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葉書と本とコーヒーと

 どれを選ぼうか。色とりどりのカードを前に大人げなくワクワクしちゃう。誕生日を迎える友人にラインをする代わりに、手書きでメッセージカードを送りたくなったんだ。久しぶりに学生時代の遠い昔を思い出して。


 中学生や高校生の頃は、よく手紙や葉書を書いていたよ。年賀状、暑中見舞い、誕生日、何かしら伝えたい事(恋の話が多かったなぁ)があった時。もちろんケータイは無く、家電で長話しすると親に怒られていた時代。手紙は一対一の大切なコミュニケーションツールだったんだ。


 久しぶりに書こうと思ったのは、ある本屋さんに出会えたから。市井の人々の哀しみを優しく包み込む本、瑞々しい感情を味わえる本が多く集められたセレクトショップ。店主が入れるコーヒーはちょっと濃い目。布のフィルターに挽いた豆を入れ、丁寧に手でお湯を注いでいく。うん、いい香り。


 そんなお気に入りの本屋さんになかなか行けなくて、本を郵送してほしいってお願いしたの。およそ3千円分、本は店主さんのおすすめをね。そして、送られてきたのは文庫本を4冊と青い万年筆で手書きのメッセージ。


 ▽ ▽ ▽


 こんにちは。この度は選書のご依頼をいただきありがとうございました。

 不思議とスススッと選べました。

 梅雨明けし、洗濯物がよく乾くので嬉しいです。


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 なんだか、ふわっとした空気感がいいなぁ。青い万年筆で書かれた文字もとても綺麗で、文筆家という感じが漂う。作家の松浦弥太郎さんを教えてくれたのもこちらの店主さん。毎日を丁寧に過ごす喜びを綴ったエッセイに、手紙を贈る事で得る、心の豊かさが書いてあった。

 

 でも…贈る相手を間違えたらダメだよね。手書きが重いって、返事書くのが面倒、だからラインでいいんじゃない?!そう思う人も多いと思うから。書きたい気持ちと、さあ誰にかく?という、ゆるい葛藤(笑)。子ども達には書けないんだ。手紙の文化がない世代、片思いになりそうで。


 だから、幼なじみの友人にバースデーカード。遠い昔を思い出して。カードを買いに行って、相手が好きそうなカードを選んで、文章を考え、丁寧にメッセージを書く。効率的とはいえない時間は、彼女と向き合う時間、自分の中で大切な彼女の占める割合なんだね。


 それから、店主さんにも本の感想を一言、葉書で伝えようと思うの。遠い昔に置き忘れてきた小さな楽しみ、自分の中にあった文化のひとかけら。まだ息づいているうちに、大切に育てていきたい。日本って和歌の国だったから、そういう文化ももっと知りたいと思うんだ。


 そういう事で、選んで貰った本、あと1冊読まなきゃね。楽しみは自分で作るもの。待ってたって何も生まれないから。自分で入れたコーヒーをテーブルに置いて、ゆったりとした時間の中で本の世界に飛び込もう。そこから生まれる感情を伝えよう。



 葉書と本とコーヒーと、それだけで喜びが満ちていく晴れた日の午後。











 


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