見出し画像

醸成された文化。シネマテークたかさき|ときめき☆ミニシアター探訪

まるで、「酒蔵みたいな映画館」
それが、改めてこの映画館のことを思い返すときに生まれた感想だった。映画館は映画を見せる場所であって、作る場所では無いはずだけど、ここは明らかに何かを作って醸成させている。
そんな、どこかものづくり特有の覚悟が漂う『シネマテークたかさき』に、「私のような若輩者がよろしいでしょうか」という気持ちをポケットの奥でもてあそびながら、初めて足を踏み入れたのだった。

高崎行くならどの映画館

インターネットで最初に見つけたイカした映画館『高崎電気館』(こっちのレポートはコチラ)に行くと決めたときに、せっかくだから別の映画館もひとつくらい行きたいじゃんと検索してすぐに出てきたのがこの『シネマテークたかさき』だった。
それもそのはず、『シネマテークたかさき』も『高崎電気館』も運営しているのはどちらも同じ『NPO法人たかさきコミュニティシネマ』と書いてある。
この『NPO法人たかさきコミュニティシネマ』は「高崎映画祭」の運営機関でもあるというじゃないか。
「高崎映画祭」といえば、地名が冠する映画祭の中でも、その盛り上がりをよく耳にする映画祭のひとつである。

なるほど、だからか!
私の記憶の深海奥深くにも、『シネマテークたかさき』という館名が確かにあったのは。(ところでシネマテークって口に出したくなるよね)

巨匠に見守られながらの映画鑑賞

『高崎電気館』からアーケードの商店へ出て南下し、そのまままっすぐ平地に小さな店が並ぶ通りを過ぎたら、左に曲がっていくと旧中山道にぶつかる交差点に出る。
この交差点にあった信号機が、ものすごい薄くてびっくりした。現地では「LEDじゃない信号機ひさびさにたくさんみるわ」と思っていたのに、突然持ち運びに便利そうな極薄の信号が現れたので、急な文明に感心してしまった。

画像1
なんか薄い信号


そしてこの信号機から3分くらいのところに『シネマテークたかさき』はあった。全部で10分~15分くらいである。
真面目に『高崎電気館』からの道程を書いたが、ご覧下さる方の中でどれほどの方が”高先電気館~シネマテークたかさき”の行き方を参考にするのというのだろうか。
全く無いのだろうが、薄い信号機の話だけで覚えてくれれば良いのだ。
補足情報として念のため高崎駅からの道のりを書きますが、駅を出たら10分ぐらいグーグルマップ見ながら歩けば着くよ。

そんなこんなで大きな車道沿いをてくてく歩いていると、立て看板が現れる。

画像2

着いた。
7月の下旬、東京オリンピックが開幕したばかりのこの日は相当暑く、15分外で歩いていたら汗だくになっていた。早く涼みたい。中に入りたい。

画像3

実際に見る『シネマテークたかさき』は、当初の印象通り洗練されたクールな雰囲気の門構えだった。
暑すぎて早く入りたいと思いつつも、なんだか少し気後れがする自分がいる。
このコンパクトな入口、上映されているタイトルなどから、地域の人が積み重ねてきた誇りやプライドそういった醸成された何かが、扉から滲み出ている。
私のような、よそ者がお伺いしてよろしいでしょうか?と心臓が聞いている。
しかしすでに、オンラインでチケットを取っているのだから私にも入館する権利はあるんだ。金は払っていると言い聞かせて、中へ踏み込んだ。

入り口を入るとすぐにたくさんのチラシが入ったラックが並んでいる。その後ろの壁にある数々のサインも目を引く。

画像4
画像5

(余談ではあるが、壁にたくさんのサインというのを見ると、ずいぶん前に閉館してしまった渋谷シネマライズのことを思い出さずにはいられない。大好きだったな・・・シネマライズ・・・・・・。)

さてこの館は2スクリーン仕様となっていて、この二つを駆使し1日かなりの番組数を上映している。タイトルだけでも合わせて6~7タイトル上映しており、中には1タイトル3回上映のものもあるから、すごい回転数だ。
それだけ意欲的だし、熱意も非常に感じられる。

