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堅牢なプリズム。千葉劇場|ミニシアター探訪

ミニシアターにしては、守備力が高すぎまいか???
劇場にたどり着いて最初の感想だ。

ミニシアターという言葉が醸している、趣味の庭的クラフト感や昭和の熱気を残すレトロな空間をイメージしてやってくると、そびえ立つその建物に少しばかりたじろいでしまう。

「お前は本気で映画を見ているか?」

その問いに「YES」と答えられたものだけが、天国と書いてスクリーンと読むあの場所につながる階段を登る許可が出るのだ。
そんな妄想をしながら、堅い入り口から続く階段を、少し緊張を持ちながら登ったのだった。

『千葉駅』はとんだクセターミナル駅だ

千葉県にはミニシアターが2件しかないという。ひとつは『キネマ旬報シアター』。
そしてもうひとつがこの、『千葉劇場』。
近年ミニシアターの数が減ってきているとはいえ、都内にいると、数駅移動すればなにがしかのミニシアターにたどり着くものだ。
それが、東京の隣に位置する千葉県ですら2件とは。

減りゆく文化に憂う気持ちもあるけれど、2件しかないなら制覇しやすくない?ラッキー☆
なんていう、簡単な気持ちで出向いたとか違うとか諸説ありつつ、まずは劇場のある土地へ向かう。


東京(私)から見る、千葉

『千葉劇場』の最寄駅は、そのものズバリ千葉駅。
23区の最西に住んでいる私は、東京を各駅停車の黄色い電車1本でえっちらおっちらと横断するとたどり着く、近くて遠い場所だ。

ちょっと余談だが、横断していていつも思うことがある。
いったいどの駅までが東京で、どの駅からが千葉なのだ?

都心から、千葉とは逆の神奈川方面に向かう場合は、たいがい途中で雄大なる多摩川が現れて「ああ、こっから神奈川だな」と認知できる。
(さらに余談だが、その多摩川を通るときには必ず、「俺の童貞喪失の記念すべきホテルだ」と、勤め先の社長が川のほとりにあるラブホテルを嬉しそうに指差しながら話すのを、毎回聞かねばならない)

しかし今まさに、千葉へ向かってる電車で、最東の江戸川区と千葉県の境界はみんなどうやって理解しているのだろう。
東京に住んでいてもあまり聞いたことない駅名が並び始めて、これは千葉に入ったかな?と思ってもまだ東京だったりする。
「一体、人々はどのタイミングで境界を感じているのだろう???」
と、この文章を書きながら、思わずスマホに聞いてみたら、千葉と東京の境界には江戸川という雄大な川が流れているというではないか。

なんてことだ。
ここまでの数行の文章は記憶から消してほしい。特に多摩川のくだりあたり。
こんなお願いをしても、もし記憶に残したいというのなら、覚えてほしいことがある。

\ 県境はだいたい、川 〜/

ジョンレノンの『イマジン』くらい、世界の共通思想だろう。


驚きの千葉駅

さてワールドスタンダードな見解を済ませたところで、千葉駅に到着。
ここに着くまでに色々あったため、というわけではないが、長旅でぼんやりした頭で電車を降りて構内を歩いていると、驚くことがある。

で、デカい
駅がデカい。
失礼を承知で言えば、無駄にデカいのだ。
(※個人的見解です ※当社比)

デカさがあまり伝わらない写真

この千葉駅は降りるたび、「空港に来たんだっけ?」と混乱するほど建物も空間もキレイで規模が大きい。
改札を出たあとのなんだか意識高めなショッピングセンターや圧倒的な巨大な空間に投げ出されると、逆に「なるほど郊外にやってきたな」と再認識する。
都心には、こんなキレイな巨大空間はなかなか無いのだ。

変幻自在の街

千葉駅を出ると、徒歩で劇場を目指す。
ズンチャカ歩いて20分弱の道のりなのだが、数分歩くごとに周りの景色が変わっていくのが、今思い出してもすごく印象的だった。

駅を出たしばらくは駅ビル同様に、銀行や証券会社の大きな建物が並ぶ『ザ・ターミナル駅周辺』というような、硬質で味気のない景色だった。

それが、7〜8分歩いて中央公園まで来るとキレイに整備された公園や、向こうにモダンなホテルが覗き見え、文化会館など文化的な建物も集合するエリアはラグジュアリーな雰囲気が漂っていた。

