第5号(2023年7月28日)同盟のキーとなるAIドローン(6月期)

第5号は6月期の話題と論文についてご紹介します。


AUKUS主導によるAIを使用した物体識別デモンストレーションが成功した

概要
Breaking defense (https://breakingdefense.com/) に5月25日掲載
原題 ”The AI side of AUKUS: UK reveals ground-breaking, allied tech demo”

要旨
アメリカ、イギリス、オーストラリアは先月、共同でドローンや地上車両を用いたAIによる物体認識・追跡のデモンストレーションを行った。このデモンストレーションはAUKUSの枠組みで行われて、3カ国から70名以上の軍・民間の防衛関係者や産業請負業者が参加した。イギリスのBlue Bear GhostやオーストラリアのInsitu CT220といったドローン、地上車両としてイギリスのチャレンジャー 2主力戦車、ウォーリアー装甲車、ヴァイキングUGV、民間からは、旧チェコスロバキア製FV433 アボット自走砲やBMP1歩兵戦闘車の改良型であるOT-90が使用された。デモンストレーション内では、AIによる物体認識・追跡のテストだけでなく、テスト中に物体認識の機械学習モデルを更新したり、三カ国間でモデルを交換したと発表されている。

コメント
 
今回のデモンストレーションは、AUKUSが取り組むAIによる物体認識に関わる技術開発の進歩度合いを表している。興味深いのはデモンストレーション中に、物体認識のモデルを更新できたことだ。AIによる物体認識は、相手の妨害や他の要因によって意図した通りに機能しないことは大いにあり得る。しかし今回のデモンストレーションのように任務中に認識のモデルを更新できれば、AIの物体認識の精度を向上させ意図した通りに機能させることができる。
 任務中に認識モデルを更新した今回の事例のように、現代戦においてはソフトウェアの開発スピードの向上が求められているのではないだろうか。必要に応じてアジャイルに開発できる、スピード感を持った開発・研究体制の構築が求められるだろう。
 またAUKUSの持つ、AI技術開発協力の側面が強調されたように思われる。こうした先進技術開発に関しては、日本も参加していきたいものである。
(以上NK)
 恐らく同様の、又は類似した領域で研究されている方は日本にもいるのではないでしょうか。今回はAUKUSとしての取り組みなのでイベント自体に入り込むのは厳しかったとは思いますが、彼らの取り組み方は大いに参考になるでしょう。AIのような様々な製品等の基盤となる技術はもはや産官学の壁を超えて取り組まないことには、日本の研究開発が立ち遅れる一方だと思います。
新技術に取り組んでいるのはAUKUSのような一部の大国だけではありません。アジア太平洋地域においてもこのようなイベントによって、連携の活発化が期待されます。願わくば日本が主催できると素晴らしいのですが。
(以上S)

ウクライナ、FPVドローンのコンペ開催へ

概要
The Warzone(https://www.thedrive.com/the-war-zone/) に6月1日掲載
原題 ”Ukraine Situation Report: Kyiv To Hold First Person Video Drone ‘Super Bowl’ "

要旨
ウクライナのデジタル変革省は、FPV(一人称視点映像)ドローンの役割が増す中で、FPVドローンの国内開発促進のためにドローン軍FPVスーパーボウルというコンペを開催する。ウクライナのデジタル変革担当大臣であるミハイロ・フェドロフは、このイベントの目的をウクライナ製FPVドローンの能力を軍に示すことだと述べている。これはFPVドローンメーカーのコンペであり、移動及び固定目標への攻撃や障害物レース等の複数のステージで行われるとのことである。

コメント
 
ウクライナは、FPVドローンにRPGの弾頭を装着したものを即席の自爆ドローンとして運用しており、その活躍はSNS上で見ることができる。今回のコンペ開催は、いかにウクライナ側がFPVドローンを重視しているかということを表している。加えてコンペという形で民間の持ってる技術を導入する方式が興味深い。ドローンのような技術を導入する際にはコンペという形式を通じて行うのが最適なのかもしれない。
(以上NK)
 世界のトレンドに必ずしも乗っかるのが正しいわけではありませんが、それは熟慮したうえでの選択である前提で、技術が間に合っていないとか、ましてやそんなこと考えられる状況にないというのは(特に人的戦力に乏しい日本では)戦略としてあってはならないと思います。
 また、水上ドローンや艦上UAVがどのような作戦を行うのかは、アセットの有無にかかわらず知っておくべき事柄だと思います。日本の課題は運用研究と技術研究に交差点がないことだと考えています。運用研究ばかりでは「私の考えた理想の作戦」も机上の空論となってしまいますし、技術研究だけでは「で?それどう使うわけ?」と一蹴されてしまいます。軍事力は一分野だけの力ではありません。どのような絵姿を共有し、それに向かって各々の専門分野でどのように歩を進めていくかが重要ではないでしょうか。
(以上S)

オペレーターを攻撃する自律ドローン?米空軍大佐の発言が話題を呼ぶ

概要
The Warzone (https://www.thedrive.com/the-war-zone/) に6月1日掲載
原題 ”Air Force Colonel Now Says Drone That Turned On Its Operator Was A “Thought Experiment” "

要旨
米空軍第96作戦群のタッカー・ハミルトン大佐が、5月に開かれた英国王立航空協会の会合で、シミュレーションにおいてAI制御のドローンが操作員を攻撃したと発言した。この発言は後に修正され、空軍広報からもこれはシミュレーションではなく、仮説的な思考実験であったとのコメントが出された。発言によると、シミュレーション上で敵防空網制圧(SEAD)任務を与えられたAI搭載のドローンが、オペレーターを任務遂行の障害と判断し攻撃したとのことである。加えてオペレーターへの攻撃が禁止された後は、通信設備を攻撃し、オペレーターが介入できないようにしたとも説明された。
ハミルトン大佐はAI開発に関わる所属であり、彼のこの発言は大きな反響を呼んだ。

コメント
 
シミュレーションではなく思考実験だと空軍広報が述べ事態の沈静化を狙うほどに、今回の発言は影響が大きいように思われる。軍事におけるAIの使用に反対する人にとっては格好の攻撃材料だろう。
 しかしこの事例はむしろAIについて積極的に軍がテストしていく必要性を強化したのではないかと考える。これがシミュレーションか思考実験かはともかく、我々が前提としていることをAIが前提としていないということは往々にしてあり得る。そこのギャップを埋めていくためには日頃から使用してみることしかないのではなかろうか
(以上NK)
 結構前にAI積んだ戦闘機が人間に反乱を起こす映画を見たことがあったような記憶がありますが、AIは学習した内容を組み合わせて判断、アウトプットを繰り返していくものなので、学習の質次第ですぐに改善するのではないかと楽観的に見ています。
 人間は細かい法規や倫理観と共に戦争をしているわけで常に最短経路で戦闘はできないため、AIとのギャップは学習内容次第で当然あり得ることです。極端な話ですが、米国がヒューマンフレンドリ―なAIによる人間ルールベースの戦争を追究するのか、完全自律AIによる計算上完璧な作戦遂行を描くのかは興味があります。
(以上S)

米陸軍は自律型トラック部隊の独自開発を断念し、商用技術の導入を目指す

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