過去のインタビュー記事で読んだのだが、まだ1スクリーンの営業ですら苦しかった頃に、オーナーが2階も作ると言い出してスタッフが大喧嘩したと話していた。
しかし、運営をその後も続けるためには1スクリーンでは、思い通りにいかないことは明白だったと語られていた。
その後も大変なご苦労でこれまで運営され、そして積み上げてきたいろいろなノウハウがあるのだろう。
このパズルのような上映スケジュールひとつとっても、これまでの積み重ねたノウハウが生かされているのだろうなと感嘆する。

私が鑑賞するのは、1階での上映だったため2階の様子はわからないのだが、おそらくロビーのようなものはなかったように思う。
スクリーンの扉の前にかろうじて人が溜まれる空間が多少あり、そこに作品の資料などの展示があったりしたが、とにかくメインはスクリーンなのだ!と言わんばかりの構造だった。
小さな入り口、小さな受付、その先にちょっとしたスペースがあり、そしてスクリーン。非常にシンプルな建付けである。

画像6

劇場内はに入ってみると、こじんまりとした室内。1階は58席だとのこと。時節柄、座席はひと席飛ばしなのだが・・・・・・

画像7

大林監督ぅぅぅ!奥はスピルバーグか!?
「SOCIAL DISTANCE」の注意書きにプリントされている名匠・巨匠の顔、顔。思いがけず背筋が伸びてしまい、いやがおうにも悪いことできない感じ。え、私大林監督と映画見るの?ドキドキする~~!
この遊び心、グッジョブです!シネマテークさん!!

鑑賞した『水を抱く女』はドイツの作品で、神話から連想される”水の精”をモチーフにした幻想的な作品。
そうそうあちこちでは見られない、ミニシアターらしい作品を鑑賞できた。

上映を終え、部屋を出ると次回のお客さんが行列をなして待っていた。
私が見た回は全部で6、7人の観客だったので、突然現れた人の群れに面食らってしまったが、ちゃんと興行をあげていて立派だなぁと思ったりなんかする。

この先の上映スケジュールを確認していると、ずっと先まで魅力的かつ豊富なラインナップが続いていてとても信頼度が高いと感じる。
奇抜な映画だけではなく、どっしりとした名画、子供向けのアニメ作品だってやる。スケジュールを眺めているだけでも楽しい。

街と映画館の関係

私がミニシアターを好きな理由の大きな一つが、地域に根差している映画館が多いことだ。
映画館が独自で発展するというパターンを、あまり知らない。街の人々に愛されて、人の温度を介して映画館は発展していくのだと思っている。

しかし私はこの考えに、少しだけ思い違いをしていたことに気が付いた。
『シネマテークたかさき』をnoteにまとめるため、いくつかこれにまつわるインタビューを読んだ中で、高崎映画文化を支えた立役者であり、初代総支配人の茂木正男さんこの言葉にハッとした。

「町おこしのために映画館をつくったわけじゃない」

街と映画館の関係、それは目的ではないのだ。
映画館は映画を見せるところなのだ。

「映画の選択肢を増やす」ということが、『シネマテークたかさき』そして『高崎映画祭』に通じる精神だという。

つまり、街と映画館の深い関係は『結果』だということだ。

私は、人の持つ教養は、触れてきた文化によって作られる割合が大きいと考えている。
人の住む街が、文化に対して間口を開いていなければ、教養というものは広く育たない。
「映画の選択肢」というのは「文化の選択肢」であり、選択の余地のある文化を得るということは、想像をする余地を人に与えるということだと思う。
映画に限らず文化芸術は、善い行い、悪い行い、様々な境地にいる様々な暮らしをたくさん疑似体験させてくれる。
たくさんの体験を得た人たちが街に広がれば、長期にわたりそこには豊かな生活が広がるだろうと想像してしまう。

『シネマテークたかさき』を中心とする高崎の映画文化は、豊かな生活を「提案」するにとどまらず、実際に人々へ「提供」している。
まるで酒蔵のようだ。
昔ながらの工程を大事にしながら、新しい何かを作り続けて街を見守る。
文化を常に醸成している。

彼らが醸すカルチャーの薫りに、街の人はいつでも好きな時に酔うことができるのかと思うと、とても羨ましいと感じた。
きっと、この映画館が自分の街にあることは、胸を張れるひとつの理由になるのではないかと思った。

画像8


Thanks!
シネマテークたかさき
〒370-0831 群馬県高崎市あら町202番地
TEL:027-325-1744 FAX:027-326-1311 
※オンラインチケット購入可
http://takasaki-cc.jp/

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?