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弁護士が解説するAIイラストの法律問題-利用規約に違反したAIイラストの使用について



AI(Artificial Intelligence=人工知能)による画像生成技術が話題になっています。

特に最近では、人間が読み書きできる単語や文章を入力すると、それに沿った画像をAIが自動的に生成してくれるText to Imageと呼ばれるAIイラストサービスが大きな注目を集めています。Midjourney、Stable Diffusion、NovelAIなどがその代表例です。

一方、このように人間ではなくAIが作る画像については原則として著作権が発生しないと考えられています。理由としては、著作権が人間の創作活動・表現活動を保護するための権利であるためです。この点については詳しく別の記事で検討しています。


しかし、一方でMidjourneyをはじめとするAIイラストサービスの利用規約ではAIを使用して生成した画像の利用条件がルール化されています。たとえば、「AI生成画像の商用利用は禁止。ただし、有料プランに加入した場合は商用利用も可能」といった感じです。

AI生成画像に著作権が発生しないのにAIイラストサービスの運用会社がこのようなルールを課すことはできるのでしょうか。また、このルールに従う法的義務は発生するのでしょうか。

本記事ではこのような疑問に対して、著作権法と民法の基本知識を説明しつつわかりやすく解説します。

なお、本記事に書かれている内容についてはより詳しく解説した電子書籍も出していますのでご興味のある方はぜひご一読ください。

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本記事の執筆者について

この記事を書いているのは知財と中小企業の法律問題を主に取り扱う弁護士です。中小企業庁の所管する公的な経営相談所である「よろず支援拠点」のほか、知財の専門相談窓口である「知財総合支援窓口」にも在籍・登録して多数の相談対応を行っています。

執筆者:谷 直樹(弁護士・長崎県弁護士会所属)
■ 長崎国際法律事務所代表
■ 弁護士(長崎県弁護士会所属)
■ 認定知的財産アナリスト(特許)



著作権が発生しない画像は誰でも利用することができる


まず、前提として著作権が発生しない画像の利用について基本的なことをお話します。

著作権というのは「ある作品(著作物)を独占的に利用できる権利」のことです。重要なのは「独占的に」という部分です。これを言い換えると、「他人が勝手にその著作物を使う行為を禁止できる権利」ということになります。

著作権には次のような様々な権利が含まれており、他人による著作物の無断利用行為を禁止することができます。そして、禁止にもかかわらず無断利用が行われた場合には損害賠償の請求が可能です。


著作権に含まれる権利(イラストに関して問題となることが多いもの)

  • 複製権。著作物を複製(コピー)してよいかどうかを決める権利。他人が勝手に作品をコピーしたり、模倣したりすると複製権侵害となる。

  • 公衆送信権。著作物をインターネット等で配信してよいかどうかを決める権利。無断アップロードや無断転載は公衆送信権侵害となる。

  • 展示権。美術作品等を不特定または多数の人に見せてよいかどうかを決める権利。他人のイラストを使って勝手に展示会を開くと展示権侵害となる。

  • 譲渡権。著作物を不特定または多数の人向けに販売してよいかどうかを決める権利。他人の作品を無断で販売すると譲渡権侵害となる(ただし、自分が所有権を持っている場合は別)。

  • 翻案権。著作物にアレンジを加えて別の作品を作ってよいかどうかを決める権利。作者に無断で作品に改変を加えると翻案権侵害となる。



逆に言うと、著作権が発生していない画像であればこのような権利もないことになります。つまり、著作権のない画像についてはコピーやアップロードなど自由利用が可能というのが原則です。

著作権が発生しているイラストや写真などについても、「著作権は行使しないので自由に使って構いません」として公開されているものがあります。いわゆる「著作権フリー」の素材ですが、著作権が元々発生しない画像についてはこの著作権フリーと同じ扱いになると考えるとわかりやすいでしょう。

前述の通り、「AIが生成した画像については著作権が発生しない」というのが原則ですから、AI生成画像は基本的に誰でも自由利用が可能となります。

著作権がない画像であっても契約でルールを決めることは可能


AIが生成する画像に著作権が発生しないということは、たとえばMidjourneyなどのAIイラストサービスで作られた画像は基本的に自由利用が可能ということになります。

しかし一方で、AIイラストサービスの多くはサービスを使って生成した画像について一定の利用条件を課しています。たとえば、「生成した画像については個人の私的使用の範囲でのみ使うことができる」、「商用利用をしたい場合は月10ドルの有料プランへの加入が必要」、「一定規模以上の企業が使用する場合はさらに高額な特別プランに入ってください」というような利用条件です。

AI画像に著作権が発生せず自由利用が可能なはずなのに、AIイラストサービスがその利用についてルールを課していることになります。著作権が発生していない画像にこのようなルールを課すことはそもそもできるのでしょうか。

