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第20号(2024年2月23日)民生用ツールをハックする取り組みを始めた米軍、ウクライナ軍に学ぶフーシ派(1月期)

皆さんこんにちは。ありがたいことに今号で20号を迎えました!
これからも有意義な情報を発信して参りますのでよろしくお願いします。



データ処理ツールを自作する米第4歩兵師団の兵士達

概要
Defense One に12月26日掲載(記事本文
原題 ”In the 4th Infantry Division, soldiers are cooking up homebrew data tools”

要旨
 米陸軍第4歩兵師団所属の第4戦闘航空旅団では、兵士達が自作のデータ処理ツールを作り、ヘリコプターの運用支援に活用しているという。彼らはフリーの一般流通ツールにコードを付け足すことで、既存の整備記録等から適切な情報を取り出し、活用するためのデータ処理ツールを開発したのだ。第4歩兵師団所属部隊では他にも、服務に係る重大事案が発生しやすい傾向を数値化し、リスクを視覚化することで若手士官の早期介入に繋げる成果を得ている。
 第4歩兵師団司令官であるデビット・ドイル将軍は、この効果的な取組みを師団全体に広めようとしている。 米陸軍は戦闘におけるデータ活用についてのドクトリンを採用したが、ドイル将軍は兵士自身がドクトリンを活用し、データを任務に役に立てる方策を考える必要があると考えている。
 第4歩兵師団は既に師団レベルでデータリテラシーワークショップを開催している他、データ分析と人材管理、マルチドメイン作戦について等、データ活用に集中した8ヶ月のセミナーを複数開講する予定である。さらには第4戦闘航空旅団で使用しているツールを同様の任務を担う他部隊に配布する計画もあるようだ。

師団でのワークショップを主宰する米中央軍最高技術責任者のスカイラー・ムーア氏

コメント
 ドローンとはちょっと離れるニュースだが興味深いので紹介した。まず部隊レベルで民生用のツールをハックし、自分たちの運用ニーズに適うツールを生み出しているところが面白い。ドローンを含めて新しいツールを生かすには実際に使ってみることと、それを改良していくことが必要だ。部隊レベルで改良ができるようになれば、部隊のニーズに素早く対応でき高速化するバトルリズムにもついていけるかもしれない。また、このような取組みを他部隊へ伝播するための試みを行っているところも注目すべきであろう。
 もう一つはドイル将軍のイノベーションに関する問題意識だ。彼の問題意識は、ドクトリン等の政策文書と実際の部隊での運用を架橋する必要があるというものだ。彼のこうした問題意識があるからこそ第4歩兵師団ではデータ処理を兵士達自らができるような環境ができるのではないかと思った。ボトムアップを喚起するようなトップの存在は軍隊が変わっていく中ではより求められることだろう。(以上NK)

 良い取組みですね~。実はこういうこと、自衛隊(空自だけ?ではないと思いますが…)でも実施例があり、私も恩恵を受けておりました。私はアレが無い時代を知る者ですが、リリースされたときは神が舞い降りたと思いましたね。アレが無かったら、多分若手幹部はもっと辞めてるのではないでしょうか。開発者は個人の取組では滅多にないレベルの表彰をされていて、こうした取組みが自衛隊を救うんだな~と感じたものです。
 規則通りの事務処理を電子化するということは(能力さえあれば)比較的簡単にできる自衛隊ですが、処理要領が規則に抵触しやすい整備や任務関係だと、既存のアプリケーション以上の改良はなかなか難しいのではないかと感じています。
 でも、既存のシステムがユーザーフレンドリーかというとそうではありませんし、それによって各部隊で既に効率的に計算・記録する仕組みが大なり小なり生まれていることもあるでしょう。こういった「実は存在する」イノベーションの芽を拾い、成果を全部隊に対し結実させる取り組みが必要なのだと思います。
 また、自衛隊は突出した個人の能力に依存する傾向がある(前述の「アレ」のマクロを組んでくださった方も然り)ため、このようなスキルに関する教育についても見習い、eラーニングでも良いので積極的に取組む必要があると思います。(以上S)

アクティブ防護システムは対カウンタードローンアセットになれるのか?

概要
The Warzone に1月2日掲載(記事本文
原題 ”Tank Active Protection Systems Could Be Used To Shoot Down Drones”

要旨
 この記事は、戦車や装甲車に搭載され、飛来してくる対戦車ミサイル等を物理的に迎撃するハードキル・アクティブ防護システム(APS: Active Protection Systems)を、脅威を増すドローンに対抗するために改良する可能性について検討している。
 戦場における、装甲車両に対するドローンの脅威は年々高まっている。ウクライナではドローンからの爆弾投下だけではなく、FPVドローンによる特攻も装甲車両に対する脅威となっている。
 こうしたドローン攻撃をどう防ぐか、いわゆるカウンタードローンは各国軍隊にとって死活的なテーマであり、そのために既存のハードキル型APSを活用しようという動きがある。
 例えばアイアンフィストを開発したイスラエルのエルビットシステムは、ドローンや徘徊型兵器に対する性能試験を行なっている他、NATOでもハードキル型APSをカウンタードローンに使用するための検討が進められている。

