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『カムカムエヴリバディ』のひなたと「銀行の前に犬がいます」

『カムカムエヴリバディ』のひなたと「銀行の前に犬がいます」

 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』は、戦前に始まった英会話ラジオ、終戦後に復活した「カムカム英語」をずっと聞き続けて英語を学んだ安子、その娘のるい、さらにその娘ひなたの、母娘三代に亘る物語である。今はひなたがラジオ講座の文を繰り返して英語を勉強し、かなり話せるようになったところまで話が進んでいる。

 このひなたの勉強法は、日常会話にはとても有効だ。私は大学に入ってフランス語にハマり、学校では文法と

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『カーネーション』のファンミーティング抽選に外れた話

『カーネーション』のファンミーティング抽選に外れた話

 今BS12で絶賛再々再放送中の朝ドラ『カーネーション』、世間をキャーキャー言わせたけれど私にはどうでもよかった周防さんのパートが終わり、中年から初老にかけての糸子の惑いと変化が書かれる、オノマチ糸子の最終パートに入った。それに合わせて、ということもあるだろうが、おそらくは3月6日におおさかシネマフェスティバルで尾野さんが主演女優賞の表彰式に来阪することに合わせて、3月5日、岸和田で「おかえり糸子

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おおさかシネマフェスティバル表彰式—片山友希さんと尾野真千子さんコメント—

おおさかシネマフェスティバル表彰式—片山友希さんと尾野真千子さんコメント—

片山友希さんは、とにかく細かった!
浜村:素晴らしかった。あれは地ですか?
片山:いや、地ではないです。この役できるんだろうか、という苛立ちがケイちゃんとリンクしたのかな、と思っています。そういう意味では地下もしれません。
浜村:あなたが引っ張っていく場面がありましたね。
片山:実際には尾野さんに引っ張っていただきました。
浜村:難しかったのはどういった場面でしょうか。 
片山:全部すごく悩んでい

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連続テレビ小説「カーネーション」放送10年・岸和田市市政施行100周年『おかえり糸子!カーネーション ファンミーティング』トーク書き起こし(2022.3.5.開催)

連続テレビ小説「カーネーション」放送10年・岸和田市市政施行100周年『おかえり糸子!カーネーション ファンミーティング』トーク書き起こし(2022.3.5.開催)

尾:尾野真千子さん
城:城谷厚司さん(カーネーションプロデューサー)
比:比留木剛史アナウンサー

 尾野さんはなんと、ミシンに初めて触るときに来ていた矢絣の着物にグリーンの袴、赤い足袋におさげ髪(両手に赤いうちわ)、という姿で登場した。雰囲気はあの時のまま!↓

比:最初にご挨拶を。
尾:色々笑って、いろんなこと忘れて帰ってください。
比:今日は女学生時代の衣装で。尾野さんのアイディアですか?

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『カーネーション』原口先生の魅力

『カーネーション』原口先生の魅力

 周防さんと糸子がきれいに別れたあと、時代は少し飛び、娘たちがそろそろ進路を決める年になる。美大を受けると言って、手伝いもせず絵ばかり描いていた優子は、結局画家になる覚悟は持てず、東京の服飾専門学校に行く。帰ってきた優子は、すっかり関東アクセントになり、ことあるごとに「原口先生」の名を口にする。そんなある日、その「原口先生」の実物が(←失礼な)、突然岸和田を訪れる。

 原口先生は、まず木ノ元のお

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『茜色に焼かれる』:紹介文

『茜色に焼かれる』:紹介文

 シングルマザー、風俗嬢、いじめに遭う息子など、コロナ禍が浮き彫りにした「なめられる側にいる人たち」の物語。映画は「田中良子は芝居が得意だ」という一文で始まる。経済的に追い詰められた良子はスーパーのパートのほか、風俗店でも働くのだが、そんな状況を「まあ頑張りましょう」の一言で流しながら生きる。つまり良子はずっと芝居しながら生きている。ある日風俗業仲間のケイがそこに切り込み、良子は初めて本心をさらす

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毎日映画コンクール表彰式

毎日映画コンクール表彰式

 昨日は尾野さんが主演女優賞を受賞した毎日映画コンクールの表彰式だった。息子の純平役を演じた和田庵さん、風俗業仲間のケイちゃんを演じた片山友希さんも、スポニチ新人賞を受賞して、表彰式では三人が顔を合わせた。感激である。

