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謝ることができない友人A to B【小説】#2000字のドラマ

俺の友人Aは謝ることができない。

待ち合わせに遅刻しても、遊ぶ約束を忘れても、貸した漫画にコーヒーをかけても謝らない。

「気にすんなよ」

気にするに決まっている。この漫画、初版で集めていたのにお前が汚した1巻だけ第六版になった。

「俺とお前の仲だろ」

大学で一緒のゼミになっただけ。ノートを一方的に貸す関係から、飲みに行くレベルになっただけ。

「それよりもさあ」

都合が悪いと話をはぐらかす。そして、問い詰めると黙る。

しおらしくなるのも一時で、すぐに元の調子に戻る。

なんでこんなヤツと友達をやっているんだって思うが、顔だけはいい。女が寄ってくる。そこだけは認める。

だが、今回ばかりは言わせてやる。

「俺の彼女と浮気しただろ」

「えっ? なんの話だよ」

聞いた瞬間、友人Aは動揺したが、案の定とぼけた。

俺の部屋に友人Aを呼び出し、一缶だけチューハイを飲ませていた。

「チャットのスクショあるんだけど、それでも嘘つくのか」

「いや……」

「なんか言うことあるよな」

「お前のことで相談されただけだって」

「ベッドで裸になって相談することってなんだ」

俺はスマホを取り出して、友人AとBがベッドでイチャつく動画を見せる。

「それは……。1回だけな」

「認めるんだな。なんかあるだろ、俺に言うこと!」

「………」

「あるだろうが! こら!!」

友人Aに掴みかかろうとするが、その瞬間に壁をドンっと叩かれ、2人でビクっと肩を震わせた。この部屋は壁が薄い。

何とも言えない雰囲気だが、こいつはたぶん黙ったままなので、もうひとりの当事者を呼ぶことにする。

俺はスマホで垂れ流されていた動画を止め、友人Bを呼びだした。

俺の友人Bも謝ることができない。

冷蔵庫のデザートを勝手に食べても、デートの約束をすっぽかしても、精魂込めて育てた生デニムを勝手に洗濯したとしても謝らない。

「あんなところに置くのが悪い」

デザートにしてもデニムにしてもそうだが、事前に食べるな、洗うなと伝えてある。優しめの口調で。

「そんなこと聞いてない」

こういうことを言われるので、チャットアプリでコメントを残すようにした。それを見せると友人Bは決まって不機嫌になる。

なお、友人B=彼女だが、浮気によって俺の中では彼女からセフレに格下げされている。

なんで付き合っているかだって。顔がいいからだよ。

部屋のドアが開き、眠そうな顔をして友人Bが現れた。

「もう話終わった?」

「終わったじゃねえだろ。こいつも認めたぞ、浮気」

友人Aを見ると、チューハイ缶に口をつけてこっちを見ていた。のんきに飲んでるんじゃねえよ、この野郎。

「私も飲んでいい? あっ、おつまみもあるし」

「お前らさ、マジで何考えてんの。ありえないんだけど」

「何怒ってんの。一回くらい別にいいでしょ、あんただって女の子と遊んでんだし」

「はあ? 俺がいつどこで遊んだんだよ。言ってみろよ!」

「チャットしても既読つかないし、やましいことしてないなら返信くらいするよね、普通は」

「おい、あんまり大きい声出すとまた壁ドンされるぞ」

なんで、お前が冷静にそれを言うんだよ。俺は怒りを通り越して、気力を無くしかけていた。

「いやさ、お前ら俺に何か言うことあるよな」

「何よ……」

「………」

「浮気したことどう思ってるの? 俺は傷ついています! それを見て何も思わないんですか?!」

全員、黙る。友人Aに貸した漫画ならカラスが………を出しながら飛んでいるような状況だ。

こいつら謝ったら死ぬのか。

「もういいわ、ちょっと頭冷やしてくる」

俺は部屋を出て、マンションの階段を駆け下りていった。

街灯がともった暗い夜道を歩きながら、クッソクッソと呟く。浮気されたことが悔しいのではない。

計画が破綻したことが問題なのだ。

謝らない友人Aと友人Bに対して、嫌気がさしていた俺はあることを思いついた。こいつらが浮気するようにけしかけ、その証拠を押さえればさすがに謝罪するだろうという計画だ。

最初に俺が友人AにBを彼女だと紹介する。友人Aといる時はBの愚痴を言って仲の悪さをアピールし、友人Bとはなるべく疎遠になるように過ごした。

こいつらは謝ることができないだけでなく、貞操観念も低い。すぐに俺が思い描く状況になった。しかし、結果はこの様だ。

俺はこの時、まともな思考じゃなかった。

部屋に帰ってどうやって謝らせるか、だけを考えていた。

目の前を確認する余裕がなく、俺は車に轢かれて意識を無くした。

―――

長い夢を見ていた。

浮気をけしかけて成功して、あいつらは謝らなくて、それから――

目を開けると、病室にいた。全身が痛い。

辛うじて首を動かせたので横を向くと、床頭台があった。台の上には新品の生デニム、友人Aがコーヒーをこぼしたあの漫画が置かれている。表紙の古さからして初版だと思われる。

俺は歓喜した。

自身が助かったことよりも、ダメにされたデニムや漫画があることよりも、この事故に責任を感じて友人Aと友人Bが謝罪をするのではないか、ということにだ。

病室の外で男女のしゃべり声が聞こえる。ドアが開き、その声が大きくなる。

ああ、頼む。

これで謝罪が聞けないのなら、俺はもう死ぬしかない。

#2000字のドラマ


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