 しかしAPSをカウンタードローンの用途で使用するためにはいくつかの問題がある。
1. APSは真上からの攻撃に対処できない可能性がある。
2. APSが想定している対戦車ミサイル等に比べ、ドローンは低速である。
3. 対処可能な脅威の数にも限界がある。レーザーや高出力マイクロ波を利用すれば弾数の問題は解決できるが、コスト面及び電力の問題がある。
 こうした問題を解決するためには、ソフトウェアの改造に加えてハードウェアの追加も必要になるかもしれないが、新しいシステムをゼロから開発するよりも、既存のシステムを活用できる利点は大きいだろう。加えて、弾薬のシーカー等を無力化することを目的としたソフトキル型APSと、ハードキル型APSの組み合わせもアイデアの一つであろう。さらにはAPSのセンサーを車体に積んでいる他のシステム、例えば砲塔型リモートウェポンシステム(RWS: Remote Weapon Systems)と組み合わせてカウンタードローンに転用するアイデアも提示されている。

コメント
 APSをカウンタードローンに転用するアイデアは、既存のシステムを改造することでカウンタードローンにかかるコストを下げようとしている点が興味深い。ドローンのコストを考えると防御側のかけるコストは攻撃側のそれよりも高くついてしまうので、そのコスト差をいかにうめていくかということが重要になるからである。記事ではソフトウェアの改造とハードウェアの追加で対応可能なのではとの指摘があり、それには同意するものの、どのように改造すればいいのかが問題になるのではなかろうか。
 加えて記事の最後でカウンタードローンには一つの「銀の弾丸」となるシステムはなく、複数のシステムを組み合わせていく必要があると指摘されていたが、戦車一両にどこまでの防護の傘をかけるのがコストパフォーマンス上いいのだろうか。単体での防護の傘を減らして部隊レベルでかける傘を増やしたりといった方向性もあるのではないかと考えた。
(以上NK)

 物理的なカウンタードローンの方策は様々論じられていますが、APSの活用は戦車の防護という点ではいいアイデアとなるのではないでしょうか。課題は要旨にある通り、展開距離の分だけ必要になるAPSの性能をどう盛り込むかと、APSが装甲車両に対するドローン攻撃への抑止を引き起こす程度=対称性とコスパのバランスをどこで取っていくかだと思います。
 また、あまりにもカウンタードローンに傾注し過ぎると従来対応できていた既存の脅威に対抗できなくなる可能性も発生します。「これ一つであらゆる脅威に対応します!」というのは理想的な一方で非現実的です。
 故に戦場の脅威に柔軟に対応できるAPSとはどんなものか、実務者と開発側がタッグを組んで分析していく必要があると考えます。(以上S)

クロスドメインでのドローン攻撃に対する新たな対処策を希求する米海軍

概要
BREAKING DEFENSE が1月3日発表(記事本文
原題 "Navy to seek industry help on countering ‘cross-domain’ drone attacks"

要旨
 米海軍は、2024年1月末に産業界に対して無人システムによるクロスドメイン攻撃に対処するための「革新的な提案」を募集する予定である。この提案では、複数の無人システムを効果的に識別、追跡、迎撃するために、海中、海上、地上、空中の各領域からの情報を統合可能なソリューションが求められているという。
 米海軍は中東、特に紅海においてイエメンの反政府武装勢力フーシ派からのドローン攻撃に対処し続けており、米海軍にとってはドローンへの対処は喫緊の課題であると言えよう。
 記事ではサミュエル・ベンデット氏のコメントを紹介している。彼は、フーシ派がウクライナでの戦争で実証された海上、空中の無人アセットを使用して相手の防衛手段にストレスを与える能力を模倣していると指摘した。

コメント
 無人アセットを使用したフーシ派によるシーレーン攻撃は継続して発生しており、既にUSVによる攻撃も発生している。そうした実際の脅威を目の前にしているからこそ、米海軍が新しい提案を求めていることは想像に難くない。
 ベンデット氏のコメントにもあるように、フーシ派は継続的に安価なドローン攻撃を使用することで、防衛システムにストレスを与え続けている。今回の一連の攻撃は、フーシ派がドローンを使用した非対称性な消耗戦を仕掛けてきていると解釈すべきだと考える。
 ドローンが加わった戦場には、コスト面での非対称性が存在する。この消耗戦において、攻撃側はドローンを工夫することでコストを抑えつつ継戦可能だが、防衛側は未だに「銀の弾丸」が無いドローンに対するコストがかさみ、長期戦に持ち込まれると厄介だ。
 今でこそ米海軍はこの消耗戦に対処できているが、いずれ必ず限界は来る。ドローンを、いつまでも高価な対空ミサイルで迎撃し続けるわけにもいかない。このような戦いにおいては、迎撃手段を安価なものへ切り替えていくといった対処だけではなく、リスクの許容範囲を改めるような、根本的な見直しが必要となるのではないかと考える。
 今回のフーシ派によるドローンを使用した非対称な消耗戦を他山の石として、日本がその消耗戦の目標になった場合どうするべきか、頭の体操を始める必要がある。(以上NK)