 尾野さんは「女優をしていて孤独を感じることがあったが、この作品は皆で作った」といつもながらの、思っていないことは何も入っていない的確なスピーチをした後、「今はみんなと…飲みたい

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『カーネーション』(第86話):「立ち直る」ということ

『カーネーション』(第86話):「立ち直る」ということ

 『カーネーション』は人の傷も喪失も包み隠さず描く。戦争に行った夫が赤痢にかかって死に、女手一つで髪結店を営んで息子二人を育てた安岡のおばちゃんは、勘助が心を失くして帰ってきてから悩み続け、その勘助がようやくお菓子屋で働けるようになったところに糸子の出過ぎた励ましで、勘助の傷が抉られてしまったことから、糸子に「あんたの図太さは、毒や」という呪いのような言葉を投げつける。その後勘助も頼りになる泰蔵も

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キネマ旬報ベストテン 主演女優賞に思う

キネマ旬報ベストテン 主演女優賞に思う

 尾野さんが『茜色に焼かれる』で五つめの受賞である。しかも、商業的なものではなく、純粋に映画を愛する人たちのための賞ばかり、というところに、ファンとして誇りと喜びを感じずにはいられない。
 ところで人間には二種類ある、と私は思っている。棚ボタのある人とない人である。これは決して、棚ボタを「うまいことやりやがって」などと貶したいのではない。100の力のうち100を出すことで物凄いものを見せる人と、な

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朝ドラから見る「戦争のあと」

朝ドラから見る「戦争のあと」

 今朝の『カムカムエヴリバディ』、時代が10年飛んで、1975年になった。るいの娘、ひなたが10歳になり、夏休みが始まる、という設定である。そこで「夏休みと言えば祭り」、「夏休みと言えばラジオ体操」、「夏休みと言えば花火」と夏の風物詩が語られるのだが、そのときに「夏休みと言えば高校野球」というのが来る。しかし、そこで見せられるのは、試合そのものではなく8月15日正午の黙禱だ。錠一郎、るい、吉右衛門

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『嘆きのテレーズ』(1953)を見る

『嘆きのテレーズ』(1953)を見る

 ゆえあって、古いフランス映画を見た。エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』(1867)を、あの『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネが映画化したものである。とても面白かった!というわけで、何がどう面白かったのかを書いていく。

 小説の紹介からしておこう。ゾラは、アデライード・フークという女性がマッカールと愛人関係にあって二人の子どもを、ルーゴンと結婚して一人の子どもを産んだ、という設定で、その子孫

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映画は、芝居だ—『茜色に焼かれる』、毎日映画コンクール女優主演賞—

映画は、芝居だ—『茜色に焼かれる』、毎日映画コンクール女優主演賞—

 私の心をとらえてやまない石井監督の映画、『茜色に焼かれる』がまたまた快挙を成し遂げた。尾野さんが女優主演賞、息子の純平を演じた和田庵さん、良子さんと語り合う仲であり、純平くんの想い人となるケイちゃんを演じた片山友希さんがスポニチグランプリ新人賞である。これで尾野さんは、TAMA映画賞主演女優賞、山路ふみ子女優賞、ヨコハマ映画祭主演女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞と、4つめの受賞となった。まこ

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『茜色に焼かれる』について、作り手に聞いてみたいこと

『茜色に焼かれる』について、作り手に聞いてみたいこと

『茜色に焼かれる』は見れば見るほど色んなことを考えてしまう映画で、これまでとりとめもなく色んな角度からポツリポツリと考察を連ねてきたけれど、もし一つのまとまった形にするなら、どういう手順がいいだろうかと考えてみた。(『茜色』で卒論を書くなら、どんな章立てが可能か、ということである。)

1)作品の位置づけ:可視化された「社会的弱者」ということから、三つのキーワードに着目する。
 『茜色に焼かれる』

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好きな言葉について

好きな言葉について

 シンガーソングライターの谷山浩子はかつてエッセイの中で「好きな言葉は『たばことみかん』である」と書いている。「たばこ」でも「みかん」でもなく、「たばことみかん」なのだそうだ。でもなんとなく言いたいことはわかる。意味ではなく、音の響きと字面がかもし出す感触の問題なのだろう。

 ところで、私の好きな言葉は「〜でございます」と「〜と存じます」と「滅相もない」と「恙無く」である。なんやねん、と思われる

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