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一作目『それでも僕はここで生きる』 #1.終焉

1.終焉

 電車の窓から見えたあの大海原は、僕を恐怖のどん底へ陥れた。あの黒々とした荒波は、今にも私を飲み込んでしまいそうであった。   
まるで、クジラが海水を飲み込むような自然さで、そして大胆に。
 いつからだっただろうか。僕が海を恐れるようになったのは。気づくと僕は、海が怖かった。あの日、電車から見た海は僕の海への恐怖(いや、畏敬とでもいった方が良いのかもしれない)を増幅させて、それは僕の中から溢れてしまいそうになった。そして、僕はそれに溺れてしまいそうだった。その時乗っていた電車は年季の入ったものだった。その脆さも僕の恐怖を大きくした要因の一つかもしれない。
その海は淀んだ雲に覆われた濁った灰色の空の下で荒れ狂っていた。それは他の追随を許さない、圧倒的な強さであった。僕は自分の存在の小ささを知った。最も死を身近に感じた瞬間だった。つまらないことに怯えている日常を愧じた。その大海原を見て覚えた恐怖は僕の日常を大きく変えることになった。いや、その事件は、私の日常に大きく降りかかり、それを散々踏み荒らしていった。と言った方が良いかもしれない。
 あの海を見たその日から、僕の凝り固まった世界観は破壊されたのだ。そう、もう修復不可能なくらいに。

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