永遠を約束されたくない話
絶対に離れないよ、だとか。
永遠に変わらないよ、だとか。
契約の見直しをはかるつもりのない未来の口約束をされると困ってしまうのです。
「変わることはない、だから安心してね」
きっと心から、良かれと思ってそんな言葉を優しくかけてくれるのでしょう。
僕は、「そうですか、ありがとう」
そう答えました。
君が、未だ来ぬ時間を決めつける言葉を口にする。
その胸の内にあるのは、僕に理解はできずとも、きっと親愛の表れなのだと思うから。
だけれど、本音を言えば、僕にとってそれはただただ恐怖でしかない。
昨夜好きだったものを、今朝見限ってしまう僕です。
君が変わらないことを約束しても、僕はその約束に従えません。
世界の平等はただただ諸行無常であること、この一点。
君たちが、理想と戴く一見不変の者たちが、
一体どれだけの努力と調整を経て、その姿を保っていることか。
変わらないこと。
永遠であること。
それはとても不自然な理想です。
軽率に「永遠」を誓う人、「絶対」を語る人たちは、とても素直な、良き人たちなのでしょう。
けれど恐怖。
だって、それすなわち、これから先の僕自身の如何様な変化も認めてくださらないということではないでしょうか。
君が、「絶対」と「永遠」を約束する僕は、もう今日の僕ではないというのに、今日の君の約束を、僕ではない僕も引き受けることになる。
奇妙なことを言っている、と君は僕に首を傾げます。
君たちの世界で、僕に「絶対」と「永遠」を約束する君は、どういうわけか僕よりも正しいもののようです。
僕が、君たちから離れていくことを、君たちは想像できないし、その可能性すら肯定してくださらない。
これから先の変化が、どんな風に訪れるのかもわからない内から、その余地を認めてくれない、そんな偏狭な存在に、僕は僕の世界の一片たりと、任せるわけにはいきません。
他者との不自然な約束よりも前に、僕は、僕に許さなくてはならない。僕が、進化と変化を続けていくことを。
僕は、
森羅万象が常に流転していることを知っています。
昨日好きだったものを今日も好きなのは、ただそれを好きであることを、たまたま今日も新しく更新したまでに過ぎない。
それは、変化していないのではなく、微細な変化の上に成立している。
人間の進化のためのバッファーを、自ら用意することを放棄する人間を、僕はどうにも理解できません。
自由でいませんか。
お互いに、自由でいましょう。
君たちが変わらないものを尊ぶ気持ちを、僕は不自然に思いますが、思うだけに留めます。
その代わり、僕に不変を約束しないでください。
勝手に約束をして、僕が喜ぶことを強要しないでください。
僕は、変わらないことに価値を見出せない。
ただし、続くことはまた別です。
続くことと、変わらないことは、似て非なるものだと、僕は思う。
続けていこうという意志は、変化の中で生まれ、進化として育まれる。尊ばれて構わないものだと思います。
変わることが当たり前の中で、常に揺れ動きながら何かを先へ先へと繋げていく。
これを、僕は、僕に与えなくてはならない。
僕に、絶対を約束しないでください。
僕に、永遠を約束しないでください。
よしんば、約束をすることは結構。
けれど僕に、喜ぶことを強要しないでください。
僕は、今日、君が好きかもしれない。
僕は、明日、君が嫌いかもしれない。
本当は君だって、そうなのではありませんか。
お互いに自由でいましょう。
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