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「悪魔の王を復活させよ」と聞こえる【短編小説】サクッとショートショート!

「悪魔の王を復活させよ」と突然、頭の中で声が聞こえた。

最初は空耳かなと気にも止めていなかったが、その声は次の日にも頭の中で聞こえて来た。

それが毎日毎日と聞こえるので、私はノイローゼ気味になってしまった。

私は精神に異常を起こしてしまったのかと思い、市内にある心療内科に受診しに行った。

精神科医の先生は私の話を真剣に聞いてくれたが、具体的なアドバイスはもらえなかった。

代わりに精神を安定できる薬をもらい、それを飲んで様子をみるように言われた。

家に帰宅し、夕食後に処方された薬を飲んだが、あまり気持ちは晴れなかった。

それどころか以前よりも頭の中で「悪魔の王を復活させよ」と聞こえる回数が増えて、私はますます感情が沈み狂いそうになった。


―――そして一ヶ月が経過した。

私は仕事を辞め、家の中で引きこもり、頭の中で聞こえる声に怯え暮らしている。

心配した両親は、霊媒師と自称している人物を3人も呼んだが、意味不明な怪しげな儀式を私の前で繰り広げただけで、私の頭の中で聞こえる声はいっこうに消えなかった。

そのうち、私はこんな苦しい思いから開放されるなら何でもする覚悟になっていった。

そして頭の中で聞こえる声の言うとおりに『悪魔の王』の復活をさせようと考えた。

しかし、どうすれば悪魔の王を復活させれば良いのかがわからない。

頭の中で「どうすれば、悪魔の王を復活させることができますか?」「私は何をすればいいですか?」など問いかけても、頭の声はいつものように「悪魔の王を復活させよ」としか答えてくれない。

とにかく何かしなければ、この苦痛から逃れられないと思った私は、『悪魔の王の復活』に関する情報を、ネットや書物から手当たり次第調べまくった。

気づいたことは、国や地域など様々な環境で、悪魔というものはその存在の表現が違うということだ。

とくに悪魔の王となると更に様々な表現の仕方がある。

私の頭の中で聞こえる悪魔の王とは、一体どの悪魔の王のことを言っているのか……。

そして、その悪魔の王をどのように復活させれば良いのか……。

結局、私の情報収集能力では解決方法は見つからなかった。

私は八方塞がりになり、もう生きる気力がなくなりました。

この永遠と続く苦しみから逃れられるなら、私はもう生きることを辞めようと決断した。

心身ともに疲弊した私は判断能力も低下していて、自殺することもあまり深く考えられなくなっていた。

ただ毎日続く、この意味不明な謎の声から逃れるなら、生きることから逃避したかった。

フラフラと誰もいない真夜中の街を歩く。

そして高いビルの非常階段を、カツンカツンとゆっくりと階段を一段一段登る。

最上階までは、すぐに着いたような、そこまでたどり着くのが永遠だったかのような曖昧な感じだったが、最終的には非常階段の一番上まで到達した。

下を覗くと、かなり高くまで登ったのがわかる。

そして私は階段の手すりに足をかけ、その勢いで手すりによじ登った。

手すりの上に両足で立ち、右手は階段の細い柱を握った状態だ。

その右手を離し、体を前方に軽く倒すだけで、私は落下し簡単に自殺ができる。

こんな状況でも『死ぬ』ということへの恐怖心はなかった。

とにかくこの苦痛から開放されたいという感情が更に強くなり、私は何の躊躇もなく右手を離した。

体は全方へと倒れて行き、頭部が真下になって落下していった。

落下時間は短いものだったが、両親や友人との記憶が頭の中で流れた。

しかし、それと同時に頭の中では「悪魔の王を復活させよ」という声が、連呼して聞こえてくる。

私はこの声から開放されるなら、早く死んで楽になりたいと強く思った。

その瞬間、私の意識が遠のいた。

多分、私の体は頭から落ちて、落下死したのだろう。

やっと私の願いが叶った。

『死』にたいという願いが……。



女の死体から、黒いモヤのようなものが噴出した。

そのモヤは徐々に集まると人の形へと形状を変えた。

それが悪魔の王であった。

悪魔の王は地上を焼け野原にすると、全ての生命の命と魂を奪った。

地上は砂と灰だけの大地になり、海や湖は灼熱の業火で蒸発し、地球は死の星へと変わった。

悪魔の王は、その死の星に変わった地球の最後の生命体となった。

悪魔の王は大きな岩に腰を降ろし、夜空を悲しい顔で眺めていた。


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