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【ショートショート】『モテる男になる方法』

「もっと着るものに気をつかえ!お前の着てる物はダサイ!よくそんなTシャツ着れるよなぁ」
モテ男、川嶋は俺を見下した様な目でそう言い放った..

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とてつもなく暑かった夏の話。

俺、京南大学1年の葛西雄一は、憧れの智花さんのハートをゲットするためにもがいていた!

智花さんは、俺と同じ健康食品の通販のコールセンターでバイトする、1つ年上の大学2年生だ。
そして、ハッキリ言って俺はこの仕事に向いていない。
それはバイト初日でイヤと言うほど思い知らされた。だが俺は辞めなかった。
何故なら、智花さんがいたから。
歩合制の高給に惹かれて応募してみたものの、この仕事はそう甘いものではなかった。
見ず知らずの人に、いきなり電話をして物を買ってもらうなんて、小心者の俺には途轍もなく高いハードルだった。
電話先から、あれこれと突っ込まれて
「続きはウェブで」
と電話を切ってしまった事もある。
だが俺はやめなかった。
何故なら隣に智花さんがいるから。

「葛西君、今日も頑張ろうね!」

中々、実績を上げられない俺に智花さんは優しく接してくれた。
智花さんはとても綺麗な声をしている。
声優を目指しているという彼女は、声を使う仕事がしたくて、このバイトを始めたらしい。

そんな智花さんへの想いを募らせていた俺はその日、バイト前に高校時代の同級生、川嶋に助言を求めた。
高校時代、数々の伝説を持つレジェンド【モテ男、川嶋】は待ち合わせた喫茶店で、俺を上から下までじっくり見てからこう言い放った。

「もっと着るものに気をつかえ!お前の着てる物はダサイ!よくそんなTシャツ着れるよなぁ」

結果、川嶋の助言は全く役に立たなかった。
着るものを変えたら、智花さんのハートを射止める事が出来るというのか?
そんな事を言われてもファションに疎い俺はどうしていいか解らなかった..

俺はその日のバイト後に、思い切ってストレートに智花さんを誘ってみることにした。

「あの、今日、時間あったら..お茶でも..」

「あ、ごめんね!今日はダメなんだ」

「そ、そうですか…じゃあ、駅まで一緒に帰りませんか?」

「うん、いいよ」

駅までの10分間、誘ってはみたものの、何を話していいやら..
無言の時間が続く..

そして、気まずい時間が続くなか、突然、智花さんが声を上げた!

「葛西君、あれ!」

智花さんが指差す方向に目を向けると、30メートル程先の公園にある大木の下に、数人の大人が集まって上を見て騒いでいる。
上に目をやると、子供が5、6メートル程の高さの枝にぶら下がっていた!
俺と智花さんはそこまで走った!

集まった大人達は子供を助けようにも、誰も木に登れず困っている。

突然、その中の1人が俺を見て叫んだ!
「あっ、あなたは!」
その声につられ、周りの人達も一斉に俺を見た。
「おお、良かった!いいところに来てくれた!」
「えっ、な、何ですか?」
皆の視線は俺の胸元に注がれている。
俺が着ていたのは、
量販店で買った、大きな赤色の【S】の文字が黄色で縁取りされた、アメコミのスーパーヒーローの青いTシャツ。

皆は期待のこもった顔で俺を見ている!

そして智花さんまで、俺に言った。
「あっ!!葛西君って高い所、平気そうじゃない?なんか着地も上手くできそうだし!」

そ、そんな..名前だけで決められても..

いや、智花さんの、この目!
これはチャンスなのか?

よし!覚悟を決め...
その瞬間、上から強い衝撃を感じて、俺の意識は途切れた…

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「凄いね、葛西君!」

病院のベッドで寝ている俺に智花さんは嬉しそうな満面の笑顔で言った。

「いや、何もしてないですよ..ただ立ってただけで」

「いや、そんな事ないよ!葛西君のおかげだよ!」

俺の上に落ちてきた男の子は、昨日、母親に連れられて、ここにやって来た。
母親の後ろに隠れる様にして、気まずそうにしていたその子は、かすり傷ひとつ無い、全くの無傷だったらしい。
心底、申し訳なさそうに謝る母親に、俺は、
「いや、大丈夫ですから」
と繰り返した。医者に言われて入院しているだけで、本当に大した事は無かった。

智花さんが俺を見つめながら言う。

「葛西君が、男の子の命を救ったんだよ!」

「いや、あの…そうですか?」

「そうだよ!葛西君、凄いよ!」

俺を見つめる智花さんの、その眼差しは…
とても優しかった。

【了】

監督、脚本/ミックジャギー/出演,葛西役.清田章益、智花役.のん子、川嶋役.未来ノエル、子役.鈴木大福、

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