テレビ局の進化が、日本を元気にする 2)コンテンツプラットフォームの確立 対案編
以下からの続き、
ここからは、2)コンテンツプラットフォームの確立と題して論じてきた課題に対して、作者の対案を紹介していきたいと思います。
対案:コンテンツ制作の進化を支える”プラットフォーム”
では、前述の課題に対して、テレビ局が”舞台裏”である制作面から、進化につながる3つの対案を紹介見ていきましょう。
対案その1:制作”プラットフォーム”への投資と統合
前述のNetflixの取り組み記事からも分かるように、制作と配信技術はデファクトスタンダート化してきている。しかし、ITの進化のスピードについていくには、設備や施設の高度化・大規模化によって、中小規模の企業が単体で出資や投資をするには、リスクが大きすぎるレベルになってきています。
例えば、VFXという技術。出演者がグリーンやブルーの背景で演技して、後から背景などを編集スタジオで統合して映像にする技術。素人目から見ても何もない空間で演技をする大変さや、想像だけで動いた出演者の位置情報をデジタル上で統合する煩雑さは、想像に難くない。しかし、現在世界のVFXでは、「インカメラVFX」という技術が主流になりつつあります。日本では、大河ドラマ「どうする家康」で活用されたので知っている人もいるかもしれません。
しかし、番組制作のベースになる技術や設備において、テレビ局の資本はあまり入っていないのが現状のようです。例えば、上記の技術提供をしているヒビノ株式会社も、2023年現在、テレビ局との資本提携などなく、独自のサービスとして事業を展開中。
テレビ局は、今後、他社プラットフォームに対して配信技術はもちろん、このような最新の制作技術にも対応していかなければ、制作の質という面で遅れを取ってしまいます。グローバルプラットフォームは、豊富な資金を背景に、制作面での技術支援のもあり、全世界に打って出られる接点も持っています。それに対して、テレビ局は、新たな技術支援もなく、従来の技術を使って国内のテレビ機器向けの映像制作しかできない会社となってしまったら、どう制作者に映るでしょうか?また、いままでテレビ局中心主義だからできていたプロデュース機能をも低下しいていくのではないでしょうか?
制作”プラットフォーム”への投資と統合は、喫緊の課題といえます。
さて、このような課題にいち早く取り組んでいる企業もあります。TBSホールディングスの子会社であるTHE SEVENという企画製作会社は、Netflixと組んで技術的なビハインドや海外の制作ノウハウを獲得し始めています。このような取り組みを大規模かつ業界横断で取り組めると、コンテンツの種は豊富な日本、映像化や二次展開の基盤が確立していくでしょう。
対案その2:プラットフォーム目線のコンテンツ評価
テレビ業界で仕事をしていると、よく”絶対値症候群”に罹っている人に合うことがあります。ここでは、そんな”症状”を起点に、取り組むべき方向性を考えていきます。
一つ目の”絶対値症候群”は、視聴率至上主義。テレビ業界のビジネスモデル上、視聴率=収益なので、収益を上げることが生命線。そのため、番組は視聴率の高低で評価されます。しかし、現在業界で使われている視聴率は、いわば”みんなの人気投票”の結果で、”みんな”に好かれることが数字につながります。そのため、月間6000番組も放送されるにもかかわらず、一つの物差しで評価するため、同質性のある番組作りになりがちで、ひいては、つまらない番組へとなり、現在の番組評価につながっています。
そもそも、番組や映像は、”みんな”に必要とされるものばかりではないと、作り手含めて自覚はしています。しかし、テレビ業界において番組の評価データは、1980年代から導入されている15歳区切りの性年代区分による視聴有無データを使っています。しかし、ディバイスも多様化し、見る場所や時間も人それぞれになった時代で、評価の軸を増やしていかないまま、番組を作るのは、目隠しをしながら走り抜けるようなものです。視聴率至上主義という単一指標から、目的に即して評価データの複層化が、良質な番組を作るの基礎となります。
