【思考訓練の場としての経済学入門】日本の実力を点検

(1)はじめに

 皆さんは、ニュースを見て、「なるほど、世界は今こうなっているのか」と現状を分析したり、「経済指標はこうなっているから、これからこういうことが起きるな」と近未来を予想することはできますか?

 GDPの成長が鈍ると投資家などが大騒ぎしますが、なぜなのか。日本の借金が問題視されていますが、どれほど深刻なのか。なんとなく聞いたことはあるけれど、説明しろといわれると困る。そういった方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
 テレビやネットで、ムズカシイ経済情勢を分かりやすく説明してくれるコンテンツはたくさんあります。これらはとても役立ちますが、彼らの話を聞いて、さて自分で更に深掘りして考えられるようになるのでしょうか?受け身の学習では、なかなか「考える力」は身につかないでしょう。

 この「思考訓練の場としての経済学入門」では、「思考訓練」という名のとおり解説とドリルを通して、皆さまが自分自身の思考を訓練し、学んだ知識をもとに自ら考える力を身に付けていただきたい、という想いを込めて執筆しております。記事の前半の解説を読み、後半のドリルを解くことで、確かな知識を身に付けることができるでしょう。

 第1回の本記事では、まず日本の経済状況をざっくりつかんでいただきます。そのために、経済力を測る目安であるGDP、国(政府)の支出入や借金の状況について解説します。読み終えれば、これらについて、きちんと数字で語ることができるようになるでしょう。

(2)GDPとは何か

 所得は、その人の豊かさを測る目安になります。所得が多ければ、質の良いサービスを受けられ、欲しいものが手に入るなど、高い水準の生活が送れるからです。同じことが、国にも言えます。一国の経済がうまくいっているかは、その国内で得られる所得を見ればおおよそ分かります。これが、GDP(国内総生産)の役割です。
❶GDPは、「一定期間において、1国内生産されるすべて最終的な財・サービスの市場価値である。」と定義されています。つまり、
①一定期間:GDPは一定期間における所得と支出の流れ(フロー)です。
②国内で:国内で生産されたものですから、海外で働く日本人が生産したものは除きます。一方、外国人が国内で生産したものは含みます。
③生産される:新しく生み出されたものが対象です。したがって、過去に生産された中古品の売買は含みません(但し、仲介手数料など、売買に伴い、生み出されたサービス等は含みます)。
④すべての:市場で合法的に生み出されるすべてのものが対象です。したがって、家事(市場にないもの)や麻薬取引(違法である)は含みません。
⑤最終的な:商品が生み出されるには、材料→仕掛品→完成品と、何段階か踏みます。仕掛品と完成品の両方を数えると、二重計上になりますので、原則、生産途中のもの(中間財)は除きます。例外的に、生産された中間財が当面使われず、在庫として残る場合、当面「最終財」としてGDPに含みます。
⑥市場価値である:市場価格を用いて測ります。つまり、お金で換算できないものは対象外です。
❷GDPは、消費投資政府支出純輸出で構成されます。
 ①消費:新築住宅の購入は、投資に算入するため、除きます。
 ②投資:生産に用いる支出(工場建設など)
 ③政府支出:政府による消費・支出(失業手当等は除く)
 ④純輸出:輸出額-輸入額
❸GDPには、単純に集計した「名目GDP」と、物価変動の影響を除いた「実質GDP」があります。
 たとえば、1個100円の商品が、翌年、2倍の200円になりました。一方、生産量は年100個から年150個になりました。単純計算だと、GDPは、10,000(100円×100個)から30,000(200円×150個)と3倍になります。しかし、生産力が3倍になったわけではありません。そこで、値上がりの影響を排除するため、基準年の価格(ここでは、100円)を用いて計算します。そうすれば、GDPは15,000(100円×150個)で、基準年の1.5倍となり、実質的な生産力の増加を表すことができます。前者が名目GDPで、後者を実質GDPといいます。経済を分析するときに重要視されるのは、実質GDPの方です。
❹GDPは、所得と支出の両面から測ることができます。誰かの所得は、誰かの支出によるものですから、所得と支出は一致するからです。
 
簡単にいうと、日本のGDPは、日本の「生産力」あるいは「稼ぐ力」と考えればよいでしょう。どれだけの規模であるかも重要ですが、前の年に比べ、どれだけ伸びているかという視点も重要です。

