マガジンのカバー画像

新米オーナーズストーリー archive

16
雑誌『料理通信』2006年6月の創刊号から14年続いた連載〈新米オーナーズストーリー〉。自分の店を持ったばかりの店主たち、その店づくりに関する物語です。 全149回からセレクトし… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

麦酒屋るぷりん/銀座

麦酒屋るぷりん/銀座

2012.6.9 OPEN
「店を作ることで、どう世の中のためになるか。」

 もしも心の検索ワードランキングがあるなら、昨年の断然一位はきっと
「自分に何ができるのか」
 だろう。3・11以後、誰もが必死に探した言葉。まるで紀元前・後のように、日本には、その日を境に「変化」が突きつけられた。

 西塚晃久さんの紀元前、それは彷徨いの時代だった。
 料理人の父に反発し、やがて誇らしさを覚え、自身も

もっとみる
ビスポーク/東中野

ビスポーク/東中野

飲食店には、世の中の事情が直撃します。そして料理人の道を選んだ人は、働く店の一喜一憂に翻弄されることになります。
不景気、震災、といった事情で職場を失った野々下レイさんは「二度とクビになりたくない」から自分の店を構えました。
2014年4月号の『料理通信』新米オーナーズストーリーは「ビスポーク」。2012年2月22日に開店した、東中野のガズトロパブです。
当時は人通りの少ない寂しいエリアで、その年

もっとみる
蕪木/浅草橋

蕪木/浅草橋

蕪木祐介(かぶきゆうすけ)さんが「蕪木」を開店した2016年は、海外からやってきたコーヒーカルチャーと、ビーン・トゥ・バー(カカオ豆から一貫して自社で製造するチョコレート)が席巻する世の中でした。
けれど、蕪木さんの出自は日本の喫茶店であり、日本のチョコレート。
彼は珈琲豆の焙煎士で、チョコレート職人で、喫茶店店主です。

外の世界がどうあろうと、自分の内面から生まれるものを軸につくられた「蕪木」

もっとみる
L'AS/CORK /南青山

L'AS/CORK /南青山

2012年の開店当時、「L'AS(ラス)」は料理誌をはじめ、ありとあらゆる雑誌に掲載されたんじゃないかと思います。
なぜそんなに注目されたのかというと、大阪「ラ・ベカス」、東京「コート・ドール」、フランス修業を経て「カラペティバトゥバ!」を成功に導いた兼子大輔シェフへの期待感。
そして、彼の表現した「フランス料理店」が、日本では見たこともない世界だったからです。
厨房とフラットにつながる客席、引き

もっとみる
ペレグリーノ/恵比寿

ペレグリーノ/恵比寿

自分は、何のためにこの仕事をしているのか。
コロナ禍では多くの人がこの言葉を口にしましたが、イタリア料理店「ペレグリーノ」の高橋隼人シェフから聞いたのは2015年。
2009年に開業した西麻布から恵比寿へ移転した、新米オーナーズストーリーの取材(料理通信2015年9月号)でのことでした。
「うまいものを作りたい」
答えは非常にシンプルなんですが、彼はそのために「土地を買って家と店舗を建てる」という

もっとみる
SUPPLY サプライ/幡ヶ谷

SUPPLY サプライ/幡ヶ谷

2019.1.23 OPEN
「隠れたくない!」

 車がビュンビュン走る甲州街道に、冴え冴えと浮かぶ真っ白な暖簾。やや頼りなさげな、とぼけたような、浮遊感のある筆致でSUPPLYと書いてある。
 横長の店の幅いっぱいに全面ガラスのサッシ。
 カウンターにからりと並んだ背中。
 ラーメン屋?
 いや違う。お客はみんなナチュラルワインを呑み、イタリア料理をつまんでいるのだから。

「見え過ぎるくらい

もっとみる
COFFEEHOUSE NISHIYA/渋谷

COFFEEHOUSE NISHIYA/渋谷

2013.9.17 OPEN
「町のコンシェルジュになる。」 雨の日、カラフルな傘の群れが、大きな窓の外を流れていく。近所の女子高生たち。店の中から西谷恭兵さんが手を振ると、いくつかの傘が気づいて振り返し、後から後から “交信”が連鎖した。
「通学路なんですよ。彼女たちはお客さんじゃないけど、毎日こうしてる」