 ウクライナは武装勢力の非対称の戦い方を模してロシアに対抗していますが、ウクライナで洗練された戦術を今度は武装勢力が模倣しているという点は非常に興味深く感じています。
 彼らは民主主義国の正規軍とは異なり監視されていない組織であるので、資金や物資が許す限り効果的だと評価した装備や戦術をすぐに取り入れることができます。これらの戦術をいずれ取り入れることは可能でしょうが、このスピード感を、官僚的性格を持たざるを得ない正規軍が持つことはかなり難しいと思います。
 米軍は可及的速やかに問題を解決しようと躍起になっていますが、解決できてたらウクライナ戦争は膠着化していないはずです。ここでいう武装勢力、すなわち非政府武装組織の厄介な点は、対国家的な政治的交渉で終結(テロ組織としての活動停止、解散等)に導くことが難しい点にあると思います。
 ほとんど組織化されていないソマリアの海賊以上に難しい問題である上に、多くの国がウクライナ支援や自国防衛との複数正面作戦を強いられている状況ですが、海上交通の正常化に向けて米軍だけでなく、実効的な国際的な取り組み(これは批准しない国勝ちな条約や、東西二極化で雑に整理されがちな軍事的協力などの政治的文脈だけでなく、防衛企業間の技術競争なども含めた多面的な活動を指します)が求められると考えます。(以上S)

目指せ軽量軽快!―米陸軍が模索するネットワーク戦時代の指揮所の形

概要
Defense One が2023年12月21日に発表(記事本文
原題: The Army wants smaller command posts. But first it needs great software

要旨
 米陸軍はウクライナ戦争から、従来の大型指揮所が敵の標的になりやすいことを学んだ。そこで、より小型で分散可能な指揮所の開発を進めている。   
 米陸軍軍司令部G6の副参謀長マルン・サッテン大将は、指揮所を利用可能な機器を組み合わせて「ポップアップ」させ、さまざまなデータプラットフォームを活用して柔軟性を向上させ、自分の選んだタイミングで命令を下すために利用できる指揮所を望んでいると語った。
 情報は複数のチャンネルを速やかに切り替えられるよう、地上ケーブルや衛星など、さまざまな通信手段を組み合わせて利用する。陸軍は、指揮官が必要とする高度に設定可能なテクノロジーを、ソフトウェアを中心に据えた新しいアプローチで最適に購入する方法を模索している。
 陸軍の目標は、指揮所を「より小さく、より軽く、より速く」することである。

コメント
 最初にサッテン大将が語った、現場指揮官の指揮統制に関するニーズには切実なものがあると思います。小型のドローンが大量に戦場を飛び回るようになったことで、部隊は常に機動することを強いられます。このような状況で鈍重な指揮統制網では、最悪部隊は届かない命令に苛立ち、司令部は隷下部隊の現在地をロストする可能性も否めません(現実には絶対にあってほしくない妄想ですが…)。
 米陸軍は洗練されたソフトウェアやシステムの導入という、いわゆる「モノ買い」からのアプローチを実施しようとしています。彼らは恐らく、上手く導入できた暁には新しいドクトリンを迅速に制定し、それに基づく運用に適応していくものと思われます。ここで注目したいのがドクトリン文化の重要性です。
 自衛隊が同じことをしようとしたときに、新しいシステムに一挙に移行できない、新しいシステムへの適応が部隊任せ、新しいシステムや、そのやり方に対する抵抗勢力の発生…などいろんな懸念が生まれますが、ドクトリンは新しいシステムの導入背景、使い方の枠組みなどを提供し、このケースで言う所のよりコンパクトで軽快なミッション・コマンドへの組織的進化を効率的に浸透させる共通言語になろうかと思います。
 ウクライナ戦争を機に同盟国軍が大変革をしようとしつつありますが、自衛隊は指揮統制システムのアップデートという難題にどのように立ち向かうのか、(少し前に空自クラウドが話題になりましたが…)注目です。
(以上S)

 私自身最近(実験において)ドローンに爆撃されたり、FPVドローンに追いかけられることが多いのだが、そこで私が思ったことは、ドローンに対しては迎撃も大事だが、ひたすらに逃げる(=機動する)ことこそが対策になるのではということだ。
 そのように考えると、米陸軍の進めようとしている司令部の小型化と分散は理に適っているように思われる。また戦力の集中と分散は戦争において指揮官を悩ませる永遠の課題であるが、現代戦に関しては分散を志向する傾向にあるように思われる。今回の記事もそうした傾向の一部なのかもしれない。
 加えて記事の後半でデータストレージと、コンピューター能力を分散させる方法が、陸軍から各企業への解決して欲しい課題として挙げられていた。データストレージに関しては、クラウドが解決の糸口かもしれない。後者はどのような解決策があるのかが気になるところである。(以上NK)

【論文】ドローンスウォームと情報戦

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