この疑問に対する答えはイエスです。

なぜかというと、AIイラストサービスが課す上記ルールはサービス利用者との関係で契約上の義務になっているからです。

著作権は「物権」


この点をよく理解するためには「物権」と「債権」の区別についておさえておく必要があります。

物権」というのはいわゆるモノに対する権利のことです。所有権がその典型例ですが、これはあるモノを売ったり、貸したり、預けたり……自由に処分することのできる権利のことです。

所有権などの「物権」のポイントは、「世の中の誰に対してでも主張できる」ということです。

たとえば、私が所有しているラップトップPC(パソコン)について考えてみましょう。もし誰かがこの私のパソコンを私に無断で持ち去ったとしたら、私はその人物に対して「返してくれ」と請求することができますし、無断持ち出しによって私がパソコンを使えなくなったために生じた損害の賠償を請求することもできます。

このことはパソコンを持ち出したのがAさんでもBさんでもCさんでも同じです。これは「物権」である所有権が基本的に世の中の誰に対してでも主張できるという性質を持つ権利だからです。

そして、著作権というものはこの「物権」だと考えられています。もちろん著作権はパソコンに対する所有権のように形のあるモノに対して発生するわけではありませんが、作品という著作物に発生します。

著作権は「物権」ですから世の中の誰に対してでも主張可能です。たとえば、自分の作品を無断転載された作者としては、無断転載を行った人物が誰であったとしても転載の差止め(削除)や損害賠償の請求が可能です。

契約上のルールは「債権」


これに対して、法律の世界には特定の誰かに対してだけ主張できる権利というものもあり、これは「物権」に対して「債権」と呼ばれています。

「債権」というと、日常用語では「お金を払うよう要求する権利」、あるいは「お金を返せと要求する権利」というふうに理解されていますが、法律用語としては金銭だけでなく何らかの行為を要求する権利も「債権」に含まれています。

この「債権」の典型が契約に基づいて発生する権利です。たとえば次のようなものは全て契約に基づいて発生する「債権」です。


契約に基づいて発生する債権の一例(カッコ内は契約の種類)

  • 貸したお金を利息をつけて返済するよう求める権利(金銭消費貸借契約)

  • 納品日までに製品を作って納入するよう求める権利(製造委託契約)

  • 所定の支払期限までに販売代金を支払うよう求める権利(売買契約)

  • 毎週木曜日に家を掃除してもらう権利(ハウスクリーニング契約)



上でも述べた通り、「債権」の特徴は「特定の誰かに対してだけ要求できる権利」であるという点です。契約に基づいて発生する「債権」であれば、基本的に契約の相手方に対してだけ要求が可能です。

たとえば、上記のハウスクリーニング契約であれば、「家を掃除して」と求めることができる先は契約相手であるクリーニング業者だけです。A社とハウスクリーニング契約を結んだ場合に、別の業者であるB社に対して「家を掃除して」と求めることができないのは当然です。

そして、ModjourneyなどのAIイラストサービスで課される「商用利用禁止」などのルールは全てこのような契約に基づいて発生する「債権」と位置付けることができます。「債権」であることがわかりやすいように書くとすると次のような感じです。


AIイラストサービスにおけるルールとしての「債権」

  • サービス利用者によるAI画像の商用利用を原則禁止できる権利

  • 有料プランに加入していないサービス利用者がAI画像を商用利用することを禁止できる権利

  • 特別プランに加入していない一定規模の企業がAI画像を利用することを禁止できる権利



サービスの利用者の中には「AIイラストサービスと契約を結んでいる」という意識がない人もいるかもしれませんが、アカウントを作成したり、サービスを利用開始したりしたときに必ず「利用規約に同意する」などのチェックボックスにチェックを入れているはずです。これによりサービスの運営会社との間で利用規約に記載された通りの契約が成立することになります。なお、海外法人により運営されているサービスの場合、利用規約はTerms of Serviceなどの名称になっていることもありますが、いずれにしても効力は同じです。

サービスの利用者以外は利用規約のルールに従う必要はない


上で説明した通り、AIイラストサービスが利用規約で定めているルールは契約に基づく運営会社の権利ですから、利用規約に同意してサービスを利用している人はそのルールに従う必要があります。

たとえば、サービス利用者がルールに違反して有料プランに加入せずにAI画像を商用利用した場合、運営会社は利用規約の定めに基づいてその利用者に対して退会処分を下したり、違約金や損害賠償を求めることができます。これは運営会社がサービス利用者に対して「債権」を有しているからです。

しかし、運営会社が利用規約に書かれたルールを適用できるのは当然ながらその利用規約に同意した人間に対してだけです。利用規約に同意せず、サービスを利用していない人間に対しては運営会社は「債権」を持っていませんから何も主張・請求することはできません。つまり、サービス利用者以外の者はサービスの利用規約で定められたルールに従う必要はないのです。

