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【地方移住】古民家に住んだら家ネコたちがタマになってジジにもなった

 私は動物の帰巣本能を信じていなかった。
 
 でも我が家のネコたちには帰巣本能が備わっていたようで、そしてその本能は今住んでいる古民家で本領発揮されたようだ。その本能を目の当たりにした私はそれを信じることになった。

 以前の私は『サザエさん』のタマがどこか散歩に出かけてもご飯の時間には戻ってくるのを「アニメでしょ。」、『魔女の宅急便』のジジがデートに行ってもキキと会話できなくなっても帰ってくるのを「魔法だからでしょ。」と思っていた。

 犬の話になるけれど、私が帰巣本能を信じなかったのは子供のころ飼っていた犬の影響も大きいと思う。大型犬でもふもふの真っ白い毛のこの犬を私はとても大好きだった。散歩のときにリードを持つには4,5歳の私には犬の力が強すぎて持たせてもらえなかった。たまに持たせてもらうと犬はここぞとばかりに引っ張り私は当然転ぶ。犬は「しめた!」と思ったのか全速力で目の前からいなくなってしまったい、転んで泣く私と慌てる両親だけ残される。痛いし目の前から犬は消えるしでとてもショックだった。
「もう、会えないかもしれない。」

 結局犬は近所(徒歩15分ほど)の同じ犬種の犬とじゃれているところを発見され、家に戻ってきた。
 「仲間と遊びたかったんかな。」と感じつつ家には帰ってこんのかい!というツッコミとこんな大きな犬が歩道や車道を走ってたら道行く人はびっくりしただろうな…と子供心なりに色々考えたことを覚えている。

 その経験もあり、私にとって『帰巣本能』という言葉は都市伝説、またはフィクション的な立ち位置にあるものだった。
 
 夫さんと結婚前に同棲する時は私が夫さんの家に転がり込んだのだけれど、そこには先客がいた。夫さんが保護ネコ活動している近所のおじいちゃんから譲ってもらったキジトラのオス猫「しーちゃん」だ。当時で7歳くらいだったから今はもう12歳くらい。うんちを絶対猫トイレの外でするこだわりが強い(?)ネコだ。

 しーちゃんはよく寝室の窓近くで昼寝をしていた。マンションの廊下側の部屋なので縦に格子が入っているけれど、網戸をしないとしーちゃんはするんと通れてしまうためいつも網戸を閉めて風が通るように窓を開けていた。

 もう原因は覚えていないけれど、ある夜私は網戸を開けた。そしてお風呂に行ったのである。はは~ん♪と気持ちよくなってお風呂から上がると、しーちゃんが部屋の中にいない。
 「?!」と部屋中「しーちゃん!しーちゃん!」と言いながら駆け回ったけれどその時の私の頭の中には網戸が開いた窓がよぎっていた。
 外に出てとりあえずエントランスの方に向かおうとすると「んなーご」と聞き慣れた声が聞こえた。マンション内の階段からだ。階段を降りると今まさにマンションの敷地から出ようとしているしーちゃんと目が合った。ここで追いかけるとしーちゃんは逃げる。そーっと「しーちゃん」と言いながら近づいた。抱こうとすると気分でぬるんと逃げたりする。今はそんなことさせれらない。ゆっくり抱いて立ち上がって少しきつめに抱いた。「いたよ~!」と夫さんに報告できたことでどんなに安心できたことか。

 しーちゃんの帰巣本能は見られなかったので、その後も私の帰巣本能不信は続いていた。しーちゃんは「よっと、ちょっと失礼しますよ。。」という感じで洗濯を干したりするときにちょっと空いているベランダの網戸の隙間から外に出ていこうとする。
 我が家は2階だし、隣の部屋とベランダは続いてるし、下に降りてしまったらベランダの外は芝生で普段は立ち入り禁止だから追えない。なのでしーちゃんはすぐ部屋に入れざるを得ない。しーちゃんはいつも外を見ていた。

