テレビ局の進化が、日本を元気にする 3)テレビができる地域創生
以下からの続き、
課題:誰のテレビなのか、制作率10%問題
生まれも育ちも東京の私は、社会人なりたての時に、度々地方出張をしていました。そんなある日、家を出るときに読んだ全国新聞と、出張先のホテルに置いてあった同日の全国新聞の一面が違うことに気づき、ひどく驚いたことがありました。実はこれ首都圏在住者はあまり築かないのですが、当たり前のことなのです。そもそも、新聞は、都道府県区分よりも小さな地域ごとに新聞社があるほど、全国紙といえども、地元ごとの情報を発信するのメディアなのです。
しかし、同じマスコミとして、テレビも地域ごとの情報を発信しているかというと、実はそうではないのです。テレビ局が流す多くの番組は東名阪の広域放送局に委ねられています、その率なんと90%。つまり、県域のローカル局の自社制作比率は、たったの10%(以下の図参照)。時間にすると1日2.4時間しかないのです。報道や情報ワイドショー番組は、平日だと、朝約3時間、昼に2時間、夕方に2時間、夜に1時と、1日8時間程度は放送されている。しかし、この時間帯の番組は、ほとんどが東京制作です。ちょっと想像してみてください、東京が世界の”ローカル”だったら、朝のニュースはCNNと東京の天気予報。昼や夕方の情報番組は、マンハッタンのおいしいマフィン屋さんや、パリに最近オープンしたシーフドレストランなどを取り上げて、報道内容も世界視点のものばかり、ようやく流れるのは、夕方30分ぐらいで、日本での事件事故、政治や経済について報道情報が流れるばかり。毎日見ても、日々の生活に資する量でも質でもないように想像できます。
しかし、これにはシンプルな理由があります。上の図を見て気付いた人もいるかと思いますが、ローカル局の事業体力(≒売上)は、キー局の1/40しかないのです。キー局は、人口の多いエリアを複数またいでビジネスをしているので、平均2186億円、それに対してほぼ単体エリアのローカル局は平均55億円しかないのです。当然、売上に比例して、社員の100人前後の局が多いのです。当然、その体力で24時間、番組を作ることは難しい。その結果、体力踏まえて、報道・情報番組を中心に制作するため、朝、夕、夜の主な時間はキー局制作の番組を放送しているです。
ただ、現在のビジネスモデルの中で収益が取れないだけではないとか、筆者は考えます。地域にとっての必要な機能であることは、議論の余地はないのではないでしょうか?
対案:地域による地域のためのテレビ局へ
対案その1:地元の報道及び情報番組の制作
まずは、朝、夕の情報番組を地元色にすることを考えていきましょう。現在、多くのローカル局は、平日夕方番組に、自社の放送時間を30分前後持っています。ただ、全時間帯を自社制作することはできないので、キー局提供の番組中に、ひとつのコーナーとして放送していることが多いです。これをキー局コンテンツ(全国情報)を”サンドイッチ”するぐらいの番組構成、番組ブランドにしてみるのが、一つ目の対案です。番組の全時間を埋める取材をするのは困難でも、ローカル局で編集上、番組コーナーをコントロールするのであれば、費用対効果出せるのではないでしょうか?
また、番組名に地元色を出していくのも良案です。例えば、新潟県下のテレビ番組表では、テレビ新潟の夕方番組は、日本テレビ制作のnews every.と連動して放送していますが、番組名はオリジナル名称で展開しています。この地元色を出すことが、次の対案などで触れますが、地元での企業ブランドの有効活用につながるのです。
もう一つが、制作予算の作り方は、次の”対案”以降で触れるとして、朝番組の制作が重要です。テレビの強みは、生活習慣にあります。この部分は、まだまだネットに負けていません。生活者の30%(以下グラフ参照)は、毎朝、朝ごはんや外出準備をしている中、その日一日に必要な情報をテレビ通して触れています。
この”強み”を活かしている先行局は既に複数あります。主にANN系列(テレビ朝日など)でキー局とは別の内容で放送することで、多くの局が、同時間帯での占有率をリードしているという実績もついてきています。
対案その2:ストック型映像の制作
ローカル局も、”地域の企業”として、媒体販売という”一本足打法”から脱却するために、新しい収益源を地元発で考えることが必要です。その一つの方法として、フロー型によるコンテンツ活用の逸失利益を回復するべく、ストック型の映像制作とその活用というビジネスを導入していくことが考えられます。ストック型のビジネスは比較的シンプルに導入ができると思います。なぜなら、現行の取材体制の業務拡張から実施できるからです。
ストック型のビジネスモデルは以下のようになります。
まず、被写体は、
1.街のお店、モールやテーマパークなど
2.観光地、イベント、地場産業など
映像の利用者は、
1.エリア内の事業者≒被写体
2.エリアへのインバウンドビジネス従事者(自治体、企業等)
を想定すればいい。通常は、テレビの向こう側にいる視聴者を想定して取材を行っていましたが、そこに、放送タイミング以外でも視聴者を想定して、取材と撮影、変種を行えばいいのです。これは、普段の取材でアプローチするところを前提にして、ストック素材のためだけに取材する必要はないのです。
このアプローチ”意識”の変更により、
1.一石二鳥:撮影工数の削減
