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【詩】小さき者に手を引かれ

「台湾の人が優しいのは、
日本人が良いことしたからやで」
無邪気に語る関西弁で
国の闇を疑うことなく
君が淹れた台湾茶は、不安の香り
統治された歴史の香りから漂うのは
否応なく植え付けられた
日の本への親しみと哀愁

その香りの悲しみ知らぬ君は
私利私欲にまみれ、漢字も読めずに
国民にマスクを配った男にも
「いいところがある」と言うのだね
私が君に理性的になる助けを得るために
収めた年貢で宴を開き、選挙妨害した男にも
「良いところがあった」と言うのだね

そんな君住む街で
飲み水に混じるPFOSは
愛国心と忠誠心への贈り物
不安のなかで、自分を見失いかけても
理性を取り戻そうと、もがく私に
冷水をかける国からの贈り物

それでも柴又の女流しは
自分の選んだ茶であれば
誰の命も踏みつけないと
本気で信じているらしい

そんな現実に絶望し
君と大切に醸してきた茶葉をばら撒いて
命を守ることすら叶わないことに落胆する私の手を
今日も、子どもたちが引っ張っていく

銃弾に倒れたマスク男が
君の首にかけた首輪と
私の足にかけた足枷と
柴又の女流しにかけた手綱

それら全てのしがらみ断ち切り
この小さな手に引っ張られ
どこまでも遠くまで海岸線を
走っていきたい

かろうじて残っている
この国の小さな生と希望の為に


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