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「フェイブルマンズ」の感想(ネタバレあり)

今週はアカデミー賞やっていて、今作も色々ノミネートされていたけど、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の作品賞発表のハリソン・フォードとキー・ホイ・クァンが抱き合って、スピルバーグが見守るシーンはスピルバーグ映画で「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」が一番好きな自分としては、めちゃくちゃ感動してしまったなぁ、、、。

スピルバーグの記憶の物語

スティーヴン・スピルバーグ最新作。
観る前はスピルバーグが自分の映画愛を語る様な自伝映画なのかなぁと思っていたけど全然違った。
おそらくスピルバーグという人の人間性を決定づけた自分の「家族」の物語をこれまでの名作スピルバーグ映画のエッセンスを散りばめながら、集大成的に作り出した一作という印象がした。

実話というにはあまりにドラマチックだし、起こってる出来事に対する痛みは描きつつも容易く折り合いを付けるのは難しい家族の別れに対して、それぞれがもっとドロドロした感情はあったと思う。
それでも最後に父親が話してた様に「誰も悪くない」という描き方にしているのが、自分の家族と人生を芸術の力で肯定している様にも見えて凄くグッときた。

「この映画は例え話ではなく私の記憶なのです」
とスピルバーグが予告で話す映像をよく映画館で見ていたけど、「真実」かどうかではなく彼にとっての美しい「記憶」であるというのが、映画監督としての彼の信じているもの表現せずにはいられない今作で言う「芸術家」としての血の凄みをより深く感じる。

そういえば今新しい「インディ・ジョーンズ」の予告をよく観るけどそこでのインディの「何を信じるかじゃない、どれだけ強く信じるかだ」というセリフが今作のスピルバーグの魂にシンクロしてる感じがある。
(まあ次のインディは監督が違うし偶然だと思うけど)

スピルバーグにとっての映画

今作で描かれる「映画」というのが、ただ単に素晴らしいモノというバランスで語られないのが、また面白い。

そもそも彼が初めて夢中になった「地上最大のショウ」の場面も、機関車が車にぶつかって全てを破壊してしまうシーンだし、妹達を使って撮る作品も血みどろな場面ばかり、恐らく一番大作なみんなの前で披露した戦争映画もめちゃくちゃ暴力的。
ここら辺で既に彼の好きなモノが褒められたモノではないという目線を自己言及的に入れている。

それと撮影している内に本人が知りたくなかったり意図しないモノが映ってしまう事の怖さも描いているのが、映画作家を主人公にした作品として珍しい気もした。大体映像を撮る事の素晴らしさのみを描くことが多いと思う。
母親とおじさんとの関係性を望まず映し出してしまうシーンで彼がカメラを回す事に躊躇いが出てきてしまう。

それでも高校最後の「おさぼり日」の記録映像でいじめっ子を美しく撮った後のロッカーの前での対話シーンが凄く見応えがあった。
個人的にはここでの対話がこの映画で一番面白いシーンだと思う。

例えどんな人間性があったとしても映像に映し出された被写体として素晴らしいと、それに逆らって撮る事が出来ない映像作家としての切実さと、正しくはないかもしれないけどやはり出来た映像を観ているこちらもそれを美しく感じてしまう歪み。
 全てをひっくるめて、この映画で言う所の「芸術」の面白さの部分が上手く言えないけど、すごくグッときてしまった。

スピルバーグ作品の連なり

演出力の高さは流石は巨匠という感じで、どのカットも美しい。
そしてこれまでの名作スピルバーグ映画を連想する様なシーンの入れ方も面白かった。

「プライベートライアン」の原形の様な戦争映画撮影シーン、「レイダース」に出てきてたっぽいペットのお猿さん、兄妹達と母親との関係性とかは「E・T」も連想した。

もちろん僕がスピルバーグ映画で大好きな、ちょっとやり過ぎじゃない?と思うゴア描写や暴力表現の真髄になる「地上最大のショウ」という作品から受けた衝撃を自分でも表現したい試行錯誤のシーンはとても面白い。
その後も取り憑かれた様に暴力的な自主映画を撮っていて、その延長線上に僕の好きなジョーズやインディジョーンズシリーズやプライベートライアン等に繋がってくると思うと、感動してしまった。

出ている役者さんも当たり前だけど全員素晴らしかった。

主役のガブリエル・ラベルのヒョロっとした雰囲気は若いスピルバーグとして説得力が高い。
ちょっと「キャプテンアメリカファーストアベンジャー」の投薬前の細いクリス・エヴァンスに似てる気がした。

アカデミー賞にもノミネートされたミシェル・ウィリアムズの母親の存在感は圧巻だしほぼ主役では?という華があった。
それに対して良い人なんだけど、母親や息子のやる事に理解があんまりないポール・ダノの父親役も絶品。ラストの写真見た時の表情がめちゃくちゃ良かったなぁ、、、。

あとセス・ローゲンの憎めない愉快なおじさん役が最高。サミーへカメラを渡す所のあんまり何も分かってない感じだし、サミーから見たらデリカシーがなく見えるのだろうけど、彼の根明さが決して折れずに結果的にサミーの背中を押す様な流れになっていくのがとても素晴らしかった。

ガールフレンドのモニカ役のクロエ・イーストも凄くチャーミングだった。
彼女と良い仲になるエピソードとかめちゃくちゃ都合の良い感じだけど、とても魅力的なので気にならないバランス。
プロポーズして振られた別れ際の「そんな夢みたいな事言ってないで頑張って!」みたいなサバサバしたやりとりは笑った。
彼女とのエピソードは実話にしては夢みたいな感じで、真実じゃなくこれも今のスピルバーグが思い返した「記憶」の彼女だと思うとちょっと切なくなる。

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