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"唯一無二の額"額司 游游雅 宮井譲さんのこと


わたしは美術館・博物館や、ギャラリーへ展示を観に行くと、作品そのものと同じくらい、額装がくそう表装ひょうそうの細部まで気になって、じっくり鑑賞してしまうタイプです。


作品の写真撮影がOKな場合は、それらを主にして撮ることもよくあります。(えぇぇ?この人なんでそんな横から撮る?・・・え、額縁?と思われていることもしばしばでしょうw)


平面作品の展示に欠かせないパートナー、かつ、作品をうっかり残念にしてしまうのも、格段に魅力的にしてくれるのも、額装や表装次第といっても大袈裟ではないはず。

だから、自分で専門店へ額装をお願いしに行くときは、とても悩みます。本当に本当に、奥が深くて魅力的な世界。もっと本格的に勉強したり研究したい分野の一つです。


また、額縁がずらっと並ぶお店に行くとテンションが上がります。
特にポストカードや写真を入れたり、B2やA4サイズのポスタ―などを入れたりする額縁は、常に素敵なものを探し続けている感じが。
でも、なかなか出会えないんです、これだ!という素敵な額縁に・・・。

と思っていたら、少し前、偶然行ったギャラリーで、これまでに見たこともないような、一つひとつに物語を感じる額を作り続けている方に出会いました。額司 游游雅 がくし ゆうゆうが宮井 譲みやい じょうさんです。

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唯一無二の"作品"として 額を作り続けて


それは10月終わりのことでした。
小山薫堂さんがご自身のInstagramに、写真展を開催していると投稿していて、わたしはギャラリーの名前をググり、数日後、出かけてみました。
(薫堂さんの展示と後日談も近々noteに書きます。お楽しみに✨)

初めてお邪魔した、Roonee 247 Fine Artsルーニィ 247 ファインアーツさんは、東京・日本橋、小伝馬町と馬喰横山の間にあって、写真を中心に広く作家ものを取り扱っているギャラリーです。


入ってすぐ、展示を観る前に気になったのが、販売用として並んだ額縁でした。正方形や長方形で、淡く輝く白いシェル素材をぐるっと丁寧に貼り付けているもの。初めて見るデザインで、シンプルだけど、上品な存在感があって、ありそうでない素敵な感じでした。

声をかけてくれたスタッフの方にお話しを伺います。
額縁を見るのが好きで、これはとても好きな感じで、素敵です!合わせるマットで雰囲気がずいぶん変わりそう!なんて、あれこれ楽しくお話ししていると、

額縁がお好きなら、この作家さんは絶対に好きだと思う。お薦めです!来週からなので、ぜひ!!!といただいたDMが、宮井さんの展示のものでした。

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1週間後、お邪魔すると、薫堂さんの写真が並んでいたお部屋の四方の壁に、ずらずらっと宮井さんの作品がかかっています。

当たり前ですが、同じ空間とは思えないほど様変わりした雰囲気、そして

す、素敵すぎる!!!

わたしは一瞬で魅了されてしまいました。これ、全部、額縁なんだ!!!

どれもL版の写真かポストカードが収まるサイズ
マットな黒とゴールドのデザイン  なんとなくピアノを連想しました


朗らかな笑顔と関西弁で、宮井さんご本人が迎えてくださいました。

わたしが訪れた日は、会期が始まって数日、最初の週末でしたが、なんとすでに半分以上がお客様のもとへ旅立っていったとのこと。お一人でいくつも購入された方もいらっしゃったそうです。

え、これ以上にたくさん並んでいただなんて。相当びっくりしました。

いわゆる普通の、シンプルな額縁は、ほぼありません。どれもこれも、超個性派。額縁、ということを忘れる、見事な立体作品でした。

一つとして同じものがないんです。一つひとつをじっくり。本当にずっと眺めてられるなぁと思ってしまいました。
四方の壁を5~6回ずつ見渡しても、全く飽きません。むしろあれもこれも、と、欲しい額がどんどん増えていきます・・・。困ったぞ。

宮井さんは、美術品を運ぶドライバーのお仕事を経て、額づくりを教わるべく師匠の元へ弟子入りされました。
32歳で独立し、すでに20年以上、大阪を拠点に作家活動を続けてらっしゃいます。

どおりで、わたしがぐるぐると見とれているそばから、ファンの方がいらして額が売れていく訳です。
「うんうん、それ素敵です!!」「ですよね!!」なんて盛り上がります。

