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【掌編】『先生!別人でしょう!』

「こんな学校あったらいいな」コンテスト投稿作品

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おかしい..

乗っとられてるんだ...

みんなは気づいてない...
オカダ先生の中身が入れかわってることを..

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ボクは尾祭小学校、2年2組の山下コウイチ。

クラスの担任は男のオカダ先生だ。

少し太ったオカダ先生はとても面白くて、いつもボクたちは先生の冗談に大笑いしている。
そしてオカダ先生は、生徒をえこひいきすることがない、とても良い先生だ。

でも、最近、オカダ先生はヘンなんだ..

先生の様子がおかしくなったのは、一週間くらい前からだった。

あの話とおなじだ..

先生の中身が入れかわってるんだ..
多分、クラスの中で気づいてるのはボクだけだろう。

え?なぜ、ボクが気づいたかって?

それにはまず、ボクのお父さんのことを話さないと..

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ボクのお父さんはとても映画が好きで、休みの日は家でずっと映画を見ている。

お父さんの好きな映画は、怪獣や宇宙人がでてくるようなやつで、いつも

「コウイチも見ないか?」

とボクに見せたがるんだ。

でも、お母さんがいると毎回こう言われる。
「お父さん、コウイチにはまだ早いわよ!」って..

だからお母さんがいる時、ボクはお父さんと映画を見ることはできないんだ。
ホントは見たくてたまらないんだけどね。

でも、この前の日曜日、お母さんは昔の友達に会いにいく、と朝から出かけてしまった。

するとお父さんが、うれしそうな顔でボクに手まねきしながら言ったんだ。

「コウイチ!映画の時間だよ!」

ボクはお菓子をもって、ドキドキしながらテレビの前にすわった。

「お父さん、どんな話?」

お父さんは、うれしそうにお菓子を口にいれて、パリパリと音をたてながらこう答えた。

「コウイチ、パリッ、どんな話かわかってたら、パリッ、面白くないだろう?パリッ」

ボクは、それもそうだと思って画面を見つめた。

それから2時間後。

ボクはとてもコウフンしていた!

宇宙人が人間の体を乗っとるなんて!

「お父さん!これ、ホントにあったこと?」

お父さんは笑った。

「ハハハハハ!本当にあったらコワいよなぁ!」

ボクが、それもそうか..と思ったとき、お父さんはいきなりマジメな顔になって言ったんだ。

「いや、コウイチ...ホントにある話かも知れないよ。
お父さんが知ってることなんて、世の中のほんの少しのことだけなんだから」

そうか...
ホントにある話かも知れないのか...

そのとき、そう言うお父さんの顔がすこし別の人に見えた..

それで、
ボクは気づいたんだ!

....最近、オカダ先生は冗談を言わなくなった。
授業中も、前とちがってぜんぜん楽しそうじゃない..

おかしい..

乗っとられてるんだ..

みんなは気づいてない...
オカダ先生の中身が入れかわってることを..

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次の日。

放課後の帰り道、ボクは親友のトオルに聞いてみた。

「ねえ、トオル、オカダ先生、変じゃない?」

トオルは、ああ~、と声を出してから答えた。

「でも、ウチの父さんも、たまにあんな感じの時あるよ。つかれてるんじゃないの?」

トオルには、まだわからないみたいだな...

しばらく歩くとトオルの家についた。

「じゃあね!」「バイバイ!」

ボクは、トオルにあいさつしてひとりになった。

よし!お父さんに言ってみよう...

家に帰ったボクは、夜中の仕事のために寝ているお父さんを起こした!

「ねえ、お父さん!」

お父さんはムニャムニャと寝ぼけながら目をあけた。

「...なんだ...コウイチ...もう時間か?...」

ボクは言った!

「お父さん!オカダ先生の体が宇宙人に乗っとられてるんだよ!」

すると、お父さんはまたフトンをかぶって、こう言ったんだ。

「ああ...そうか...それは大変だ...コウイチ...みんなを守るんだぞ...フワァ~...」

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よし...そうだな...
ボクがみんなを守るんだ!