 バールである。
 でも「日本で、BARと書いてバールと読む人が何人いる?」とあえて「

もっとみる
デポーズィト バガーリ/三軒茶屋

デポーズィト バガーリ/三軒茶屋

飲食店を営む理由も、道のりも、店主の数だけあっていい。
連載「新米オーナーズストーリー」を始めてから12年後、『料理通信』2018年8月号のvol.130で、あらためてそのことを教えてくれたのが、イタリアワインバー「デポーズィト バガーリ」店主・佐久間努さんです。
飲食店は、訪れる人の存在を肯定してくれる場所。そんな店を作るための第一歩が、なぜか職業訓練校でした。大学を出て出版社に勤めていた28歳

もっとみる
ペルテ/千葉・稲毛

ペルテ/千葉・稲毛

『料理通信』2019年10月号の第141回は、ナポリピッツァと南イタリア料理の店「ペルテ」。店主の鈴川充高(すずかわ・みつたか)さんは、ナポリピッツァの選手権「カプート杯」日本大会2018で優勝し、世界大会にも進出している職人です。すごいことです。そんなタイトルホルダーが、しかし都心ではなく千葉にお店を出すということに『料理通信』編集部と私は強く惹かれました。
これまでは、タイトルを獲って都心で華

もっとみる
梅香(メイシャン)/神楽坂

梅香(メイシャン)/神楽坂

2008年12月、姉妹で営む可憐な名前の中国四川料理店「梅香」が誕生しました。
当時、女性料理人の独立は圧倒的に少なく、中国料理となればさらに希少。編集者と私はすぐ食べに行き、その場で取材をお願いして、翌年4月発売号の『料理通信』新米オーナーズストーリーに掲載させてもらいました。
今でもはっきりと憶えています。開店直後のまだ無名の店にもかかわらず満席、そこにいる全員がいい顔をしていたこと。
よい香

もっとみる
ロマンティコ/白金台

ロマンティコ/白金台

2006年7月号。『料理通信』創刊号であり、新米オーナーズストーリーvol.1は白金台のイタリア料理店「ロマンティコ」でした。
シェフの中山健太郎さんは、日本におけるイタリアンがまだ「東京の知る人ぞ知る新しい料理」だった1980年代から修業を始め、研修機関のICIF(イチフ)1期生として1992年に渡伊。シェフとして多くの料理人も育ててきました。
その中山さんが独立したのは2005年12月、38歳

もっとみる
コンフル/駒沢大学

コンフル/駒沢大学

渋谷駅から延びる田園都市線のベッドタウン、駒沢。大きな公園があって、昔から住んでいる戸建ての住民も、新しいマンションに越してきたファミリー層も、一人暮らしの人もいる。
この町に「コンフル」が開店したのは2008年9月、リーマンショックの年でした。『料理通信』では2009年9月号に掲載しています。
「コンフル」の取材は、私の記憶にひときわ深く刻まれています。2004年頃からみんなの心に芽生えていた「

もっとみる
メッシタ/目黒

メッシタ/目黒

2011年4月、東日本大震災の翌月に開店した小さなイタリア料理店「メッシタ」。目黒駅からバスに乗るというはなはだ不利な立地にありながら、オーナーシェフ、鈴木美樹さんの料理はやがて、熱狂的に支持されていくこととなります。
5.19坪9席の店は深夜までフル回転。その中でともに働いていたお父さんは引退し、彼女も「料理人を続けていく」ための働き方を模索して、店の在り方はどんどん変化しました。「メッシタ」は

もっとみる
SALUMERIA 69/成城学園前

SALUMERIA 69/成城学園前

今やさまざまなイベントで、DJがレコードを回すように生ハムを切っている新町賀信さん。そのフリーな生ハム職人の拠点は成城学園前にあります。選りすぐった生ハムやサラミを切り売りし、同じテーブルに載せる食材やワインも揃えた店「SALUMERIA 69(サルメリア ロッキュー)」。そもそもは練馬区で2005年に開店、2011年2月に成城学園前へ移転しました。
『料理通信』の連載「新米オーナーズストーリー」

もっとみる