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わたしが最後まで迷った一つが、この黒とゴールドの方。
シックな雰囲気と、スカラップのデザインのバランスが絶妙で、一目で心を掴まれました。とても良いです。

具体的にどうやって、このスカラップ模様を作ったのか、宮井さんに伺うと、「もう二度と作りたくないなぁ」と苦笑いされるほど、本当に根気が必要で手間がかかった、と話してくださいました。

というのも、ベースとなる木の板を、糸のこぎりでカットして形を作っていくため、なんと、細かいスカラップ模様の波の一つひとつに、左右から刃を入れて、なめらかな丸みが出るようにカットしていったそう。

とんでもない集中力が必要で、休憩を入れながらの長時間の作業は、さぞ大変だったろうと思いました。そんな意味でも、貴重すぎる作品。まさに唯一無二ですよね。

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また、こちらにも目を奪われました。
長い長い時間の経過を思わせる、風化した煉瓦のような、ヨーロッパのどこかの家の外壁のような、絶妙な色と質感。素敵すぎます。

それぞれの額の厚みが伝わりますでしょうか。

厚みがあるので、壁にかけるのはもちろん、立てかけるだけでも良さそう。これ一つで、お部屋の雰囲気ががらっと変わるの、想像できますよね。

この教会の祭壇画を思わせるデザイン額も素敵で、相当悩みました。
こうして改めて眺めてみても、やっぱり素敵だー!いいなぁ。

そして一目見た時から、クリムトのポストカードを飾るしかないとも思いました。

迷っているそばから、また一つ、一つ、とお客様が購入されていきます。
確かに、こんなに凝ってる、存在感抜群な額って、他にないですもんね。

正直、中に飾るものを選びそうではあります。額に負けない作品でないと・・・
でも、例えば唐紙やテキスタイルを入れて飾ったり、鏡を入れて使う方もいるそうで。なるほど、それは確かに素敵。鏡にするの、かなり良さそう。

あれやこれやと、宮井さんに額と額装にまつわるお話を伺っていたら、あっという間に1時間以上も話し込んでしまっていました。

宮井さん、初対面にもかかわらず、制作にまつわる貴重なお話を、本当に気さくに話してくださってありがとうございました!!!
大阪市立美術館のコレクション展、いつか絶対に観に行きます。

※掲載の画像はすべて、宮井さんに許可をいただいて、わたしが撮影させていただいたものです。無断転載はご遠慮ください

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で、結局、わたしが購入したのは?


一目見たときから、飾りたい写真やポストカードが、部屋に置いたときのイメージが、一瞬で鮮明に浮かんだのが、このお月様と雲の作品でした。

宮井さんのInstagramには、この会期中に展示・販売されていた作品がたくさん掲載されています。ぜひご覧になってみてください!!!
なんと、オーダー制作や、木製の額縁のリメイクや修復の相談もできるそうですよ✨

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なぜ画集や図録には額縁が載らないの?


宮井さんとも話したのですが、実はわたし、子どもの頃からずーっとずっと、不思議に思っていることがあるんです。

なぜ画集や展覧会の図録の写真には、絵画作品なら額装がくそうごと、掛け軸なら表装ひょうそうごと、掲載されないのでしょうか。

確かに、その額装も表装も、作家自身が手掛けてはいないことが多く、まるっと"作家の作品"とは言えないから、載せないのでしょう。
また、取り換えがきくので、古い時代の作品であればあるほど、作品が完成した当時のまま、ということではない可能性もあります。


でも確実に言えるのは、作品との相性を考え、一体となって展示されることを想定し、考えに考え抜かれて設えられていること。

例えば中世ヨーロッパでは、絵画と額縁はセットで制作されるのが当たり前で、美しい額縁をつくる専門の職人が数多くいた時代もありました。
作家の名前が彫られたプレート付きで、草花の透かし彫りが美しい額縁も多数。

掛け軸の表装でも、作品と連動した図柄の裂地きれじを取り合わせていたり、着物のように艶やかな日本刺繡が施されていたり、岩絵具で直に描いているものもあります。

額装・表装の歴史や技法についてや、図録に載らない謎については、今後も個人的に調べつつ学びつつ、考え続けていきたいと思っています。

また、そもそもの額装の奥深さや魅力の話も、このnoteでいつか書きたいテーマです。こつこつリサーチや取材を続けますので、気長に更新を待っていてもらえると嬉しいです!

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