(3)政府が持つ2つの大きな財布

 政府の収入・支出は、歳入・歳出と呼ばれます。歳入・歳出には、「一般会計」と「特別会計」の2つに分かれています。一般会計は、メインのお財布。特別会計は、メインのお財布と分けて管理した方が良いと考えられるものについて、それぞれサブのお財布を作って、分別管理するイメージです。現在、特別会計は、13項目(※)あり、規模はおよそ290兆円です。
 さて、日本のGDP、政府の歳入・歳出(一般会計)及び債務残高は以下のとおりです。
(日本)
❶実質GDP:536兆円(前年比+0.7%)
(政府)
❷歳入:合計105兆円
  ①税金等(収入):合計60兆円(構成比57%)
   ㋐所得税:20兆円(同19%)
   ㋑消費税:18兆円(同17%)
   ㋒法人税:12兆円(同11%)
   ㋓その他:9兆円(同 9%)
  ②国債(借金):34兆円(同32%)
 ③雑収入:5兆円(同5%)
 ④前年度の余り:5兆円(同5%)
❸歳出(支出):合計99兆円
  ①社会保障:32兆円(同32%)
  ②地方交付税交付金:16兆円(同16%)
  ③公共事業:7兆円(同7%)
  ④文教及び科学振興:6兆円(同6%)
  ⑤防衛費:5兆円(同5%)
  ⑥その他:9兆円(同9%)
  ⑦国債費:23兆円(同23%)
   ㋐元金払い:15兆円(同15%)
   ㋑利息払い:8兆円(同8%)
❹債務残高:1,146兆円(GDP比214%)
※GDPは2019年、歳入歳出は、2019年度、債務残高は令和元年12月末現在。

(4)注目点

・消費税は、政府の収入のうち、2割近くを占めています。減税に及び腰になる気持ちも分からなくはないですね。
・毎年の収入のうち、3割が借金(国債)から賄っています。
・支出のうち。2割が借金返済に使われています。借金の残高は、歳入の10倍、GDP(日本の稼ぐ力)の2倍もあります。普通の家計であれば、いつ破産してもおかしくないですよね。大盤振る舞いは控えるべきではないでしょうか。

 では、次はドリル編です。穴埋め形式となっています。是非、ご自身の理解度をチェックしてみてください。なお、数字については、規模感を理解していただきたいので、正確な答えでなくても、おおよそ当たっていれば正解と考えていただいて構いません。

※特別会計の13項目
交付税及び譲渡税配付金、地震再保険、国債整理基金、外国為替資金、財政投融資、エネ
ルギー対策、労働保険、年金、食糧安定供給、国有林野事業債務管理、特許、自動車安全、東日本大震災復興

(出典)内閣府HP、財務省HP、『マンキュー入門経済学 第2版』

【ドリル編】

(1)GDPの定義は、「(①)において、(②)で(③)される(④)の(⑤)財・サービスの(⑥)である。」
(2)GDPは、海外で働く日本人が生産したものは(⑦)。一方、外国人が国内で生産したものは(⑧)。また、(⑨)で(⑩)的に、(⑪)生み出されるすべてのものが対象です。生産途中のもの(⑫)は除きますが、例外的に、当面使われず、在庫として残る場合、当面「最終財」としてGDPに含みます。
(3)GDPは、(⑬)+(⑭)+(⑮)+(⑯)で構成されます。
(4)GDPには、単純に集計した「(⑰)」と、物価変動の影響を除いた「⑱」があります。重要視されるのは、(⑲)です。
(5)政府の収入・支出は、歳入・歳出と呼ばれます。歳入・歳出には、「(⑳)」と「㉑」の2つに分かれています。特別会計は、13項目あり、規模はおよそ(㉒)兆円です。
(6)2019年の日本の実質GDPは、(㉓)兆円(前年比+0.7%)です。
(7)2019年度の日本の一般会計の状況は以下のとおりです。
歳入の合計額は(㉔)兆円
  (内訳)
   ㋐税金等(収入):合計(㉕)兆円(構成比57%)
   ・所得税:(㉖)兆円(同(㉗)%)
   ・消費税:(㉘)兆円(同(㉙)%)
   ・法人税:(㉚)兆円(同(㉛)%)
   ・その他:9兆円(同9%)
   ㋑国債(借金):(㉜)兆円(同(㉝)%)
   ㋒雑収入:5兆円(同5%)
   ㋓前年度の余り:5兆円(同5%)
歳出の合計額は99兆円
(内訳)
  ㋐社会保障:(㉞)兆円(同(㉟)%)
  ㋑地方交付税交付金:16兆円(同16%)
  ㋒公共事業:7兆円(同7%)
  ㋓文教及び科学振興:6兆円(同6%)
  ㋔防衛費:(㊱)兆円(同(㊲)%)
  ㋕その他:9兆円(同9%)
  ㋖国債費:(㊳)兆円(同(㊴)%)
  ・元金払い:(㊵)兆円(同(㊶)%)
  ・利息払い:(㊷)兆円(同(㊸)%)
(8)日本政府の債務残高(令和元年12月末現在)は、(㊹)兆円です。これは、GDPの約(㊺)倍あります。

【解答】

①一定期間、②1国内、③生産、④すべて、⑤最終的な、⑥市場価値、⑦除きます、⑧含みます、⑨市場、⑩合法、⑪新しく、⑫中間財、⑬消費、⑭投資、⑮政府支出、⑯純輸出、⑰名目GDP、⑱実質GDP、⑲実質GDP、⑳一般会計、㉑特別会計、㉒290、㉓536、㉔105、㉕60、㉖20、㉗19、㉘18、㉙17、㉚12、㉛11、㉜34、㉝32、㉞32、㉟32㊱5、㊲5、㊳23、㊴23、㊵15、㊶15、㊷8、㊸8、㊹1,146、㊺2

 


 


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