【超短編 Ⅹ 3】『キズナ』
【1.振り向かないで】
会社からの帰り道。
人通りのない暗い道を一人で歩いていた私は、いきなり後ろから声をかけられた。
『まだ、部屋に帰らないで!』
え..?
振り向こうとする私に、再び、同じ声がした。
『振り向かないで!』
怖くなった私は、振り返らずに駆け出した!
後ろから足音と共に声が飛んでくる!
『私は味方よ!まだ部屋に帰らないで!』
気が動転した私は、なりふり構わず全力で走り続けた!
もうアパートだ!
私はポケットから鍵を取り出し、2階の部屋を目指して階段を駆け上がった!
そして、鍵をドアノブに差し込み、左に回した!
え?
鍵が掛かってない..
次の瞬間、後ろから手で口を塞がれた!
『中に男がいるわ..』
さっきの声だ!
私は手を振りほどこうと抗った!
『じゃあ、私を見て!』
私は、恐る恐る振り向いた。
すると、
『助けに来たわ..未来から』
私、がそう言った..
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【2.家族】
その日の午後、家の掃除をしていると4歳の娘が来て私に言った。
「マルがいないの」
「え?」
マルは昔、実家で飼っていた犬だ。
娘の言葉が理解出来なかった私は、しゃがんで娘に聞いた。
「どういう事?」
娘は私の手を引いて歩き出した。
「え..どうしたの?」
そして、私が昔描いたマルの絵の前まで私を導いて止まった。
「あれぇ?いる」
不思議そうな顔で私を見つめる。
私は少し可笑しくなって、娘の頭を撫でながら言った。
「散歩に行ってたんだね」
「さんぽ、いってたのか..」
不思議そうに絵を見つめている娘を置いて、私は掃除を再開した。
数分後。スマホに母から着信がきた。
「もしも..」
母はいきなり話しだした。
「ねえ!聞いて!さっき危なく車にぶつかるところだったんだけど、後ろからグッて引っ張られて助かったの!後ろ見たら誰もいないのよ!」
「え?」
私の胸にシッポを振るマルの姿が蘇った..
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【3.もういちど】
ふと気がつくと、わたしは体を丸めて、狭く薄暗い場所にいました。
目の前にはやわらかい壁があります。突然、心にお母さんが泣いている姿が浮かんできました。
「お母さん..」
わたしの口から無意識にそうこぼれました。
「そうだ、わたし、死んじゃったんだ..」
夏休みの事。
一人、家の近くの川で遊んでいたわたしは、川に流され、気づくと、泣いているお母さんを上から見ていました。
お母さん..
とても悲しい気持ちでした。
覚えているのはそれだけです。
あれから、どれくらい時間が経ったんだろう?
ここ、どこだろう?
そう思った時、聞き覚えのある声がしました!
『どうだい?お腹の子は』
お父さんの声だ!
わたしは、壁をバンバンとたたきました!
『あ!蹴ったよ』
お母さんの声だ!
お母さん!お母さん!
『蹴ってるわ!声が聞こえたのかしら?』
お母さん!聞こえてるよ!
もうすぐ会えるんだね!
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【終】
サポートされたいなぁ..