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Naomi
2020年8月23日 00:09
フランスはカトリックの国である。ホームステイ先のマダムは敬虔なカトリック信者で、食べものを残すと異様に怒った。「食べたくても食べられない人も居るのだから」と言って。 ここはマダムと娘のセシル、留学生三~四人がいる下宿屋だ。住み始めて二、三ヶ月の頃、アメリカ人大学生ベスがやって来た。ベスは典型的な今どきの大学生で、部
2020年7月27日 01:12
電話の相手は泣いている。「パるドン? キェす?(すみません、どなたですか?)」「あっ、ハル、ごめんね、ひろみです。今ちょっと話せる?」地味で真面目なひろみだった。「うん、大丈夫」「私、妊娠したみたい」「えっ?」ハルはびっくりして、椅子から転げ落ちそうになってた。何故ならそれまで、ひろみには男の影が全くしなかったからである。「ひ、ひろみ、彼氏
2020年9月15日 09:09
「こんなことってあるんだな・・・」と思いながら、ハルは恋に勉強に充実した毎日を送るようになった。クリスはハルをとても大事にしてくれて、ハルは恋人たちの街パリで、それまで経験したことがないような幸せを噛みしめていた。しかし、この幸せはあっけなく、粉砂糖で作ったお城のように、崩れてしまった。ある日、ハルが卒業試験に向けて勉強していると、クリスから電話がかかってきた。「ハル~、受かったよ
2020年9月3日 07:37
フランス人にとってのフェット(パーティ)はとても重要だ。彼らは日本人には想像もつかないくらい、家族、そして友達を大事にする。もちろん、家族が一番大切で、二番目は友達。恋人のポジションは、友達と家族の間を行ったり来たりする流動的な物。職場の上司、同僚なんかはどうでも良い存在で、もちろんその中から、友達や恋人も作るけれど、友達でもない同僚との人間関係に悩むなんて、皆無だ。彼らの社交性は、小さい
2020年5月21日 17:53
それは、母の再婚がきっかけだった。 父と別れて五年、母は馴染みの酒場で知り合った男と再婚した。もう五十代も終わりになろうとしていたし、父との離婚で散々な思いをしたから、何でいまさら? と思った。 ハルがたずねると母は嬉しそうに言った。「話が面白いのよ。あの人の話、もっと聞きたくって」 年頃の娘がいる家に男を住まわせることを、なんとも思わない母も不思議だったが、娘の心配より男のことで頭がいっ
2020年7月7日 04:01
翌日、授業が始まった。八時半からだったので、七時半に家を出た。「ボンジュール、マドモアゼル、サバ?」地下鉄でキオスクのおじさんに挨拶される。私は元気よく答える。「サバ!」 サバは鯖ではない。フランス語で「元気」の意味だ。しかしこの言葉を耳にし、口にするたび、日本人の頭には鯖が浮かぶ。鯖びやん。パリはキオスクのおじさんすら愛想が良い。特