2.品質保証:プロが撮った素材
3.おまけつき:テレビ放送と連動した素材
を兼ね備えた映像素材が出来上がります。そして、テレビと連動する素材というところにより、簡易に映像化されるCGMやインフルエンサーが作る素材とは、作って放送された瞬間から差別化されたストック素材となるのです。
ただ、1点、今までと違う仕事はあります。ストックという形式の最大のポイントは、その日その時のニーズに即しているフロー型の素材活用とちがって、使う人それぞれのニーズに即して利用される。そのため、”検索性”が命です。収録時に放送用の素材と連携して、採用しなかった素材含めて、映像に情報をつける、タグ付けする素材加工は必須です。
地元のお店やショッピングモールなども、「テレビで取材されました!」ってそれだけでも、宣伝価値があるのに、その素材自体を使って、その後もPR活動ができれば、一石二鳥とも三鳥とも地域の経済効率を上げられるです。
対案その3:ローカルビジネスの支援とそこへの参加
極端な言い方をしますが、テレビ局はいままで、地域経済に関わってこなかったように思います。と言ったら怒られるかもしれませんが、正確には、”直接”的に地域経済を興してきたのかというと、あまり事例を知りません。テレビ局の出自には、地元新聞社を母体としてできたテレビ局が多いです。このようなタイプのテレビ局は、地域全体のマスコミを運営するとこで、情報受発信において、地域と地域外をつなぐまさしく"媒介”を担っていたと思います。しかし、それもインターネットに可処分時間を奪われれ、役割は総体的に低下しています。
そこで、テレビ局がもっと”直接”的に地域経済に関わる方法を考えてきたいと思います。これは、既に先行事例があります、1990年のバブル崩壊から始まった大手銀行の再編により、護送船団方式を脱した銀行業界は、金融自由化や低金利、顧客ニーズの多様化により、従来の商品では収益を確保できなくなりました。そのため、融資以外のサービスを続々導入し、その一つとしてコンサルティングサービスを多くの銀行が採用しました。しかし、銀行マンの得意分野はあくまでの金融です。実業とくに売上に資する支援ができたかというと不得意領域だったため、大きくサービス化はできていません。
では、テレビ局は、このビジネス領域において、地域の銀行と違うことはできるのでしょうか?それは、いわずもがな、放送波を使ったリーチ力でしょう。毎日のように生活者と接点を持ち、わかりやすい映像を使って情報を届け、生活行動の一助となるテレビ。週末の訪問先を決めたり、夕方の献立を決めることができるリーチ力を持っているのです。このリーチ力をつかって、直接的に地域経済を活性化する役回りを、地域の企業と一緒にビジネスを立ち上げることがこれからのテレビ局の地域とのかかわりなのです。
テレビ業界は、過去様々な歴史から、例えば、報道の不偏不党、ステルスマーケティング的なやらせ事件などにより、テレビ機器の外で生活者と関りを持たないようにする風潮を持ってしまいました。しかし、インターネットという双方向のメディアが台頭することで、相対的にメディアの関り方も変わりました。テレビ局は、地域経済と直接、主体的に関り、放送とリアルが連動したビジネスモデルの構築に踏み出すことが、今必要なのです。
利点:人流の活性化。
上記の3つの対案に通底する思想は、人流の活性化です。
まず前提として”地方”は大きな経済圏を作ることが可能な規模を持っているのです。お隣、中国の人口が大きすぎるので、人口減少と相まって、少ない印象になりがちですが、「世界人口白書2022」(UNFPA)によると、世界第11位の人口大国日本。高度経済成長期や一億総中流と題して目線を統一したかった時期は、この規模の人口をひとまとめする必要性もあったのでしょう。しかし、現在は、変革期、そのスピードや変化に弾力的に対応できる規模に再編成していくことも必要なのではないでしょうか?例えば、東北地方の人口は、852万人。これは、欧州だと880万人のスイスと同規模、デンマーク、フィンランド、ノルウェーなどは、500~600万人しかいないが、みんなが知っている国よりも大きいのです。日本は、道州制程度にくくると一つの国ぐらいの規模を持っているのです。経済圏や生活圏向けの情報を多く作ることで、エリア起点でのビジネスがもっと作れるのです。
地元の報道及び情報番組の制作は、この発想の根底を支えるものです。インターネットで世界の情報を見るのもいいですが、生活規模に即した情報を提供することで、エリア内の生活を彩ることができます。そして、自分の生活エリアのテレビとして認識することで、その存在価値も高まるのです。
ストック型映像の制作は、地域の情報を発信するのに、プロのチカラを使わない手はないのです。テレビ局の映像制作力をもっと地域に開放して、ビジネスの機会を創出しなくてはいけません。
そして、見せるだけのコンテンツ消費、媒体ビジネスの時代は終わりを迎えつつあります。情報を届けるだけでは、インターネットによって情報氾濫している昨今、人は動きません。放送とリアルを連動させたローカルビジネスの支援とそこへの参加は、テレビ局の強みを活かしつつ、ビジネスの創出まで視野に入れた活動ができる領域なのです。
以下へ、つづく。
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