しかし、路地をもう少し進むと、雑居ビルに詰まった飲み屋やドラッグストアなど人間の温度を感じる繁華街が迎えてくれたのだ。

どのエリアも繁華街であることは間違いないのだが、こんなに徒歩圏内で街の表情が変わるのかと驚いたことが印象的だった。
なんだかいくつかの街を渡り歩いた様な気分だ。


さて、ここまで書いてなお、未だ『千葉劇場』に辿り着いてないというのに、もうひとつ印象に残っていることがあるのでどうか聞いてほしい。

千葉駅を出てすぐのタクシーターミナル〜大通り〜公園までの、15分くらいの道のり全てに、「平和」「希望」「結婚」などのワードを訴えている人が等間隔で立っていたのだ。

大体4〜5人くらいの塊でそれぞれ手書きのプラカードを持ち、聞いている人が全くいない通りに向かって先ほどのワードに絡めた演説をしたり、みんなで「そうだ!」などと叫んでいた。
初めは人並みに「ヤバい」と思い気にしないそぶりで通り過ぎたが、行っても行ってもプラカード演説はいなくならないので、もう無性に「何してるんですか?」と尋ねたくてしょうがなくなった。
残念ながら、上映時間が迫っていたので尋ねられなかったが、どんどん雨が強くなっているというのに中年のおばさん一人や、男性グループ、女性グループなど、年齢男女問わず私の進路だけでも10組ぐらいは見かけたはずだ。

のちにネット検索して分かったのは、合同の結婚で有名な宗教の訓練所があるようだ。
どうやらあのみなさんは、訓練に精を出していたのだと推測できる。
人間は一生学びだ。みなさん、教えてくれてありがとう。

『千葉劇場』という名の城

片道のほんの20分弱の間、すでに私はいろんなドラマを体験してしまったので、本筋を忘れていたが、ついに辿り着いたのだ『千葉劇場』に。
Googleマップ頼りで歩くと『千葉劇場』の裏手の方から向かうのだが、看板を見つけて喜んだあと、なかなか入り口が見つからなかった。

とんだ罠

上の写真の景色を一見するとシルシのところを入るのだと思うものだが、ここは普通のビジネスビルだった・・・。
迷い込んだ私は、完全に不審者である。
正解は、この写真のビルを通り過ぎ、交差点まで歩いていくのだ。
千葉駅からGoogle先生の指示で向かう方はご注意くだせえ。

守備力レベル100の劇場の門

やっと見つけた劇場入り口。

入りづらいんだ、いい意味で

こ、コレは・・・。
イカつい・・・。

想像してた以上に、イカつい入り口で、千葉駅同様に戸惑ってしまった。
まず建物がタワーの様にやたら高い。
高すぎて写真に撮れなかったくらい高い。天守閣かよ。
ツルツルとした黒くて冷たそうな壁は、まるで知る人ぞ知る会員制クラブの様。
薄暗くなってきた時刻だったため、その入り口に配された白い電飾がペカーーーーっと光り輝いている。
劇場は2階にあるため上を覗くと、長めの階段の先にやっと自動ドアとさらにその向こうに受付らしきものが見える。

なんか入りづら・・い・・・。
気品と威厳。
この城の門構えは守備力が高すぎる。

周辺の通りにも人影がほとんどいないし、映画館にも同じ目的で来館したと見える人もいない。
つまり頼れる人間がいないのだ。

迂闊に登ったら、黒いスーツにポマードをなすりつけた男に銃口を向けられるのでは・・・?
なんて恐ろしさが私を迷わせる。

すいませーん!
私は映画見にきたんですけど、入っていいですかーーー(涙目)!!

