第7号(2023年8月25日)AI前提化する在来兵器、そして中国の最新技術の脆弱点(7月期)

第7号は、7月期の話題と論文についてご紹介します。


旧式のT-54戦車が自爆UGVとしてウクライナ戦争で使用される

概要
The Warzone (https://www.thedrive.com/the-war-zone/) に6月19日掲載
原題 ”Ancient Russian T-54 Tank Turned Into Rolling Bomb Explodes In Massive Shockwave "

要旨
 
ロシアは旧式となったT-54/55に爆薬を搭載し、車両搭載型即席爆発装置(VBIED)として活用していることが最近の映像で確認された。ロシア国防省はテレグラム・チャンネルへの投稿で、遠隔操作した自爆戦車が使用されたと主張した。戦車には約3.5トンのTNTと5発のFAB-100爆弾ー重量約220ポンド(約100kg)の空中投下型爆弾ーが搭載され、遠隔操作で爆発させたとのこと。
 戦車のような装甲車両をVBIEDに活用することは、その機動性、ペイロード、装甲により有用性を持つ。さらにはウクライナ戦争で使用されている現代戦車と比べて、性能的に陳腐化したT-54を有効活用することができる。

コメント
 
戦争はハイテク技術だけで戦われるわけではないことの証左である。むしろハイテクとローテクの組み合わせにこそ活路があるように思われる。自爆UGVに改造したT-54の誘導や、効果測定に小型ドローンが使用されていることが指摘されている。
 ローテクとハイテクの組み合わせということを考えると、旧式の兵器の保管が問題になると思われる。ロシアやアメリカはモスポールして保管可能だとは思うが、我が国においてはどうなるのであろうか。(以上NK)

 日本は、一度用途廃止した防衛装備品をモスボール等により長期保管していません。定期交換等の維持管理にかかるコストと日本のシビアな環境、用地の狭さを考えれば致し方ないことではありますが、戦略の転換でまだ使用可能にもかかわらず処分してしまう装備品があるのはもったいなく感じます。また、日本の防衛装備品は急激な損耗を前提に調達体制が整備されていないことに加え、一般論として戦闘機や戦車は平時でも製造に時間を要します。ウクライナへの既存のF-16供与でも戦力化には多大な時間を要しています。まして新造品など「今欲しい!」と言ってもすぐには届かないのです。
 安全保障環境と、戦場における戦い方の変化を踏まえ、より効率的な兵力の維持整備を実施していく必要があると考えます。(以上S)

ウクライナが模索する「対ドローンシステム」の実験例

概要
Conflict (https://twitter.com/ConflictTR/) に5月15日に投稿

要旨
 
ウクライナ軍の部隊で自爆ドローンへの対抗策として、AK-74自動小銃を6つ連結させてガトリング砲のように固定したシステムを開発した。動画では単発射撃でドローンを狙う姿が捉えられている。

コメント
 
動画では単発射撃でドローンを狙っているが、反動制御が難しいように思われる。連射で狙うのは困難ではなかろうか。そしてマガジン式で給弾しているがリロードはどうするのだろうと疑問に思う。一つずつリロードするとなると時間がかかるのではなかろうか。
 システムとしての完成度はともかく、こうして現場レベルであっても対抗策を試行錯誤しているところはやはり注目すべきことである。今発生している問題にアジャイルに開発を進めて問題解決していくことが戦場では求められる。平時にそれを行うのは簡単なことではないが、戦時にはアジャイルに開発できる環境・土壌を整備することはできるはずだ。環境整備を行うためには、技術開発のあり方から組織文化に至るまで広範囲を見直す必要があるだろう。(以上NK)

 どう考えてもAKじゃ対空攻撃はできないでしょうよ、そんなギャグやってる暇あるんですか?…と思いつつも、現場で新しい戦い方をトライしていくことは良いことだと思います。特に戦闘/戦術の検討は、相手が人間である限り不確定要素が大きく机上では測りかねることばかりです。「とりあえずやってみる」精神での改善は現場レベルでは積極的になされるべきであり、それがイノベーションの土壌になるのではないかと思います。
 安全や品質基準が絡むところでは難しいかもしれませんが、そこをどう突破するかも考えどころです。平時は根拠や基準に囚われがちですが、最低限のラインを決めた上で自由な取り組みを評価する空気が現代の軍には求められるのではないでしょうか。(以上S)

人工知能システムは有効なターゲットを識別できる

概要
New Scientist (https://www.newscientist.com/) に7月4日掲載
原題 ”Drones with AI targeting system claimed to be 'better than human'”

要旨
 
オーストラリアの企業であるAthena AIが開発したAIは、標的認識能力において人間よりも優れた能力を発揮するとのこと。Athena AIのスティーブン・ボーンスタイン氏によればこのAIは、人や戦車等の軍用車両を識別・追跡できるだけでなく、人が特定の制服を着ているかや武器を持っているかの判断も可能とのことだ。加えて降伏しているかどうかも判別できる。このAIはドローンを操縦するオペレーターを支援し、オペレーターが攻撃すべきでない目標を攻撃しないように警告することも可能である。アテナ社製のAIは戦闘では使用されたことはないが、米国企業と協力して米軍にこの技術を導入しているとのことだ。

コメント
 
アテナ社の物体検出AI、車両等を見分けるだけでなく武器を見てるかどうか、降伏のサインを出しているかどうかまで識別できるのは端的にいって驚きである。どういう教育データを使ったのかがとても気になる。こうした高性能AIを使うことで、人間操縦のドローンによる誤爆を減らすことができる。どんな戦場においても法的正統性を担保しつつ戦闘を行う必要があるが、人間は必ず間違いをしてしまう。その点機械はそうではない。AIの活用こそが戦場をより人道的に、より正統性を高めるのである。
 同時に記事でも指摘されているように、実際のデータやテスト方法が機密になっているため評価が難しいことや、AI認識システムを騙す方策の存在といった懸念事項も存在するのも事実だ。ただ前者においては、使用者は実際に使ってみることで自分達で評価可能である。後者の問題も、以前紹介したAUKUSによるAIデモンストレーションのように、リアルタイムでソフトウェア更新するなど対策可能である。(以上NK)

 赤外画像のような情報量が限られる材料で、本当にあの画像で彼らが主張するような識別・認識が出来るのか不思議に感じています。これが本当に実現されていればAI画像認識は我々の考える更に一歩先に進んだのだと思いますが、少なくとも間近に迫る姿ではあるのでしょう。
 NK氏は戦争の人道性と正統性が高まるというコメントをしていますが、将来戦においてAIやロボットの消費だけが進む戦争は膠着化し、戦略的ダメージを相手に課すために、更に非人道的な方向へ進んでいく可能性もあります。また、環境によってはスペック通りの機能を発揮しづらい場合もあることから、これらの技術を取り込んでどのように活用していくかが人間に問われていくと考えます。(以上S)

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