 そんなことで数年たち、しーちゃんの環境も変わっていった。最初は夫さんと2人きりの生活でラブラブしていたのに、私が増え、また一人長女が加わった。しーちゃんは赤ちゃんと過ごすことが初めてだろうけど大丈夫かな、ケガさせたりとかしないかななどの不安も杞憂に終わるくらいしーちゃんは大人で、近すぎない距離で長女を見守ってくれていた。

 それから2年たち、私が道端で生後1週間くらいの子ネコを拾った。長女を保育園に送るのに自転車で送迎していたのだけれどもうすぐ雨も降りそうという中一匹の黒いちーちゃいネコがうずくまっていたのだ。
 その付近はノラネコをよく見る場所で家族で行動しているところもよく見ていた。お母さんネコが迎えに来るよね、とその時は通り過ぎたのだけれど長女を保育園に送り届けた後も「もしあのまま親ネコが来なかったら…」という不安から職場に向かう駅の方向ではなく黒ネコがいた場所に戻った。戻るとまだ黒ネコはさっき見た場所と同じ場所にいて家族も近くにいないような感じだった。
 雨も強くなるし、とりあえず抱くことが出来たので夫さんに電話で相談し、動物病院に連れて行った。目やにが多かったのと生後間もなかったことが気になったからだ(仕事はさぼってしまった)。

 とりあえず『保護ネコ』という名目でうちにいようね、のまま「おはぎ」と夫さんに名付けられ受けるべき予防接種と避妊手術を受けていつのまにか正式に我が家の5人(匹)めの家族になった。ちょっとしっぽが短いのがポイントのおてんばガールとして長野に来てからも場所見知りもなく家の中を走り回っている。

 引っ越す前は「家が広くなるから大き目のキャットタワーを買ってあげようかな」とか思ってたけど、さすが築100年以上の古民家、大きな梁がむき出しで、天井裏も階段を駆け上って好きに走り回っている。なんだ、キャットタワーいらんわ。家じゅう駆け回ってくれ。それでも野良出身のこの2匹が長野の家から見える壮大(?)な自然を前に興味津々なのは仕方ないことなのだろう。

 玄関の引き戸が少し重ための古いものなので開け閉めをサボる時がある。買ったものを車から何度も往復して玄関に運んだりする時や、外の水道でちょっと洗い物をしたりする時だ。湿気が多い地域なので換気のために開けておきたい時もある。
 
 しーちゃんとおはぎはそれを見逃さなかった。

 しーちゃんはそろりそろりと気配を消すように出て行った。おはぎはスピード性重視でびゅーっんと駆けていった。2匹とも探索に出かけてしまったのだ。私はまた思った。「もう、会えないかもしれない。」

 引っ越ししたてでお別れはキツイよ~と家の周りを探したらしーちゃんは玄関横に置いてある自転車の下にいた。さすが慎重派。おはぎは数メートル先で私たちの様子を窺っていたけれど「戻っておいで」と言ったら家の裏に走って行ってしまった。とりあえずしーちゃんはハウスに入れて、玄関は開け放して少しのキャットフードを置いておいた。おはぎはしーちゃんほど食に貪欲じゃないけど来るかな…と思いつつ。

 何時間か経って夫さんと玄関で話していたらすすーっとおはぎが帰ってきた。帰ってきた!!私は初めてどこかから帰ってくるネコを見たのだ。
 
これが帰巣本能!どこまで探索してたかわからないけれどちゃんと帰ってきた!嬉しいのとほっとしたのとでおはぎをなでなでした。

 その後も玄関の開け放しには少し用心するようになったけれど、長女が出て行った時や外にある道具を取りに行く、なんて時は開けっ放しになってしまう。2匹はその時をいつも待っている。そして私たち家族は探索に行くおはぎとしーちゃんを見逃すようになっている。今までのマンション住まいとは違う暮らしは私たち人間だけじゃなくネコにも影響を及ぼす。外に出ていくことがこの大自然の中で自然なことなのなら帰巣本能を目の当たりにして信じる私は今日も玄関を開け放そう。

開けっぱなしの重たい玄関

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最後まで読んで頂きありがとうございます。夫さんが思う存分農業が楽しめるように私も好きなことでサポートしていきたいと思っています。頂いたサポートは今後の活動に充てていきます!