階段はこの倍の段数ある

誰かに許可を貰いたい気持ちを押し隠しながら、おずおずと階段を登っていく。
自動ドアの先に受付が見え、そこにはこれまたミニシアターでは珍しい、制服姿の女性の受付スタッフがいた。

ひとまず黒スーツポマード男では、なかったのでホッとしたが、まだ安心はできない。
この制服の女性スタッフが、私に何か暗号の類を求めてきて、間違った暗号を答えた場合は、やはり銃口がこちらを向かうに決まっているのだ。
気を許してはいけない。
緊張感を切らさぬまま自動ドアを開ける。そう、私はまだ自動ドアさえ潜っていない。

いざ、出陣

いらっしゃいませ、の様な声をかけられた様な気がするが覚えていない。
スタッフの言葉を待った。
その間私は何食わぬ顔で、ポスターの貼った壁などを見回すふりをして動揺を押し隠している。
スタッフは何も言ってこない。
「・・・あのぅ〜、次の回1枚お願いします」
私はへっぴり腰のまま、チケットを買うことに成功した。

親切に写真の許可もいただきました

この経験で分かったことは、この城では暗号を求められることもなければ、どこを見渡しても銃口を向けられることはないということだ。
諸君も、安心して利用するが良い。
そして私のこれまでの経験を総合すると、どの映画館でも暗号も銃も見かけたことはない。
だから諸君も、映画館を心置きなく全国で利用すべし。

さて、入るまでやたら緊張してしまったが、中に入れば整えられたキレイな劇場だ。
受付の脇には、小さな待合所が申し訳程度にちょこんと存在している。
20人くらいの客が上映を待つとなったら、すぐに密になってしまいそうな、コンパクトな作りだがとても清潔でキレイな空間となっていて好感度が高い。
きっと几帳面の人が管理しているのだろうなぁ、と余計なお世話でしかない感想を持った。

秩序だったキレイな館内だった

前の上映が終わる頃になると、受付にいたスタッフがおもむろにシアターの扉を開けに行き、客出し、物販対応、客席清掃まで行って、次の回の客入れまでしてくれる。

心の中で、ご苦労様ですと声をかけて入場。

110席の客席

これは偏見かも知れないが、赤い座席のシアターってちょっと興奮する。
いや、燃える闘魂の色だからとか、そういう単純な話じゃないのよ。
映画に限らずだけど、由緒ある劇場の座席のイメージって、やっぱ『赤』よね。

この日鑑賞したのは、細野晴臣が2019年にアメリカで行ったライブを収録したライブドキュメンタリー作品『SAYONARA AMERICA』。
細野さんは軽やかにステージに現れて、好奇心にハッピーな服を着せて、ご機嫌にスウィングしていた。グッドミュージックって、目に見えるんだね。

館内のポスター

この日は私の他には結局、2名ほどしか観客はおらず、ほぼ貸切状態。
最高である。
座席の並び方が互い違いになっているので、満席でも見やすいのではと感じる。
ただ、列ごとに大きな段差はつけていなかった気がする。

公式HPで劇場紹介を覗いてみると、前身となる劇場は戦前から存在し空襲で焼けた後、現在の地で営業しているとのこと。
やはり、戦前からの歴史を持つ劇場は、どこかに当時の熱気を隠し持っている。(座席が赤いからそう感じているだけ説アリ)

この千葉劇場は、『USシネマ』という5つのシネコンを営業するグループのもちものという、珍しい業態だ。
他のミニシアターに比べると安定した運営ができるはずで、終始感じた守備力の高さはここからきているのかも知れない。
(とはいえ、コロナ禍には語り尽くせぬご苦労があったと思いますが・・・)

今気がついたが、初めていく映画館はどこでもいつだってちょっと緊張して入場している。
なんというか、私はとにかく気が小さいのだ。
そのため、今回は特に必要以上にビビってしまったが、終演後は鑑賞した映画のせいもあって、ずいぶんハッピーな気分だった。
城を彷彿とさせる堅い箱は、上映作品だけでなく、観客も大事にされている様な錯覚を起こした。

今回は暗くなってからの来館だったが、昼間にはまた来たい。
明るい太陽の下では、この『街』も『千葉劇場』も、また違う表情をしているのだろう。
光の具合で形が変わる、プリズムみたいなところだった。



Thanks!
千葉劇場
千葉県千葉市中央区中央3-8-8 2階
TEL:043-227-4591
※オンラインチケットなし
http://cinemax.co.jp/category/chibagekijo/

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