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帰宅電車の男性と窓の星

夜7時を過ぎて電車に乗ると、
車内は一家の主人であろう男性達が
8割を占めていた。
この世は男性の方が多いと思わされるほどだ。

着込んだ男性4人が対面式ボックス席に
窮屈そうに座っている。
そのうち1人が降りたので、
女1人で混じって座った。

前の男性が考え事でもしているらしく、
目を閉じ眉間にしわを寄せ、何かを数えるように指を折っては、また,数え直して指を折る。

その左手薬指に結婚指輪がはめられている。
50代半ばに見える、ごく普通のおじ様。
周りを見ると、半数ほどの男性は、
夫婦の証の指輪をつけている。

私自身あまり装飾品をつけずに生きてたせいか
男性の指輪を意識したことはなかった。

この車両に乗る男性陣は、
一家を養っている人たちなんだ。
誰もが少々疲れた表情で、
何を考えているのか想像もできない。

なのに、このお方々が、なんだか
今夜は愛しく感じて胸が和んだ。
彼らの帰路の先に待つ妻人の顔も、
美しく思い浮かぶ。
こんなふうに感じた自分がうれしい。

家族を食べさせる、とか、養うためとか、
そんな男性のセリフが世の中にはある。
この言葉を聞くと、
胸の中が波立って体に微かな緊張が走る。

私には間違いなく殺し文句だ。
なのに縁のない言葉で
もしも言われたら、
そんなことは求めてない、
幸せは自分でつかみます、と言うだろう。

そして、もうひとりの私は、
なんで、こんなこと言ってんだろう、と
思いっきり顔をしかめる。
この矛盾極まりない性根には手を焼く。

家族を持たない天涯孤独ではないが、
私は何かを家族という存在に相談したことはなかった。

皆既月食が過ぎ、月は新月に向かっている。
今後自分に訪れる新たな年月をどうするか。
半世紀以上生きていても、まだ独りで
問いかけ続けている。

道を歩けばせっかちで、早足ごぼうぬきで人を追い越す。が、よく転ぶ。
いきなり転ぶ。ツンのめる。
どうしょうもない、危なっかしくて。

見た目は時を重ねて熟していても、
いまだに、もがいているし、足掻いている。

感謝はするが、やっぱり魂は
もっと何かを追い求めている。

それがなくなったら、
私はきっと私ではなくなる。  
自分の芯は取り替えることはできない。

ふと窓の外に星が見えた。

宇宙には、いろんな星があって、
各々自分の軌道で淡々と長い時の中にいる。

宇宙に存るものに視点を飛ばすと
今ある現実がオーロラに覆われるように
色が変わりだす。

月は好きだが、太陽に憧れる。
出たり沈んだりしながら、
明るくあったかく、
世界を見て回るのが私の夢だ。

地球も、おそらく永遠ではないだろう。
残された地球時間の中の、
私の残り時間をどうしようか。

持っていけるものは魂の記憶くらいだ。

私は、宇宙が好きだ。

電車に乗り合わせた男性達も、その家族も、
星に混じって窓に映った夜が
過ぎていく。

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