もう一つの”絶対値症候群”は、個人主義。制作者にとって番組づくりは、時間と魂を投下して作り上げるので、一つ一つに思い入れがあります。その文化もあって、制作者であっても、番組一つ一つを、個々人の価値観や経験即で評価をしてしまいがちです。コンテンツビジネスの世界では、”千三つ”という言葉をよく使います。千に三つぐらいしか当たらないという意味ですが、番組もまさに”千三つ”。そもそも外れの方が多いのです。しかし、番組の終了可否を決める時に、今の役員がかかわっているからやめられないとか、大御所が絡んでいるから断りにくいとかとか、その時その時個々人の評価指標が介在して、決めることもできません。これは、テレビ業界に限ったことではないですが、テレビ業界場合は、他の企業と比べて打ち出す商品=番組が多いので、判断できなことで体力を失うだけでなく、劣悪な番組を提供し続けることで、視聴者離れを起こしてしまったのです。
では、その個人主義を脱するために参考にできるのが金融業界です。金融業界は、IT技術や金融工学を駆使して、”千三つ”を如何に四つ五つにするかをいち早く実現している業界です。例えば、株式運用において、星の数ほどある企業に1点掛けするのではなく、分散投資という手法をとって、リスクヘッジをしています。分散投資とは、成長性、地域、業態、過去実績など、複数の評価変数をもとに、”当たりそうな群”を作って、投資をすることで、失敗の確度を減らし、成功の確率を高めるの手法です。
今後、テレビ局は評価データを複層化させ、番組評価を群で見ながら、それぞれの目的に即した指標を継続的に追うことが、総体としてコンテンツ価値を高めることに繋がるのです。
対案その3:立体的なコンテンツビジネスを主導する
立体的なコンテンツビジネスを主導するとは、前述で触れた「配信ビジネスを、もう一つの柱にする」でも触れたように、収益のポートフォリオのひとつとして取り組むべきテーマである。つまり、テレビ局は、番組を作り視聴率を獲得して、その数字に応じた媒体販売によって収益を確保するだけでなく、外部プラットフォームでの番組販売はもちろん、映像から派生するエンタメビジネスを主体に取りに行く体制を整える事が進化の道筋でだと考えます。
エンタメビジネスにおいて、テレビ局が主要プレイヤーを担っているのは、今も昔も変わっていません。テレビ局が多く採用しているIPビジネスの手法に、制作委員会方式というのがあります。これは、役割分担をして総体でコンテンツを盛り上げていくものであるが、言い方を変えると、”船頭多くして船山に上る”となり、新しい市場変化に迅速に対応できるかというと、足回りが鈍くなるのは否めないモデルです。
詳しくは、以下のリンクをご覧ください。
では、テレビ局はこの完成度が高く安定した制作員会方式を脱して、どのように取り組めばいいのか。単純に、単に上流から下流工程を資本にモノを言わせて取り込めば成功するかというと、そう短絡的ではないでしょう。
テレビ局はテレビ局の強みを持ってこの領域に挑むべきです。この領域に挑む際のテレビ局の強みは2つ。一つは、継続的な接点。バラエティは毎週、ドラマやアニメも三か月に一度新しい作品を、固定の放送枠を設けて送り届けることができる。最近の個人視聴率は低迷しているとはいえ、1回あたりの5%前後の視聴率番組でも、約600万人と接点が持てている。1度の放送で数百万人にそれも動画で情報を定期的に届けられるメディアは、インターネトでも困難です。