たとえば、自社のサイトの利用規約に同意していない人間が次のような行為を行ったとしても、運営会社は何の権利主張もできません。

  • サービス利用者以外の者がAIイラストを無断利用した

  • サービス利用者以外の者がAIイラストを使ってグッズや画集の制作など商用利用をした

もちろん、システム上、利用規約に同意せずにAIイラストサービスを使ってAI画像を生成することはできない仕組みになっているはずです。そのため、少なくともサービスの利用者が「商用利用禁止」などのルールに違反した場合は運営企業は問題なく権利主張を行うことができるでしょう。

しかし、たとえば、「CさんがAIイラストサービスを使って生成した画像をSNSでアップしていたところ、その画像を見て気に入ったDさんがそれを無断使用した」というようなケースであれば、Dさんが運営会社から利用規約に基づく権利主張を受けることはありません。この場合、Dさんはサービスの利用規約に同意せずにAI画像を利用しているからです。

また、このケースでは、運営会社だけでなくAIイラストサービスを使ってAI画像を生成したCさんもDさんに対しては何の権利主張もできないことに注意が必要です。なぜなら、AI生成画像について著作権はなく、しかもCさんとDさんの間にもやはり契約関係はないからです。

著作権がないのに利用規約でルールを課すことはそもそも許されるのか?


このように、運営会社が利用者に対して課す利用規約に基づくルールは「債権」であり、これは「物権」である著作権とは全く別の権利です。したがって、「AI生成画像に著作権がない」ということと「利用者は運営会社の定めるAI画像の利用条件に従わなければならない」ということは両立します。

この点に関して、「そもそもAI画像に著作権がないのに、運営会社にはその利用を制限するようなルールを課すことができるのか」と疑問に持つ方もいるかもしれませんが、これは法律上全く問題なく可能です。

権利がない事柄についても契約を結べるということは、たとえば次のような事例を考えてみるとわかりやすいでしょう。


事例
EさんとFさんはそれぞれ同じ町内で2つのバレーボールのチームのキャプテンをしている。町内には市立の体育館が1つしかなく、2つのバレーボールチームが同じ日に体育館を使おうとすると練習場所がかぶってしまい不便である。そこで、EさんとFさんは話し合って「1週間のうち月、水、木、土はEさんのチームが、火、金、日はFさんのチームが体育館を使う」という取り決めを行った。



もちろんEさんにもFさんにも市立の体育館の所有権はありませんし、いつ誰がそれを使うかについて決める権限もありません。しかしそれでもこのEさんとFさんの契約は完全に有効です。

この契約に違反してFさんのチームが土曜日に体育館を使ったとすると、EさんはFさんに対して契約違反に基づく責任追及が可能です。たとえば、土曜日に市立体育館が使えなかったために隣町の体育館まで行く必要があったとすると、その交通費などを損害として賠償請求できるでしょう。

もちろん、EさんとFさん以外の、たとえば隣町のGさんのバレーボールチームが土曜日に体育館を使ったとしてもEさんもFさんも何も権利主張はできません。Gさんは契約の当事者ではなく、EさんとFさんの間で取り決めたルールに従う義務はないからです。

AI画像に著作権がないにもかかわらずその利用条件についてルールを定めているAI運営会社はちょうどこの事例のEさんやFさんと同じことをしています。そのルールは利用規約に同意した利用者との間では基本的に有効ですが、利用規約に同意していない第三者に対しては何の権利主張もできないのです。

AI画像は第三者の無断利用に対して脆弱性を持つ


以上、本記事では著作権が発生しないAI画像について運営会社が利用条件を課すことの法的な意味について詳しく解説しました。

結論をまとめると、たとえAI画像に著作権が発生しなくても、MidjourneyなどのAIイラストサービスの運営企業が利用規約で画像の利用条件を課すことは可能です。サービスの利用規約に同意した利用者はそのルールに従う義務があり、それに違反した利用者に対しては運営会社は契約に基づいた責任追及が可能です。

しかし、AIイラストの利用条件はあくまでも契約に基づいて発生する債権であるという「弱点」があります。債権である以上、契約関係にない第三者に対しては何の権利主張もできません。

これはつまり、サービス利用者が他所に掲載したAI画像を無断使用するようなタダ乗り行為者(フリーライダー)に対してはサービス運営企業もサービス利用者も法的に無力だということを意味しています。

そのため、たとえば企業などが自社の商品パッケージや宣伝広告にAI生成画像をそのまま使うことには慎重であるべきです。AI生成画像に対して人間の手を加えず、そのまま使用する限り、原則として著作権の保護を受けられません。ということは、ライバル企業や悪戯目的の第三者はそのデザインやイラストを無断使用し放題ということになります。これは企業の販売戦略やブランド戦略に打撃を与える可能性があるでしょう。

第三者による無断使用を防止したい場合には人間のイラストレーターや絵師が描いたイラストを使うか、またはAI画像に対して人間が創作的な加工・編集を加えたものを使用する必要があります。この点で、AI画像の技術が今後発達したとしても人間のイラストレーター等の仕事が成り立つ領域が残ると私は考えます。

この点については、電子書籍「弁護士が教えるAIイラストの法律の教科書」で詳しく検討していますのでご興味のある方はご一読をお勧めします。



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