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nao
2022年1月27日 23:01
ゆえあって、古いフランス映画を見た。エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』(1867)を、あの『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネが映画化したものである。とても面白かった!というわけで、何がどう面白かったのかを書いていく。 小説の紹介からしておこう。ゾラは、アデライード・フークという女性がマッカールと愛人関係にあって二人の子どもを、ルーゴンと結婚して一人の子どもを産んだ、という設定で、その子孫
2021年5月22日 17:05
昨日、待ち焦がれていた『茜色に焼かれる』を見てきた。素晴らしかった。映画の紹介では、主人公の境遇や仕事、ちょっと不思議に見える口癖などに焦点が当てられていたのだが、実際に見たら、主人公をはじめとする登場人物の振る舞いにはすべて「一本の筋」が通っており、何らの矛盾も感じなかった。これは石井監督の脚本と、主演の尾野真千子さんの演技力(監督の言葉を借りれば「化け物級の演技」)、他のキャストの力量に依っ
2021年5月23日 01:06
『茜色に焼かれる』を見てまだまだ余韻に浸りつつ、とりとめもないことをあれこれと考え続けている。ここではその一つ、良子さんの「お芝居」について考えたい。 「田中良子は芝居が得意だ」映画はこの一文から始まる。けれどそれ以上の言及は何もないままに物語が進む。途中、亡き夫の命日に集まったバンドのメンバーから、純平は良子が「アングラ劇の女優」だったことを聞かされ、「情念」だの「すげえ芝居をする」だの
2021年5月30日 09:33
『茜色に焼かれる』を最初に見たのが公開日の5月21日、以来この映画は私の頭の中に住みついてしまい、日々この映画のことをあれこれと考えている。今日はこのタイトルについて、ちょっとまとめてみた。 映画の中で、茜色はさまざまなところに差し込まれている。事故のシーンで画面の手前に映る柱、神社の鳥居、良子さんがデートで身につける服、純平くんのTシャツと自転車、熊木くんといよいよ関係を持つことになるシ
2021年6月16日 18:11
『茜色に焼かれる』にはいくつかのルールが登場し、良子さんは「ルールだから」と自分に言い聞かせ、それを守ろうとする。けれど実際には、こうしたルールは良子さんと純平くんを決して幸せにはしない。「僕たちはいつもルールというルールに裏切られる。」では、二人はどんなルールに裏切られてきたのだろう。 まず、ルールを守り、青信号の横断歩道を渡っていた陽一さんは、ブレーキとアクセルを踏み間違えた車によって殺
2021年6月11日 17:18
『茜色に焼かれる』が母を描いたものであることは言うまでもない。最初のタイトルからして『茜色の母の戦い』なのだ。けれど、人というのはお母さんであると同時にその人自身でもある。この映画でこの二つがどのように描き分けられているのかを考えてみた。 純平くんがクズの上級生にイジメられて帰ってきたとき、良子さんはそのことを洗濯物から嗅ぎつける。そして夕食の席で問いただす。二人の間には「嘘をつかない」とい
2021年6月10日 18:12
尾野さんは切り替えの凝った白いシャツに細身の黒パンツ、ハイヒール。尾野:どうでしたー?とんでもない女豹が出てきたでしょう。恥ずかしい。少しですけど時間の許す限りお話しさせていただきます。—公開を迎えたことについて尾野:もう、嬉しいですよねえ。もしかしたらできなかったかもしれない。公開できるかが不安だった。映画はやっぱり映画館で見てもらって一人前のものだから、配信とか言われたらどうしよう、と
2021年6月6日 19:56
映画が「田中良子は芝居が得意だ」で始まること、良子さんがお芝居ではなく本心を吐露し、本性をさらけ出すシーンとして神社のシーンがあり、さらに最後のアングラお芝居にこそ宿る真実もある、ということはすでに書いた。今回は、もう少し細かく、良子さんが本心から語っている場面、本性を見せる場面を抜き出してみる。さらに、良子さんの勝負カラーである赤との関連も考えてみたい。 この映画には「ナメる人」と「ナメら