もう一つは、継続的な評価。インターネットに時間を奪われているとはいえ、朝帯や夜帯の利用率(行為者率)は、30~40%もある。しかも、インターネット上の無限にあるコンテンツから利用しているのではなくて、主なチャンネル7つ、ローカルエリアなどは4つの局から選んで利用できるという環境を持っています。そして、ポイントはその先にあります。生活者は、日々、テレビ機器を通して、自分の好きな番組を見たり、つまらなかったら消したり、目まぐるしくチャンネルを変えてテレビを利用しています。これは見方を変えると、毎日毎時間、数百万人規模の調査パネルが、番組を評価をしていることと同義なのです。インターネットの動画サービスは恣意的に番組を選んで視聴するスタイルなので、この事象は起きにくい。また、生活者は、24時間ずっとテレビをつけているということはあまりなく、平均視聴時間4~5時間の間に、自分の興味のあるカテゴリーを中心に視聴を続けてくれています。この人たちの大規模かつ継続的に実施されている”評価システム”を活用しない手はないでしょう。
隣接業界では、既にこの強みを活かして成功している集英社の「少年ジャンプ」があります。「週刊少年ジャンプ」は、10年前の250万部から徐々に数字を落としているものの、いまだ1冊290円の週刊誌として、毎週125万部/週を販売しています。この「週刊少年ジャンプ」を頂点として、日々、様々な漫画家が作品を持ち込み”予選会”を繰り広げています。今では、週刊誌の落ち込みをカバーすべく開始されたスマホアプリ「少年ジャンプ+」が、累計2400万DL、WAU480万とお化けアプリとなり、新たな収益モデルを作り始めています。ここを起点とした新たな”予選会”システムは、「SPY×FAMILY」など続々とヒット作を生み出しています。「少年ジャンプ」は、編集者の目利きはもちろんだが、紙面やアプリに作品を掲載してからは、多くの読者に評価を委ねています。そこで勝ち抜いた作品が、その後、様々なIPビジネスの線路に乗って、映像化、商品化、イベントになり、さらに多くのファン獲得していくのです。
ポイントは、
定期販売・定期接点(週刊、毎週更新)
継続評価(毎週作品を評価)
大規模評価者(週販125万部、WAU480万)
有料定期購読(290円/部)
インターネットのコンテンツが無料で提供される日常に慣れた我々にとって、課金によるユーザの”ファン度”は、無料コンテンツの100万PVよりも価値があります。そして、数百万規模で定期接点を持っているので、作品登場初期から読んでいる、応援している作品が、”予選”を勝ち残って、陽の目が当たる(紙面の外に出る)となると、引き続き応援したくなるのも道理でしょう。もちろん、アニメや商品化によって、原作を大きく逸脱すれば、逆の作用が働くのもうなずけます。しかし、ここで言いたいのは、この”ファン倶楽部”的な構造を、テレビ局の放送波という強みを活かして構築できたら、その既存のIPビジネスとも伍していける、立体的なコンテンツビジネスをつくることができると作者は考えています。
利点:コンテンツビジネスの確度を上げる
上記の3つの対案に通底する思想は、コンテンツ価値の底上げを担えるかです。コンテンツ飽和時代、制作と発信が極度に”民主化”された時代において、玉石混交のコンテンツが雨後の筍のように登場します。そこと同じレイヤーで戦うのではなく、基盤としてのテレビ局アセットを活用していくことで、独自性のあるビジネスモデルが作れるのです。
制作”プラットフォーム”への投資と統合については、いままで一強であったテレビは依頼せずとも制作者が集まる存在でした。これからは、その立ち位置を保証するものではないのです。制作者に支持される環境を”裏舞台”でも準備していくことが、ひいては良質な番組を作ること、関わることにつながるのです。
プラットフォーム目線のコンテンツ評価は、ヒット作に一喜一憂するのではなくて、俯瞰でビジネスに取り組むこと、そして、客観的にビジネスをとらえるためのデータの活用が、長期的なコンテンツ育成とその活用につながります。
そして、見せるだけのコンテンツ消費時代は終わりを迎えつつあります。そこへ、立体的なコンテンツビジネスを主導することで、従来のリーチを換金する媒体販売モデルではできなかった、これからのコンテンツ活用、コンテンツ活性化のモデルを作ることができるのです。
以下へ、つづく。
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