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次の日も乗っとられたオカダ先生は、冗談を言うこともないクラい顔で授業をしている。

そして、国語の時間が終わり、この日の授業がぜんぶ終わった。

よし!

ボクは帰りの会が終わって、みんなが帰るとき、勇気を出してオカダ先生に声をかけた!

「先生。お話があります!」

すると、オカダ先生はすこしクビをかしげてボクに聞いた。

「ん?どうした、コウイチ」

「先生に聞きたいことがあります!」

このとき、トオルがこっちを見ていたので、ボクはトオルに手をふった。
すると、トオルも笑って手をふりかえして教室から出ていった。

先生は、小さな声でこう答えた。

「そうか。ここじゃマズイのか?」

「はい」

そしてボクはオカダ先生と相談室に行き、ふたりきりで向かいあってすわった。

オカダ先生はすこし心配そうに聞いてきた。

「どうしたんだ、コウイチ。家のことか?」

ボクはクビをふった。
そして怖かったけど、言ったんだ!

「先生のことです!」

「え、先生のこと?」

ボクは先生の目を見て、大きな声で言ったんだ!

「先生!先生は先生じゃないでしょう!別人でしょう!」

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...
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10年後...

高校生の僕は、地元の駅前でその人を見たとき、すぐに気づいて声をかけた!

「オカダ先生!覚えてますか?!」

前より少しやせて年をとったオカダ先生は、おどろいた顔でこっちを見た。

そして、昔と変わらない笑顔になった!

「え?.....ん?......あっ!コウイチだな!」

僕はうれしさのあまり、声が大きくなった。

「そうです!お久しぶりです!」

僕の心に10年前の記憶がよみがえった...

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『先生!先生は先生じゃないでしょう!別人でしょう!』

ホントに子供だった僕の言葉に、先生は笑いもせずにキチンと答えてくれた..

『え?.....ああ...そうか…
コウイチ…お前にはそう見えるんだな...』

先生はつづけた。

『そうだな...たしかに、今の先生は前とは別人かも知れないな』

つづけて先生は、マジメな顔になり、こう言った。

『よし、コウイチ!これは先生とふたりだけのヒミツにしてくれよ!』

そう言って先生は僕に、来年小学生になる自分の娘が病気になってしまった、と教えてくれた...

僕は何も言えなかった...

だけど、先生は笑顔になり、元のオカダ先生にもどってくれた!

『コウイチ、心配させて悪かったな!
よし!明日からは元の先生にもどるぞ!』

でも、そのあとオカダ先生は、娘さんのために空気の良い田舎に引っ越すことになり、残念ながら学校をやめてしまった。

けれど、やめるまでの間は約束どおり、元の楽しいオカダ先生に戻ってくれた!

今でもそれは、楽しい思い出として僕の心にのこっている...

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「先生、こんな所でどうしたんですか!?」

オカダ先生は笑顔で答えた。

「いや、また尾祭小学校にもどる事になったんだよ!」

「え!ホントですか?!」

「ああ、ホントだぞ!」

そしてオカダ先生は自分のとなりにいる女の子に僕のことを言った。

「彼、お父さんの生徒だったんだよ」

女の子は少しはにかみながら、僕にこう言った。

「あ...父がお世話になりました」

ああ、娘さんなんだ...

元気になったんだな!

僕は、ドギマギしながら答えた。

「あ、ど、どうも..こちらこそお世話になりました」

オカダ先生はすこし強く僕の肩をたたいて言った。

「コウイチ!今度、小学校に遊びに来いよ!」

僕はすぐに返事をした。

「あ、はい!みんなを集めていきます!」

オカダ先生はうれしそうに笑っている。

みんなも、よろこぶだろうなぁ..

僕はホントにうれしかった!

....そうかぁ...

....そうなんだ!...

....良かったなぁ...

....いやぁ...

....それにしても...

娘さん、オカダ先生に似なくて良かったなぁ!!

【おわり】

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