体温

身近な人が、理由も告げずに心を閉ざしてしまったとき、
傍で見ていながら気がつけなかったあなたは、
心を閉ざすまでになってしまったのは、
自分のせいだと思ってしまうかもしれません。
あれこれと、思い当たる理由を探しては反省して、謝罪もして、
それでも変わらない様子だったとき、あなたはまた何度も自分を責めるのでしょう。

ですが、もしかしたら、それは性急な考え方かもしれません。
そのような状態に陥っているとき、あなたは相手のことを考えているようで、
自分のことばかりが頭にありませんか。
「私が傷つけてしまった」「私が悲しませてしまった」…と、
主語が「私」になってはいませんか。
相手のことを一所懸命に考えていればこそのことと十分に理解いたしますが、
「私」を主語にしたままでは、相手の気持ちなど、いつまで経っても分かりません。

本当に理由は、自分にあるのでしょうか。
そもそも、原因は、一つなのでしょうか。

誰が悪いとか、責任が誰にあるとかは一度置いておいて、
何も言わずに、心を閉ざしてしまったその人の手を握ってみてください。
肩を抱いてみてください。
抱きしめてみてください。
泣いていたらば、ハンカチを差し出してみてください。
まずはそこからだと、私は思います。

ここまで言い切るのには、当然理由があります。
私はそれらのことで、気持ちがスッと軽くなったことがあるからです。
何度も、認められたような気持ちになり、救われてきたからです。

正直、深く傷を負い、心を閉ざしているときには
誰の言葉も耳に届きにくいのです。
後になって反芻すると、改めて慰めの言葉たちに救われるのですが、
苦しみや孤独の真っ只中にいるときは、そうはいきません。
卑屈になり、端から受け取れないこともありますが、
受け取れたとしても、聞き入れることができない場合もあります。
もらった言葉を、自分の中に落とし込むことができないのです。

それでも、手を握られると、肩を抱かれたり、抱きしめられたりすると、
途端に荒んでいた気持ちが和らぐ思いがします。
トゲトゲしかった心が、次第に鋭利な部分を隠すようになります。

話を聞くのは、それからでもいいかもしれません。
どうか焦らず、まずはこちらが、あなたを救いたい思いでいるという
意思表示を、言葉ではない方法で示してみてください。

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