の減少のおかげで、満員御礼の予約となり、土曜日の本日に実施となりました･･･それでは、乾杯の音頭ですが･･･私が言います。皆さんは、無言でグラスを上にあげるだけでいいです。それでは、かんぱい！」協会責任者の水野のスピーチだった。

（なら、なんで、参加費7千円も払うんだ？）
「飲みましょうよ。日村さん、今日は、休日出勤ですよ。あと、今日だけの交通費が2千円でますよ」傍らで、いい気分になっている女性職員福田敦子が一気に生ビールを煽りだした。
「知らなかったです。なるほど･･･。なら、午後の15時スタートも納得だ」

（もう、帰りの心配かよ）
「で、どうすんの？　帰りは･･･」
「ビジネスホテルが満室で、代行でネカフェまで行こうかな･･･と。福田さんは･･･」
「あ、私は父親が迎えに来る。あれ、3年前にも同じような話しなかったっけ･･･忘年会や暑気払いとか飲み会が嫌でって話したよね！」
「声、大きいですよ」
「いいじゃないですか。来てあげてんだから･･･」

車社会の地方都市では、飲み会が気軽に実施できない。職場でも交通アクセスが整った環境に住んでいる方はいない。飲酒運転はご法度。飲んだ後は、代行かタクシー、それかビジネスホテルに泊まるか、最悪は、気合を入れての車中泊である。しかし、エンジンをかけてヒーターをかけていると近隣住民より、直に文句を言われた事がありやめた。夏場でも今年の様に、灼熱地獄の熱帯夜なら、冷房効かせないと寝れないだろう。車中泊は諦めた。
「代行やタクシーでも3,000円軽くオーバーしちゃうしなぁ･･･。私ん家でも1,800円だったし･･･協会内の職員でも･･･やっぱ、私が一番近いほうだし･･･」
福田の話に相槌をうつ。1時間2分。家からの車での通勤時間。タクシーでも代行でも7千円以上取られる。勿論、常に値切り交渉している。その時は、もう酔っていない。

（逆ギレしたビジネスホテル）
「なんですってっ！　あそこのビジネスホテル12,000円って何？　それ！」この街には、ビジネスホテルや旅館が12軒存在している。そのうち、2軒がコロナ感染者のホテル療養として使用されていた。旅館は、長期の滞在者が使用しているらしく2軒は常に満員御礼状態。残された8軒なんだが、全て12,000円以上の価格設定になっていた。
「ホテルに聞いたんですが、コロナの最中は、行政より補助金などが出てなんとかやってこれたが、もう限界。経営が成り立たない。で、値上げというか、当分はこの金額で行きたいと言われた」
「ビジネスホテルの部屋が、その価格って言われれば、そうだけど･･･。カプセルホテルで6,800円って。ありえない･･･。ありえない･･･。無理･･･無理･･･。一度、難波で泊ったけど寝れないよ。鼾がうるさくて･･･」
「男女別れてなかったんですか？」
「別れてるよ。あ、女性が鼾をかかないとでも･･･。屁はこくわ。歯ぎしりするわで大変よ」

（ぐずり語りが長すぎで、酔えない）
今年は、まだ助かった。真向いの二人も隣同士で話しており、時折、話題に入ってきて、相槌を打つぐらい。事前に、気の合う者同士を組み入れた席になっているみたいだ。設定したのは、隣に座る酔っ払い女性の福田さんだ。既に出来上がっている。
「今年は、水野さんのぐずり語りも聞かずにおれるこの平和な忘年会。こういうの、いいだろ（パンっと背中を叩く）。どうかね。日村さん」
「いい調子になってきましたね」
「最近、君からみて、福田敦子を女性として、どうみてるかね･･･」
「あの･･･。十分、ぐずり語りになってますよ。でも、面白いですね」
「なにが、面白いだ。仕事をどう思ってるんだ。私は、バツイチだ。非正規で13年。ここで働いている。知らず知らずのうちに･･･一番のお局さんだ。この若さで。そうだろ」
「お仕事を丁寧にされているなと感心してます」

「日村大隊長殿！　報告があります」なぜか、敬礼している。
「なんでしょうか？」
「ダメだっ！　敬礼してくださいっ！　自衛隊にいたんでしょ！」
「はいはい」福田を見つめて、敬礼する。
「ご報告があります」
「なんでしょうか？」

「先ほど、屁をこきました」

「了解です。どのような状態で･･･」

「強く、屁をこきました･･･」

「了解です。他に報告はないでしょうか･･･」

「みが出ている模様です･･･」

やってられんわ。

忘年会会費　　7,000円　
ガソリン代　約1,000円
ネカフェ代　　2,000円（9時間パック）
福田様下着　　1,000円（ジュース代も含む）
計11,000円

登場人物
非正規雇用職員　日村隆三　58歳　元自衛隊勤務
非正規雇用職員　福田敦子　38歳　勤続13年目の団体職員